2006年3月11日(土)「しんぶん赤旗」

社会保険庁「改革」案

年金 政管健保 どうなる

保険料、地域間で格差

カード会社が取りたて


 公的年金や政府管掌健康保険(政管健保)を運営している社会保険庁の「改革」案が今国会で審議されます。年金改悪や保険料の浪費などで失った国民の信頼回復が目的のはずですが――。(深山直人)


 社会保険庁のありかたをめぐって国民の怒りを呼んだのは、年金保険料を大規模保養基地・グリーンピア建設や長官の交際費など給付以外の目的に流用していたことでした。

 ところが、政府案では特例にすぎない現行の保険料流用を「事務費」として恒久的に使えるようにします。企業との癒着が指摘されたコンピューター経費への支出もそのままです。政管健保でも「事務費」として保険料を流用できる仕組みを設けました。

 その一方で、政府案には、不信を招いた年金や健保をさらに悪くする内容が盛り込まれました。

12道県で値上げに

 その一つが、国の責任で運営している年金と医療(健保)を分離し、健保は各県単位で財政運営するという内容です。

 社会保険庁を廃止し、年金を運営する「ねんきん事業機構」と、政管健保を運営する「全国健康保険協会」に分離。政管健保は「非公務員型」の公法人として国から切り離してしまう計画です。

 これまで全国一本でやってきた政管健保は、各県の財政事情により保険料と給付の両面で格差が生じることになります。

 厚労省の試算では、全国どこでも同じ保険料率が、北海道8・7%から長野7・6%まで地域差が生じ、十二道県では値上げとなります。

 人件費や給付費の国庫補助(現在13%)も大幅縮小が予想され、給付削減や保険料率アップとなって跳ね返ってきます。

短期保険証だけに

 年金制度は改善しないまま保険料徴収を強めることを計画しています。

 保険料徴収の民間委託は「市場化テスト」(官民競争入札)のモデル事業として一部地域で実施していますが、これを大規模に実施します。

 保険料をカード会社が取り立てるクレジットカード払いの導入や、国保加入者で年金保険料の未納者には「短期保険証」しか出さない方針です。

 営利目的の民間会社が保険料を集めることになれば、実情を無視した厳しい取り立てが横行することになりかねません。

 個人情報が徴収業務に携わる民間企業に提供されるため、個人情報の漏えいなどプライバシーの侵害が危ぐされます。

 これには全国市長会や全国町村会も「混乱や収納率低下が懸念される」と声を上げています。

 職員にたいしても「民間企業的な人事・処遇制度」を導入し、徴収態勢を強める方針です。

 業務目標の達成度を五段階で評価し、昇格や給与に反映させるもので、保険料収納率が大きな評価基準。事務所長で十八万円(月額)、係長で十万円の格差が出ると試算されており、いっそうの“取り立て競争”に駆り立てる仕組みです。

図

1万人の人員削減

 公共サービスを企業のもうけ口に提供する一方で、七年間で非常勤も含めて一万人もの人員削減(現在約二万八千人)が計画されています。

 新組織発足のさい、条件を付けた「選別採用」や「分限免職」(解雇)をおこなう考えで、「業務目的外閲覧による処分を重視」として、処分ずみの年金情報閲覧を採用基準にすえる構えです。組織が改廃されても雇用は引き継がれるのが労働法規のルールであり、これを無視しています。

 ルール無視の分限免職まで出てきた背景には、自民党の「解体先にありき」の姿勢があります。

 自民党の厚生関係議員らは「年金不信は社会保険庁のせいだ」と責任転嫁し、「参院選は年金で負けた。業務外閲覧した者が新しい組織に移るのは問題」などと“解体”を叫んできました。

 しかし、「閣僚や議員の年金未納が発覚したことへの逆恨みといわれかねない」との声が党内から聞かれるなど、国民不在ぶりは隠せません。


 社会保険庁 政府が運営する政管健保・船員保険(加入者三千六百万人)、厚生年金(同三千二百万人)、国民年金(同三千三百万人)の適用や保険料徴収、給付などを担う厚労省の外局組織。政管健保は主に中小企業の従業員と家族が加入。


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