2006年1月31日(火)「しんぶん赤旗」
天皇の靖国参拝求めた
外相発言の波紋
首相参拝が「露払い」役
“靖国史観を国論に”の狙い
麻生太郎外相が二十八日に名古屋市内で行った講演で、「英霊の方からしてみると、天皇陛下のために『万歳』と言ったんであって『総理万歳』と言った人はゼロ。だったら天皇陛下の参拝が一番なんだ」と発言したことが新たな波紋を呼んでいます。
■靖国派の願望
「首相参拝から天皇親拝の実現を」というのは靖国派の強い願望であり、侵略戦争肯定の歴史観を国家公認にするための基本戦略です。
靖国神社の戦争博物館・遊就館内に事務所がある「英霊にこたえる会」は一九九九年、「(国会、内閣、裁判所)三権の長等の靖国神社公式参拝に関する請願書」を採択しました。そのなかで「靖国神社への(天皇)御親拝を閉ざしているのは、歴代内閣総理大臣の…不決断にある」とのべ、「首相の公式参拝」が「天皇親拝」実現へ向けた「露払い」の役割を果たすものであることを明確にしています。小泉純一郎首相の靖国参拝は、この要求を受け入れ、呼応する形で始まったのです。
また、同会作成のビデオ「君にめぐりあいたい」では、「内閣総理大臣ならびに全閣僚、三権の長、そして天皇陛下がご参拝になられて、英霊の御霊(みたま)は鎮まり全国のご遺族のお気持ちは安まる」とのべています。
「靖国神社参拝」を天皇を含む国家機関のすべての代表者が参加する国家行事へと発展させ、「日本の戦争は正しかった」という戦争観を、公認の日本の国論にするという狙いがそこに込められています。日本が侵略戦争に突き進む原動力となった「皇国史観」の復活です。
中国国営の新華社通信は二十九日、「麻生太郎の講演は日本の極右勢力の立場を代表したものだ」と厳しく批判したと伝えられています(「東京」三十日付)。新華社のみならず、世界がこうした動きを容認できないのは当然で、さらに強い反発は必至です。
■エスカレート
麻生氏は同講演後、「遊就館の展示は中国から見れば問題があるのでは」との質問に対し、「中国が言えば言うだけ、行かざるを得なくなる。『たばこ吸うな』と言われたら吸いたくなるのと同じだ」などとものべ、中国の圧力に原因があるかのような責任転嫁を図りました。
外交の責任者が、異常な発言をくり返し、エスカレートさせながら、日本の感情的ナショナリズムに訴えようとする極めて危険な傾向です。
麻生氏は、右翼改憲団体・日本会議と連携する日本会議国会議員懇談会の会長を務めていました。自らの右翼的信条と日本外交の責任者である外相という職務とを区別することもできずに、国益を損なう言動をくり返すことは容認できません。任命権者である首相の責任も重大です。(中祖寅一)