2006年3月27日(月)「しんぶん赤旗」

働く権利知らせる冊子

都道府県45%が作製

国の出先機関 労働局は17%のみ

本紙調査で明らかに


 一方的な解雇や長時間労働、サービス残業(ただ働き)の横行など、働くルールを無視した企業の違法行為が広がり、泣き寝入りしている労働者が少なくありません。働く権利を労働者に知らせることは、国や自治体など公的機関の大切な仕事の一つです。ところが、労働者や青年むけに働く権利を知らせる冊子類をつくっているのは、全都道府県の四割台、全労働局の一割台にすぎないことが本紙の調査で明らかになりました。


 調査は、四十七都道府県と厚生労働省の出先機関の四十七労働局すべてを対象に、(1)労働者むけに労働基準法をはじめ働く権利のあらましをまとめた冊子類を発行しているか(2)青年むけに同様の冊子類を発行しているかを問い合わせたもの。女性やパート、派遣、労働時間などに限定したものは除外しました。

 その結果、労働者むけ・青年むけのいずれかの冊子をつくっているのは二十一都道府県(45%)、八労働局(17%)にとどまりました。

 このうち、労働者むけを作製しているのは、十三都道府県、労働局では二局だけです。事業主むけの冊子を労働者にも活用しているなど不十分なものは、三府県、二十九局ありました。

 青年むけに働く権利を知らせる冊子を作製しているのは、十一府県、七労働局(うち三つは県・局などの共同作製)でした。多くが就職予定の高校生に配布しています。

 県・労働局ともいずれの冊子も発行していないのは七県ありました。

青年要求で実現例も

 青年むけ冊子は、日本共産党や民青同盟の要求で実現させたものもあります。徳島県では、昨年十二月に党県議が議会で要求し、青年むけパンフ『Q&A働くことの権利と義務』(A4判、25ページ)が五年ぶりに発行されました。新潟県では、昨年十一月に党と民青同盟が県に要請し、党県議が議会でも取り上げるなかで、初めて青年むけリーフレット『若者のための労働ワンポイント講座』(A4判、四ページ)がつくられています。

グラフ

希望を持って働く一歩に

 青年の労働実態をまとめた「青年雇用黒書」を県に示し、要求した民青同盟新潟県委員会・西澤博委員長の話 いま青年は派遣や請負など非正規雇用が広がり、使い捨てられています。違法・無法がまかり通っているのに、働く権利を知る機会がないため、「これがあたり前」「仕方がない」とあきらめている人が少なくありません。新潟で要求が実現してうれしい。リーフが希望をもって働く一歩になればと思います。来年度はさらによりよいものを求めていきたい。


憲法理念具体化した労働法

周知・徹底は国の責任

解説

 いま日本の労働者が働く環境は、戦後最悪といっていいひどい状況にあります。

 その最たる例が、行政の総合労働相談コーナーによせられた数が八十二万件(二〇〇四年度)を超え、過去最悪になったことです。多くが解雇、労働条件引き下げです。いまや青年雇用の中心的な働き方になりつつある派遣、請負労働の違法性も目にあまります。派遣事業所の法令違反は、東京で81%、愛知で88%という異常な高さです。

 違法なサービス残業(ただ働き)も依然として後を絶たず、告発されてやむなく企業が支払った額は、〇四年度までの四年間で六百十八億円にのぼっています。これはほんの氷山の一角です。

 こうした状況の背景には、効率化・高収益のために労働者を使い捨て、憲法も労働基準法も守ろうとしない企業のモラル低下があります。政府が財界の意向をうけ労働法制改悪をすすめたことが事態を悪化させました。労働組合組織率が過去最低(18%台)で、労働者の反撃力が弱まっていることも影響しています。

 資本主義社会では自由契約が原則ですが、労働者と使用者の関係についていえば、労働者が圧倒的に不利な立場です。自然の流れにまかせれば、企業の思うままに低賃金・長時間労働を押しつけられ、労働者が人間らしい生活をおくることはできなくなります。

 このようなことにならないように戦後の日本国憲法は、二五条(生存権)、二七条(勤労権)、二八条(団結権)などで、労働者の権利を明記し、さらに別に保護する法を定めました。労基法や職業安定法など労働法は、この憲法の基本理念を具体化し最低基準を示した重要なものです。

 それが労働者に十分に知らされず、企業によって無視され、違法・無法が横行しているのが、今日の状況です。

 労基法百五条二項は、同法を順守させるため、国は労働者と使用者に資料の提供など必要な援助をしなければならない、と明記しています。労働者が働く人の85%に及ぶ今日、労働法を職場のすみずみにまで根づかせることは、秩序ある社会を形成する基本的条件です。国は、あらゆる手だてを講じて周知、徹底する責任があるのです。

 自分にどんな権利があるのかを知らずに、ひどい仕打ちをうけている労働者が多い現状を一刻も早くなくすために、労働者に基本的な働くルールを知らせることは、とりわけ急がれます。現場からの要求運動も大切です。(畠山かほる)

表

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