2006年5月11日(木)「しんぶん赤旗」

終戦の半年前に獄死した詩人、尹東柱とは?


 〈問い〉 終戦直前に獄死した詩人、尹東柱とはどんな人ですか?(埼玉・一読者)

 〈答え〉 尹東柱(ユン・ドンジュ、1917―1945年)は、朝鮮の詩人で、韓国では国民的詩人として有名です。尹は、ソウルの延禧専門学校文科を卒業後、1942年、東京の立教大学英文科選科に入り、10月に京都の同志社大学英文科選科に編入していた敬虔(けいけん)なキリスト教徒でした。

 戦前、朝鮮は日本の植民地とされ、皇国臣民化をすすめるために朝鮮語の使用を禁止され、名前についても民族性を奪う創氏改名を強制され、「朝鮮の独立」の叫びは厳しく弾圧されました。尹は、在学中、朝鮮語で詩や日記を書きためていましたが、特高警察はそれが「独立運動」につながるとし治安維持法違反で43年7月、逮捕、翌年懲役2年の判決を受け、45年2月16日、旧福岡刑務所で獄死しました。「中身のよくわからない注射をくり返し打たれ」、息絶えたといわれています。27歳の若さでした。

 尹をしのび、延世大学校には「尹東柱記念室」がつくられ、同志社大学にも尹東柱の詩を刻んだ石碑が建てられました。

 死ぬ日まで空を仰ぎ/一点の恥辱(はじ)なきことを、/葉あいにそよぐ風にも/わたしは心痛んだ。/星をうたう心で/生きとし生けるものをいとおしまねば/そしてわたしに与えられた道を/歩みゆかねば。/今宵も星が風に吹き晒(さ)らされる。(伊吹郷訳)

 詩集を出したいと願いながら生前にはかなわなかった尹東柱の詩集は、韓国では48年に出され、日本でも心ある人々の手で訳出されてきました。高校の教科書「新編現代文」(筑摩書房)にも詩人の茨木のり子さんが文をつけて右の詩を紹介しています。

 一昨年、尹東柱詩集『空と風と星と詩』(もず工房)を訳出した在日の詩人・金時鐘(キム・シジョン)さんは本紙記者のインタビューに、「何の政治活動もしていない清純なクリスチャンでした。なよなよしく見える詩心の核に、息をのむような叙情がある。無惨な死でしたが、ノートに書きつけたものがあったおかげで、彼の生きた痕跡、思いのほどが残りました」と語っています。(05年12月19日付、学問・文化欄)

 日本帝国主義が禁じた朝鮮語で書き続け、西暦で詩作の日付けを記した尹東柱。その詩を贈られた友人は、戦時下、土の中の甕(かめ)に入れて保存したといわれます。変節を拒否した彼の詩は、純粋で透明感にあふれており、韓国民だけでなく、現代日本を生きる私たちの心もひきつけます。(喜)

 〔2006・5・11(木)〕


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