2006年5月1日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

作業の“遅れ” 2秒で暴力

「雇用黒書」で実態告発

新潟・民青同盟まとめ


 「前の日より仕事が2秒遅れた」と怒鳴られ、足をけられてケガをした。理由の説明もなく突然解雇通告――。新潟県の青年労働者の働く実態をまとめた「青年雇用黒書」は、若者が置かれている深刻な現実を告発しています。「黒書」をまとめた日本民主青年同盟新潟県委員会は、人間らしい労働をとりもどすため、雇用問題学習会を開くなどの運動を始めています。(菅野尚夫)


 「黒書」に登場する新田和人さん(23)=仮名=は、電子部品の製造ラインで請負会社の登録社員として働いて一年が過ぎました。

 新田さんが暴力を受けたのは昨年七月のこと。「二十分かかっている作業をお盆までの一カ月で十分に短縮する目標」をリーダーから言い渡されたことが始まりでした。

 新田さんの仕事は、電子部品の製造番号をチェックし記入する作業です。毎日、ラインのリーダーが、作業時間をチェック。時間短縮の目標を言い渡された次の週のことでした。

 「前日より二秒ほど時間がかかった」「なぜできない。明日、短縮できなかったなら辞める覚悟を決めろ」。リーダーから罵声(ばせい)を浴びせられ、足をけられました。「男だろう!おまえはクズだ」。言葉の暴力、ミスをすると平手打ちなど日常茶飯事でした。

■治療費さえ

 けられた足は痛くて歩けず、寝ることもできず病院へ行きました。「全治一週間の打撲」と診断され、治療費は五千八百円かかりました。しかし、会社からは一円も出ません。休んだ日の給料も出ませんでした。

 盛岡市の実家の母親が心配して、会社に言ったことから、暴力をふるったリーダーと請負会社の責任者が部屋にきて謝罪しました。

 「身の回りのものだけあれば、すぐに生活できる」。新田さんは、そんな業務請負会社の宣伝で、岩手県盛岡市から新潟県の工場にきました。「臨床心理士の資格をとって福祉関係の職場で働きたい」という夢を実現させるために、学費を稼ごうと、請負会社に登録したのです。

 会社の寮は、六畳二間。洗濯機、冷蔵庫、テレビなどが完備していました。しかし、寮は他人との共同生活で、家賃三万三千円もとられます。

 日勤は、朝、八時二十分から午後七時二十五分までの十時間労働です。夜勤は、午後八時三十分から翌朝の五時三十五分までの九時間労働。毎日、二時間から三時間三十分の残業があります。日勤、夜勤、日勤、夜勤と週六日間働き、二日休みのサイクルで働きます。日給制で、一日七千五百円。残業代や諸手当を入れても月約二十万円ぐらいです。

 新田さんは、「後一年は我慢してでも働いて、学費をためたい」と言っています。

■トイレ無理

 「黒書」に登場する、電気製品の製造部門で働く田中澄和さん(32)=仮名=。「登録派遣社員」として四年間以上連続して同じラインで電気部品の最終チェック作業に携わってきました。「代わり(交代要員)がいないのでトイレにも行けない」過密労働です。

 手で触れたり目で見て、製品に傷やゴミが付着していないか最終検査します。勤務時間は、夜六時十五分から深夜二時四十五分までの夜勤作業です。時給八百十円で、残業があっても残業割増や深夜割増はつきません。

 「一日九百から千二百個の製品を点検しますので、緊張して精神的にきつい」といいます。深夜の労働は、体をむしばみ始めました。恒常的な寝不足とだるさに苦しんでいます。「飲まなかったビールを毎日飲むようになりました。飲まないと寝られない。頭痛に悩まされ、うつ状態になり、不安が襲ってきます」

 四年前当初の時給は、八百三十円でした。「仕事の量が減った」ことを理由に減給となりました。昼休み時間も取れないほど忙しく、仕事量は減っていません。

 「身分が不安定のため、いつ辞めさせられるか不安。正社員になりたい」と、強く思っています。田中さんは、母親の年金と彼の月十数万円の収入で暮らしています。昨年ようやく健康保険や雇用保険に入れましたが、収入は増えず、ぎりぎりの生活です。

 「民青が作った『黒書』や勉強会に参加して、苦しいのが自分だけじゃないことが分かりました。新潟県労連の人に相談に乗ってもらっています。改善させる方向を見つけたい」


 「青年雇用黒書」 2003年から毎年調査して冊子にまとめました。05年度版は、(1)就職活動中の青年(2)派遣・アルバイトなど非正規労働者(3)正職員(4)医療・福祉の青年労働者の23事例について調査しています。


行政に働きかけ改善

 日本民主青年同盟新潟県委員会委員長、西澤博さんの話 青年たちには、働くものの権利についてあまりにも知らされていません。「黒書」作りのなかで実態が分かり、それに基づいて新潟県に働きかけて「若者のための労働ワンポイント講座」というリーフレットを作ってもらいました。

 「労働法の基礎知識」について分かりやすく書かれていて、これをすべての高校生に配布するなど、働くときに不利益にならないよう行政の責任でやってもらいます。労働基準監督署への告発や事例によっては具体的に改善させる活動も進めたい。


仲間いる居場所必要

 新潟県労働組合総連合事務局長、北村新さんの話 若者は、偽装請負や派遣など違法や脱法だらけのなかで働かされ、「おかしい」と思っても、ものが言えません。そのうえ、孤立させられています。

 ホッとでき、一人の人間として認めてくれる仲間がいる若者の居場所が必要です。民青同盟の雇用問題学習会は、大変有意義でした。そこに集まった青年たちと連帯して、人間らしく生きて働くためのネットワークづくりを始めていきたいと思います。


お悩みHunter

仕事に意義感じるが給料低く将来が不安

 組合の専従として働いています。やりがいのある仕事です。後継者も減っているので続けていかなければと思っています。今は実家に住んでいますが、自立もしたいし、結婚のことを考えるといまの給料では将来が不安です。仕事に意義を感じながら不安に思うことが残念です。ほかの仕事を探した方がいいのでしょうか。(29歳、男性。東京都)

上司に率直に相談して

 あなたが仕事にやりがいを感じているということは非常にすばらしいことだと思います。今の世の中、良い給料をもらっていても仕事にやりがいを感じられない人も少なくありません。ただ、今の給料では将来に不安を感じることもよくわかります。

 まずは自分の現状や将来への夢、今抱えている不安などを上司や組合の執行部に率直に相談してみてはどうでしょうか。私自身もさまざまな組織、団体にかかわっています。どの組織にも共通して言えることは「組織の継承」の観点から見れば「若い人を迎え入れなければ未来がない」ということです。あなたのような若い専従が将来に不安を感じていることは組合全体の問題だと思います。

 財政的なことは私が口を挟むわけにはいきませんが、健全な財政体質をつくり上げるには収入の向上(組合員を増やすなど)と支出の削減しかありません。集金や組合への加入などを専従任せにせずに組合のみんなで行っていくことが大切だと思います。

 「専従にはひたすら献身性が求められるんだ」などと言う組合員もいるかもしれませんが、私はそういった考え方には賛同できません。専従、組合員も含めたみんなで、どうすればより豊かに生きていけるかを考えていくべきだと思っています。それが組合の発展にもつながっていくのではないでしょうか。


第41代日本ウエルター級チャンピオン 小林 秀一さん

 東京工業大学卒。家業の豆腐屋を継ぎながらボクシングでプロデビュー。99年新人王。03年第41代日本ウエルター級チャンピオン。


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