2006年3月30日(木)「しんぶん赤旗」
高校教科書検定
侵略の実態あいまい
南京大虐殺など修正
二十九日に公表された高校教科書の検定結果。日本軍の加害責任をあいまいにし、「ジェンダー・フリー」は消えました。生徒の理解を深めるため工夫した記述も認められません。関係者からは現行の検定制度はやめるべきだとの声が出ています。
従軍慰安婦や南京大虐殺など侵略の実態を隠そうとする検定の背景には、侵略戦争を正当化する「新しい歴史教科書をつくる会」や自民党政治の教科書攻撃があります。
朝鮮人の強制連行について「拉致」という表現を使った教科書には、「強制連行の実態について誤解する」との検定意見がつき、この部分が削除されました。
従軍慰安婦や南京大虐殺の犠牲者数、強制連行についての教科書記述には「つくる会」が「自虐的」などと攻撃。一昨年は中山成彬文科大臣(当時)が「従軍慰安婦や強制連行などの言葉が減ってよかった」と発言するなど政府・自民党からの圧力も強まっていました。検定はこうした動きを受けてのものです。
今回、地理・歴史・現代社会・政経などの各教科書が「北方領土」、竹島、尖閣諸島など領土問題の記述を増やしました。これにかんして検定は「我が国固有の領土」であるとはっきり書くことなどを要求。修正は計二十九カ所にのぼりました。
ある日本史の教科書は、麻生太郎自民党政調会長(当時)が「創氏改名は朝鮮人が望んだ」と発言した問題を取り上げました。しかし、「誤解するおそれがある」と検定意見がつき、「一部政治家が、日本の朝鮮に対する支配を正当化する発言をおこない、批判を受けて謝罪した例がある」と、固有名詞をさけた記述に変えられました。
「現代社会」の記述で削除
「ジェンダー・フリー」
現代社会では二社の教科書が社会的に形成された性差(ジェンダー)に縛られないという意味で「ジェンダー・フリー」という言葉を使っていました。しかし「ジェンダーをめぐる動きについて誤解するおそれがある」などの検定意見がつき、いずれも削除されました。
「ジェンダー」という言葉自体は家庭科、現代社会、倫理などの多くの教科書に残りました。しかし、そこにも多くの検定意見がつきました。
ある家庭科教科書は「社会的・文化的性差(ジェンダー)によって『自分らしく』生きる権利が侵害されることもあった」という記述が検定によって書き直され、「ジェンダー」という言葉は注の中に入れられました。
家庭科教科書関係者は「『ジェンダー・フリー』という言葉を『新しい歴史教科書をつくる会』や自民党のタカ派の議員らが盛んに攻撃してきました。そうした圧力が検定に反映しています」と指摘します。
主観的な検定意見
関係者「現行制度やめよ」
今回の検定では、前回の検定で合格したものとまったく同じ記述に検定意見がついた例があります。また、違う科目の教科書に同じ内容の記述をしたところ、一方にだけ検定意見がつき、もう一方はそのまま合格した例もあるといいます。
出版労連教科書対策部の吉田典裕事務局長は「主観的に意見をつけたとしか思えない。検定を認めるものではないが、少なくとも客観性が保障されなければならないはず。制度の根幹にかかわる問題です」といいます。
しかも検定意見の通知はわずか二時間で行われます。ある家庭科教科書の関係者はいいます。
「意見は文書で出されますが、ほとんどが『理解しがたい表現である』『不適切である』といった内容。どこが理解しがたいのかわかりません。一時間で目を通し、あと一時間で調査官に質問しますが、百数十カ所もあるので詳しく聞く時間はありません」
結局一方的に意見の通知を受け、調査官の意図がどこにあるのか推し量りながら修正しているのが実態です。先の関係者は、高校生がさまざまな問題を自分のこととして考えたり、生活を社会や政治と結びつけてとらえるなど工夫した書き方をしても修正を求められるといい、「不合格にならないためには調査官に従わざるをえない。こんな検定はもうやめるべきです」と語っています。
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