2006年3月4日(土)「しんぶん赤旗」
主張
岩国市の住民投票
憲法ゆがめる「専管事項」論
米空母艦載機部隊の岩国基地移駐の賛否を問う岩国市の住民投票が五日告示されます(十二日投票)。
岩国市と市民の多くは、現在でも岩国基地あるがゆえの耐え難い苦痛をさらに増幅させる基地再編の押し付けに反対しています。住民投票は、この市民の思いを日米両政府にはっきり示す絶好の機会です。住民投票の成功は、地方犠牲の小泉政治への痛烈な批判にもなります。
住民の平和的生存権
一部に「国防は国の専管事項」であり、「住民投票になじまない」という声があります。生活と安全が脅かされても政府決定に従えというのは、憲法もゆがめる暴論です。
政府は、岩国基地に厚木基地(神奈川県)から空母艦載機五十七機と千六百人の兵員を移駐させる計画です。岩国基地は、米軍機百機以上、兵員約五千人の国内最大規模の基地に変わります。
空母への離着艦能力を維持・向上させるための昼夜を問わない地上離着陸訓練の増加は避けられず、生活の平穏をますます脅かします。米軍機が増えれば墜落の危険もより大きくなります。米兵が増えれば、横須賀市で女性が殺害されたように、米軍の凶悪犯罪が増えるのは必至です。これ以上耐えられないという市民の怒りは当然です。
そもそも岩国市議会が、一九六八年六月に岩国基地沖合移設促進決議を採択したのは、米軍のF4ファントムが九州大学構内に墜落したため、「航空機墜落等の危険性や騒音による日常生活上の障害等の軽減又は除去を図る」(山口県「岩国基地の沖合移設」)ためでした。政府も沖合移設は「騒音軽減のため」と説明してきました。政府が空母艦載機部隊の移駐を決めたことは、経過も岩国市民の願いも無視する暴挙です。市と住民が一体となって抗議し、再編計画断念を要求するのは当然です。
防衛施設庁は、騒音が市民に影響しないかのように描いた航空機騒音予測図を示しました。これ自体疑問だらけですが、「周辺事態」などアメリカの有事を「想定していない」(防衛施設庁)のも重大です。米軍はアメリカ有事には勝手放題に基地を使います。日本政府は「周辺事態法」などでそれを保障しています。こうした事実を隠すのは、市民だましであって、許すことはできません。
朝鮮戦争(五〇―五三年)では、岩国基地から「毎日のように前線支援のため発進」(岩国市『基地と岩国』)し、軍用機が民家に墜落し幼児など三人が死亡した事故もおきました。政府は、二度とこうしたことをくりかえさせたくないという市民の願いにこたえるべきです。
「国の専管事項」をもちだし住民の投票行動をおさえるのは誤りです。
憲法が明記する地方自治の原則は、国民・住民の基本的人権の保障が目的です。「平和のうちに生存する権利」(憲法前文)は、「平和のうちに生存する」住民の権利でもあります。住民投票はこの権利を守るための活動です。政府がその結果を尊重するのは憲法上の責務です。
「強制ノー」の審判を
額賀防衛庁長官は、「住民投票の結果がでてから判断する」といいながら「国家・国民の安全、地域の安定のためにやらなければならないことはやっていかなければならない」(二月二十一日)とのべました。アメリカのためには国民・市民の意思をふみつけにする理不尽な態度を許すわけにはいきません。住民投票を成功させ、米軍再編を許さないの声を日米両政府につきつけましょう。