2006年2月16日(木)「しんぶん赤旗」
一人は万人のために…の言葉の由来は?
〈問い〉 「一人は万人のために、万人は一人のために」の言葉が好きですが、語源、由来を教えてください。(東京・一読者)
〈答え〉この言葉は、古代ゲルマン人の昔からの言い伝えであって、特定の賢人が考えだした標語ではないとみられ、航海する船の人たちの助け合いに由来するという説もあります。文献では早くは、フランスの作家、アレクサンドル・デュマの『三銃士』(1844年)にみられ、銃士たちの友情を表すモットーとされています。1823年に英国のラグビー校で始まったとされるラグビーの精神もこの言葉でいまに引き継がれています。これらからみて、ヨーロッパではかなり前から広く使われていたと考えられます。
18世紀末から産業革命が進行して資本主義社会の矛盾が現出するとともに、さまざまな社会思想が生まれます。この言葉もそのなかに援用されていったようで、協同組合運動の創始者オーエンの影響を受けた仏のユートピアン、カベは『イカリア旅行記』に明記しています。経済学者の服部文男氏は、同旅行記の第3版(1845年)の表紙と扉の両方に、「万人は各人のために、各人は万人のために」の標語がみられると指摘し、「結論的には…表紙と扉という、いちばん人の目につきやすいところに印刷されたのがこの標語の初出ですから、これが流布したのではないか」といっています。
協同組合運動では、ドイツ農協運動の父とされるライファイゼンが『信用組合論』第2版序文(1872年)に使ったのが由来といわれています。
標語の各国語訳とも関連して、服部知治氏は、イギリスの協同組合卸売連合会編の1930年版『人民年鑑』に「ひとりひとりはみんなのために、みんなはひとりひとりのために」(Each for All and All for Each)と記されていることを紹介し、「国際的には『各人』か『一人』かの概念が一致しないままで併記されており、この標語が社会思想としてはまだ十分に吟味されていないように思われる」といっています。しかし現在では、「One for all…」は「Each for All…」と同義として、生協やJA、保険業界はじめ、インターネット上の検索でも数多くのヒットがあるほどにふつうに使われています。(喜)
〈参考〉『日本の科学者』86年9月号、同87年2月号「談話室」服部知治、副島種典の文、服部文男著『マルクス探索』(新日本出版社)、加藤整著『協同組合のルーツを探る』(コープこうべ・生協研究機構)、『協同組合事典』(家の光協会)
〔2006・2・16(木)〕