2006年2月12日(日)「しんぶん赤旗」
政府・自民 「改革」の害悪否定に懸命だが
「格差が出ることは別に悪いこととは思っていない」(一日の参院予算委員会)と開き直る小泉純一郎首相。首相側近の自民党・中川秀直政調会長も「改革の加速こそ諸問題の唯一の解決方法」(六日の衆院予算委員会)と“攻勢”に出ようといろんな数字を示しています。その主張を検証してみると――。
■「正社員が拡大」?
■増えたのは派遣・請負
中川政調会長は、厚生労働省の毎月勤労統計の速報値を示し、「ついに八年ぶりに正社員は増加した」「ようやくこの改革によって正規雇用拡大の光が見えてきた」と胸を張り、「格差是正の観点からも、ここで改革をとめるのは愚の骨頂」と言いきりました。
本紙七日付で明らかにしたように、中川氏の示した毎月勤労統計は、労働者をパートと一般労働者(フルタイム)にしかわけていません。一般労働者のなかには派遣・請負労働者や長時間のアルバイトも含まれます。増えているのは、この非正規雇用の部分です。「正社員が増えた」というのは数字のごまかしです。
国内最大の求人数を持つハローワーク新宿の職員は「正社員の職を求める人が多いが、求人は非正規が増えているため雇用のミスマッチがおきている」と話します。
総務省の労働力調査でも、二〇〇五年(九月まで)も正社員は減少し、非正規労働者は過去最高を更新しました。非正規労働者のなかではパート・アルバイトの伸びが鈍り、派遣・請負が増えています。(グラフ)
小泉内閣は、一九九九年以降も禁止されていた製造業での労働者派遣を解禁(〇四年)し、期限付き労働契約も一年から三年に延長しました(〇三年)。労働者派遣会社でつくる日本人材派遣協会は、〇五年も派遣労働者は10%増加し、とくに製造業では五割増えたと業績好調をアピールしています。
政府・与党が正社員を減らす労働分野の規制緩和を進めながら、その成果で「正社員が増えた」などというのは支離滅裂です。
■若年層の雇用は?
■格差広げた小泉「改革」
小泉首相は「フリーター、ニートなど若年層の非正規化や未就業の増加」は「将来の格差拡大につながるおそれがある」とのべ、若者の雇用問題が放置できないことを認めました。しかし、ニートを「待ち組」(二日のメールマガジン)などと呼び、若者に「自立」や「挑戦」を求めるだけで、有効な対策は示せていません。
若者の雇用問題は、首相のいう「将来」の問題ではありません。格差の拡大と固定化は現実に進行中です。
製造現場にひろがる請負は数カ月単位の短期契約を繰り返し、正社員と同じ仕事でも賃金は三分の一程度です。かつて例外的だった派遣労働は今やほとんどの業種に拡大し、「新卒派遣」も増えています。フリーターのまま三十代に突入する中高年フリーターの増大も指摘されているのです。
若者雇用が悪化した最大の原因は、財界が人件費の負担を嫌い、安くて使い勝手のよい不安定雇用を大量に求めたことです。それに応え、政府も労働分野での規制を次々と緩和してきました。アルバイト、パート、派遣、請負などは、この間若年層で急増。二十四歳以下では46%(〇五年)と、二人に一人が非正規雇用です。経済産業省は、この非正規雇用が今後も増え続け、二〇二五年には全体で約四割に達すると試算しています。
小泉首相自身、「二、三年の期限付きの雇用ができたり、社員の解雇をしやすくしたりすれば、企業はもっと人を雇う」(「朝日」〇一年五月十一日)とのべ、規制緩和の旗を振ってきました。公明新聞(六日付)すら「非正規雇用の拡大にインセンティブ(誘因)を与えている現行の労働法制の見直し」をいわざるをえないほど、政府の責任は明白です。
「改革」の名による規制緩和路線をこのまま突き進めば、若年層での格差がいっそう拡大し、それが固定化していくことは避けられません。
■とまらぬ「地域格差」
■43道府県で「財政悪化」
中川政調会長は地域格差について、「地方にできることは地方へという改革をさらに加速させることによって本格的な解決をめざすべきだ」と述べました。
しかし、小泉政権の「三位一体改革」は、税源の一部を地方に移すのとひきかえに、国の補助金を縮小・廃止し、地方自治体ごとの財政力の差を調整する地方交付税を削減しました。その結果を、このほど発表された〇四年度地方公共団体決算の概要が端的に示しています。
〇四年度は地方交付税を二兆五千億円削減しました。総務省は、その結果「財政構造に大きな相違」が生まれ「四都府県(東京、神奈川、愛知、大阪)では財政構造に改善の兆し。四都府県以外では財政構造が悪化」と総括しています。四都府県が積立金を増やしたのと対照的に、それ以外の道府県は積立金を取り崩しました。(表)
二階俊博経済産業相でさえ「改革の最中にも地域格差は歴然としている」と嘆くほどです。
野村証券金融経済研究所の今後五年間の中期経済予測によると「三位一体改革」で地方の経済力や行政サービスの格差が広がり、よりよいサービスを求めて首都圏と中京圏への人口移動がすすむことによって、ますます地域格差が広がると予測しています。
中川氏は「改革をさらに加速させることで地域が新たな成長戦略に取り組めるようにしていく」と言います。しかし、実態は「国がすべての地域差を埋めていくことはできない」(「日経」八日付)として「地方の知恵と自助努力」に任せる無責任なものです。
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