2006年4月1日(土)「しんぶん赤旗」

新予防給付スタート

介護の現場は

「赤字覚悟」の施設も

サービスの質 低下も懸念


 改悪された介護保険法にともない、一日から、新しい「介護予防サービス」(新予防給付)がスタートしました。政府・厚労省は「予防重視」を盛んに宣伝しますが、現場からは「いままで利用していた訪問介護が受けられなくなる」「サービスの利用時間が短くなる」と不安の声が上がっています。(山岸嘉昭)


 埼玉県川口市のデイケアセンター「すこやか」。ベッドから起き上がる練習をした男性に「今日は調子いいわね」と声をかける女性職員。「なかなかうまくいかないわ」と言いながら、輪投げをするリハビリ中の女性。要支援から要介護5までの幅広い人が利用しています。一日平均約三十人が通い、軽い体操や歌の練習、歩行練習、器具を使ってのリハビリテーションなど一人ひとりの状況にあった介護サービスを提供しています。

見送り自治体1割

 四月から、「新予防給付」に対応するため、「予防介護通所リハビリ」を始めます。制度改悪によって、「要支援」「要介護1」だった人が、「軽度」の「要支援1」「要支援2」へと認定変更されても施設のサービスを利用できるようにするためです。

 「制度が変わると、この施設に通えなくなってしまうのでは、と不安を持っている人もいた。いま通っている人のサービスを打ち切るわけにはいきません」と話す「すこやか」の介護福祉士主任の南雲幸枝さん。

 ただ、南雲さんは「要支援1、2の人を受け入れるのは経営的には厳しい。赤字覚悟です」と実情を明かします。

 経営的に厳しくなるのは、「新予防給付」の介護報酬(施設などの事業者に保険から給付されるお金)が低く抑えられたためです。いままでと同水準のサービスを提供しても、給付額が減額される可能性があります。

 事業者は「赤字覚悟」で従来のサービスを続けるか、利用できるサービスを制限するか、という選択を迫られます。提供されるサービスの質の低下も懸念されます。

 新しいサービスを始める事業者が見込めず、「新予防給付」の四月実施を見送る地方自治体は全国で約一割にのぼります。その場合、いままで通りのサービスを続行できますが、経過措置の二年以内に実施を迫られます。

 また、四月から始める自治体でも、サービスの基盤が不十分なため、サービスを受けられなくなる人が続出するおそれがあります。

プラン作成に不安

 いままで介護サービスを利用する計画(ケアプラン)の作成は、ケアマネジャー(介護支援専門員)がおこなっていました。「新予防給付」では、市町村が責任をもって設置する「地域包括支援センター」が、利用計画(予防プラン)を作成することになります。

 しかし、同センターに配置されるのは保健師など三人のスタッフだけのため、すべてのプランはつくれず、ケアマネジャーに委託することになります。ところが、厚労省はケアマネ一人当たりの委託件数を八件に制限したため、プラン作成業務の大半が「地域包括支援センター」に集中することになります。ある自治体では、四百人の対象者を、三人のスタッフで対応しなければならない事態になっています。

 「予防プラン」作成の介護報酬が、低く抑えられたことも重大問題です。このため、プランの作成を拒否したり、軽度の利用者の契約を断る事業所もでています。


 改悪介護保険法 昨年六月、自民、公明、民主の賛成で成立。同年十月から、特別養護老人ホームなど施設入所者の居住費、食費、デイケアなど通所施設の食費が全額自己負担になりました。今年四月から実施される「新予防給付」で、軽度者へのサービスが抑制されようとしています。


真の意味での予防に逆行

医療福祉総合研究所主任研究員 朝日健二さん

 「新予防給付」の介護報酬が低く抑えられたので、事業者の経営やサービスの質に深刻な影響を与えることになります。また、要支援1、2の人の一カ月の利用限度額が下げられたので、いままでより少ないサービスしか利用できず、困る人も出てくるでしょう。

 訪問介護など現行のサービスは、高齢者の生活を支え、状態の悪化を防ぐ役割も果たしています。「介護予防」といいながら、軽度の人へのサービスを抑制するようなやり方は、真の意味での予防に逆行すると思います。


新予防給付とは?

 これまで要支援、要介護1と認定された軽度者は、訪問介護や通所介護(デイサービス)などを利用していました。

 四月からの認定方法の変更で、要支援の人は、要支援1または2に。要介護1の人は、要支援2または要介護1に変わり、「新予防給付」を利用することになります。厚労省は、新サービスに移る人を百六十万人程度と見込んでいます。

 新サービスでは、「生活機能の維持・向上を積極的に目指す」として、筋力トレーニング、栄養改善指導、口腔(こうくう)機能向上=歯磨き指導=などを盛り込みました。

 厚労省は「要介護状態になるのを予防するため」として、利用者が「できる」ことは本人がやるようにするとしていますが、「予防」の名目で、必要な介護が受けられないおそれもあります。

 例えば、現行の訪問介護では、ヘルパーが調理、洗濯、掃除などのサービス(生活援助型)を時間単位でおこないました。しかし、「介護予防訪問介護」では、「利用者が自分で家事をするのが難しく、家族や地域からの支援も受けられない場合などに限り」(横浜市のケース)と限定。ベッドなどの機具の利用も制限されるケースも想定されます。

図

軽度(要支援、要介護1)の人も中重度と同じ在宅サービスを利用(訪問介護、デイケアなど)



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