2006年5月16日(火)「しんぶん赤旗」
自給率低下 農家切り捨て
農政法案撤回を
紙党国会議員団農水部会長に聞く (上)
大部分の農家 助成対象外
圧倒的多数の農家への助成を廃止する「品目横断的経営安定対策」という農政改革関連法案が国会で審議されています。日本共産党国会議員団は十五日、農政のあり方を根本から変えるとして同法案についての見解を発表しました(全文は日本共産党ホームページ参照)。農水部会長の紙智子参議院議員にその内容を聞きました。
――法案についてどう考えていますか。
生存基盤の根本
紙 この法案は、政府自身が「戦後農政を根本から見直す」とのべているように、全農家を対象にしてきた農政を、ごく一部の大規模経営だけに限定し、多くの農家はもう相手にしませんよ、と変えてしまうものです。
多くの農家を切り捨てて農業と農村が維持できるでしょうか。世界最低水準の食料自給率がさらに下がってしまいます。
法案は、農家や農村の住民だけではなく、国民の生存基盤の根本にもかかわります。参議院でも審議が始まります。こうした問題点を明らかにし、撤回を求めていきたい。
実態とかけ離れ
――具体的にはどこが問題ですか。
紙 「担い手」を対象に新たな経営安定対策を導入するとして、これまであった小麦や大豆など品目ごとの価格政策を廃止しようとしています。
価格政策は、販売するすべての農家が対象で不十分ながらも生産を維持する役割を果たしてきました。廃止されると小麦や大豆などは外国産との競争にさらされ、生産が成り立たなくなります。
新しい対策が対象をごく一部に限るのも大きな問題です。政府は、個別の農家では四ヘクタール以上、北海道十ヘクタール以上の認定農業者、集落営農では二十ヘクタール以上という基準に加えて「経理が一体化している」などの厳しい要件を示しました。
現状では、都府県の農家の九割以上は対象外です。大規模農家が多い私の地元の北海道でも、農家の47%が基準以下です。集落営農をみても、二十ヘクタール以上は46%、その他の要件を満たすのは一割強にすぎません。
北海道や岩手を訪ね、関係者の話を聞きました。基準が実態とかけ離れ、対象となる「担い手」がほとんどいないとの悩みを訴えられました。
集落営農も、農家を守り、集落の存続を第一にして作られています。活動や組織形態もさまざまです。「経営体」としての発展を一律に迫り、大多数の農家を排除するなら、集落内に混乱と亀裂を広げてしまいます。
こんな無謀なやり方はやるべきではない、と痛感しました。
やる気さえ奪う
――政府は「担い手」支援の法律といいます。
紙 そうでしょうか。
新しい対策は、価格暴落などによる収入減の補てんと麦や大豆など外国産との格差補てんの二つからなるといいます。
収入減を補てんするといっても、農産物の価格が下がれば保障される所得も減っていく仕組みです。これでは経営は安定しません。
外国産との格差是正対策は、過去の生産実績にもとづいて支払うのが中心です。麦や大豆の生産を増やしても前年までの実績がなければ支払わない、逆に実績さえあれば何も作らなくても支払うというのです。
対象者の多い北海道でさえ、「担い手支援どころか、やる気を奪う」と反発が広がっています。
麦や大豆は、主に水田の転作作物ですが、「対策」から外れる農家は麦や大豆が作れなくなり、米づくりに戻らざるをえなくなると指摘されています。米が一時的に過剰になり、米価がさらに下がることは十分予想されます。こんななかで、どうして規模拡大や増産の意欲がわくでしょうか。(つづく)
日本共産党の見解 (骨子)
大規模化や農家選別の押しつけをやめ 意欲ある農家すべてを大事にする農政を―政府の農政改革関連法案にたいし日本共産党は主張します(見解の骨子)
▽すべての農家を対象とする価格政策は廃止
▽大多数の農家を排除し、集落に混乱と亀裂をもたらす
▽対象となる「担い手」のやる気さえ奪う
▽生産者米価の下落をいっそう促進する
▽背景には、貿易や投資の拡大のために、農業はいらないという主張
《続けたい人、やりたい人をすべて大事な担い手として応援を―農家の連帯、消費者・住民との共同を強め、地域農業まもろう》
▽現場に混乱をもたらす「対策」を中止する
▽いま存在する多様な農家経営を大事にし、できるだけ多く維持する
▽農家経営を支える集落営農なども重視する
▽非農家からの新規参入者などに手厚い支援をおこなう
▽地産地消や直売所など消費者・住民との共同を支援する
▽担い手支援は価格保障に所得補償を組み合わせる
▽自由化一辺倒でなく、家族経営が成り立ち、各国の農業が共存できる貿易ルールに