2006年4月21日(金)「しんぶん赤旗」

主張

被爆者集団訴訟

原爆症認定の抜本改善は急務


 原爆症認定を求める集団訴訟が、十七都道府県、百六十九人の被爆者・遺族が原告となって、全国十二カ所の地裁でたたかわれています。大阪地裁、広島地裁での訴訟があいついで結審となり、五月にも最初の判決が予定されています。

切り捨てのための基準

 広島・長崎の原爆被爆者の病気や障害が、放射線によるものであると認められれば、原爆症として認定されます。他の諸手当と異なり、唯一国による認定であり、また医療費の全額支給や生活保障的要素を加味した手当が受けられます。

 しかし認定される人は、一貫して全被爆者のわずか0・8%程度に抑えられてきました。しかもこの間、あまりに冷酷な認定申請却下に、何人もの被爆者が裁判に訴え、あいついで勝利したにもかかわらず、政府がやったことは、より認定を厳しくする新基準の策定でした。この状況をなんとしても変えたいと、三年前に集団申請・集団訴訟のたたかいが始まったのです。

 今回の裁判のひとつの特徴は、同じような疾病や障害に苦しみながら、認定からほとんど除外されていた、爆心地から二キロ以遠で被爆した「遠距離被爆者」、救援や捜索で後から爆心地付近に入った「入市被爆者」の体験や実情が、法廷の場で初めて明らかにされたことです。

 爆心近くの学校で一週間、被災者と一緒にゴザに寝泊まりして救護活動にあたった。被爆直後に放射線被害に特有の脱毛、嘔吐(おうと)、下痢、発熱などの急性症状に苦しみ、さらに今日まで各種のガンに次つぎ苦しんでいる―。このような経験が多数の原告から証言されました。また被爆直後に診療にあたった医師からは、無傷の「入市被爆者」が、直接、被爆した人とまったく同じ症状であいついで死亡した状況が、リアルに証言されました。

 なぜこれで、「遠距離」や「入市」の被爆者には、原爆放射線の影響はないといえるのか。国は「科学的な認定」の根拠として、「DS86」という被曝(ひばく)線量推定システムを採用しています。爆発後一分以内に放出された「初期放射線」による、近距離での体外被曝しか影響を認めず、残留放射能や放射性物質が体内に入ったことによる内部被曝の影響はいっさい無視するものです。これまでの確定した判決でも「DS86」への疑問がくりかえし指摘されてきました。

 ところが国はこの考えをもとに、さらに個々の病気の発症の確率によって、いっそう機械的な切り捨てを進めています。裁判では、国側証人さえ正当性を主張できなかったにもかかわらず、被爆者の六十年余の苦しみをさらに増幅させる姿勢をあらためようとしません。

 すでに二十五人の原告が亡くなっており、裁判の長期化は許されません。国はすみやかに、認定行政の抜本的改善に踏み切るべきです。

反核平和の願いこめて

 病に苦しみながら裁判をたたかいつづける被爆者の思いは、「放射線の影響はない」と一片の通知で認定を拒否されたことへの怒りだけではありません。ある原告はいいます。苦しみの連続だった、でもこの年まで生かされているのは、犠牲になった方たちが、被爆の実態を後世に伝え、核兵器をなくし、戦争は絶対にしないでと、支えてくれているから…。

 冷酷な被爆者行政の根本に、アメリカの核抑止力は日本の「防衛」にとって不可欠という政策があることは明白です。反核平和の願いからも、大きな国民的な支援が必要です。


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