2006年2月20日(月)「しんぶん赤旗」
米で拡大“日中懸念”
靖国は「国際秩序の問題」
シンクタンク勉強会
米国では今、悪化する日中関係への懸念が急速に高まっています。それにともなって、原因となっている靖国問題や日本の過去の戦争観に識者の注意が向けられるようになっています。ワシントンに拠点を置く各シンクタンク(研究機関)では、この問題の認識を深め今後を探ろうと相次いで勉強会が開かれています。(ワシントン=鎌塚由美)
「日本の右翼政治家たちは、近隣諸国の人々を攻撃する危険な習慣をつくっている」(ボストン・グローブ紙)
「侵略戦争を正当化する扇動的な発言は誠実でも賢明でもない」(ニューヨーク・タイムズ紙)
米国の有力新聞が、最近相次いで麻生外相の発言をとりあげて、「日本外交の異常」を指摘する社説を掲げました。
実際、昨年五月以降、靖国神社の戦争博物館「遊就館」が過去の日本の戦争をすべて正当化する主張を流していることが米紙で相次いで報じられて以来、日中問題にたいする米国の見方は一変し、関心が高まっています。
ワシントンにある有力シンクタンクの一つ、ブルッキングス研究所が十五日に開いた「中日関係 二〇〇六年とそれ以降」と題した講演会も、そうした空気の反映でした。
同研究所で客員研究員を務める楊伯江氏(中国現代国際問題研究所の日本研究所所長)が講演し、さまざまな角度から日中関係の現状分析を披露しました。
注目されたのは「両国の関係改善に米国はどのような役割が果たせるか」との参加者からの問いでした。同氏は、悪化の原因となっている靖国問題は「戦後の国際秩序にかかわる問題であり、参拝は東京裁判に対し日本の指導者がどういう見方を持っているかと結びついている」と述べました。
靖国問題が中国と日本の問題だけではなく、国際社会の秩序についての問題であることを指摘したもので、同氏はその上にたって事態の改善に米国が積極的にかかわるよう提案しました。
勉強会には、米政府や議会関係者も出席していただけに、具体的な方策も議論されました。一月に訪中したゼーリック米国務副長官が推進の立場を表明している日・米・韓・中の歴史研究者が参加する合同委員会の設立構想についてのやりとりもありました。
これに先立ってアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)でも十三日、「険悪な関係 日中関係の先行き」と題するシンポが開かれました。AEIは、イラク戦争を推進した右翼ネオコン(新保守主義者)の牙城で、第一次ブッシュ政権の外交政策の柱を立てた人々の出身母体です。いわばブッシュ政権のおひざ元で、こちらでは日本政府の立場を聞こうと外務省の千葉明・国際報道官を迎えました。
千葉氏は、約四十分にわたり講演しました。日中関係の問題は両国の文化の違いによる「誤解」が原因で、日中には宗教観、生死観の違いがあると説明しました。
米国のパネリストからは、原因についての踏み込んだ発言はありませんでしたが、「日中関係の悪化は米国の利益を危険にさらす可能性がある」(アーミテージ・インターナショナルのランドル・シュライバー氏)との懸念が表明されました。