2006年2月4日(土)「しんぶん赤旗」

主張

石綿法案

被害者救済は始まったばかり


 石綿(アスベスト)による健康被害の救済法が成立しました。

 工場周辺の住民や従業員の家族など、労災保険制度で補償が受けられない石綿被害者に、医療費・療養手当を支給し、遺族には弔慰金を支給します。救済の一歩とはいえ、被害の実態に照らし、中身はきわめて不十分です。

■被害実態に照らし不十分

 労災に認められている遺族にたいする年金や就学援護費、被害者の生活補償が救済法にはありません。

 対象となる疾病についても、中皮腫(ちゅうひしゅ)、肺がんに限定しています。労災では、二疾病に石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水を加え、五疾病を補償の対象としています。

 石綿被害が周辺住民にも広がっている兵庫県尼崎市の石綿検診によると、石綿の製造・使用の職業歴のない人々にも、胸膜肥厚、胸水といった病変が多数みられます。

 中皮腫と肺がんだけに限定すれば救済されない被害者が生まれます。

 政府が、“すき間のないとりくみ”というなら、労災で認められている五疾病を対象とするのは当然です。

 迅速な救済―。政府はこう強調してきました。大手機械メーカー「クボタ」の旧工場(兵庫県尼崎市)周辺での深刻な被害が昨年六月に明らかになって以来、七カ月での救済法の成立で、一件落着をはかろうとしています。しかし、その背景には、国の行政責任、「クボタ」のような石綿使用で大きな利益をあげてきた大企業の加害責任を不問にしたままで、決着をはかろうとするねらいがあります。

 政府は、早くから、石綿の危険性について、認識をしてきました。閣議決定された答弁書で、「昭和四十七年(一九七二年)に国際労働機関と世界保健機関の国際がん研究機関がそれぞれ石綿のがん原生を認めたことにより国際的な知見が確立したものと考えており、労働省としても、その頃(ころ)に石綿のがん原生を認識したものと考えている」とのべています。

 ところが、石綿の製造・使用の禁止は、それからずっと遅れ、“クボタショック”といわれる事態になって、ようやく〇六年度中に全面禁止と決まったのです。

 早くから危険性を認識しながら、対策をとってこなかった政府の行政責任は明らかです。にもかかわらず、政府は、「行政の不作為があったということはできない」と責任逃れをしたままです。

 加害企業との因果関係についても、政府と自治体(尼崎市)による調査が三月末までには終えることになっています。

 “迅速”という言葉で、政府の行政責任と大企業の加害責任を、あいまいにしてはなりません。

 救済の財源として、地方自治体の負担を求めていますが、石綿の製造・使用の規制を怠ってきた責任は国にあります。自治体が新たな負担に反発しているのは当然です。

■国と加害大企業の責任で

 石綿対策は、ようやく始まったばかりです。中皮腫ひとつとっても、死亡した人のうち、労災認定数はわずか6%です。石綿被害であることがわからないまま、多くの人が無念のうちになくなっています。

 被害の実相をあきらかにすること、健康診断を無料でうけられるようにすることが急がれます。

 救済法は、五年以内の見直しをもりこんでいます。日本共産党は、すべての被害者を、国と加害大企業の責任で救済するために、引き続き力をつくします。


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