2006年6月10日(土)「しんぶん赤旗」
追及 耐震偽装
ずさん審査 国が放置
「偽装・ミス見抜けない」
耐震強度偽装事件は、偽装を認識しながらマンション代金を受け取ったとして、ヒューザー社長・小嶋進被告(54)が詐欺罪で起訴されるなど、一連の捜査はほぼ終息しました。国土交通省は五月二十九日、偽装を見逃した民間検査機関を処分。しかし“住”の安全を営利企業に丸投げし、指導・監督を怠った国交省自身の責任も問われます。
イーホームズ(五月三十一日に廃業)の処分は指定取り消し、日本ERIは三カ月間の業務停止でした。
「当社に過失はない」。イーホームズ社長の藤田東吾被告(44)=電磁的公正証書原本不実記録・同供用の罪で起訴済み=はこう強弁しています。同社は、姉歯秀次被告(48)=建築士法違反ほう助の罪で起訴済み=の偽装の三分の一以上を見逃していました。事件発覚後も、検査機関は何の処分も受けず、営業を継続。被害者からは「国は、なぜ処分しないのか」との声があがっていました。
事件発覚から六カ月以上も野放しにした国交省は、処分のために急きょ、民間検査機関の処分基準を作成。これまで基準すらなかったのです。藤田被告が強弁していたように、国がつくった制度は、悪質企業が付け入るすきばかりでした。
国による民間検査機関の指定も、ずさんでした。イーホームズは、国から指定を受ける際、架空の増資を繰り返し、資本金を偽っていました。また、建築確認・検査の有資格者の「名義借り」も。
「偽装が見抜けないような検査体制では、設計ミスも見抜けない」。構造設計を手掛ける大阪府内の一級建築士はこう打ち明けます。「実は、構造計算でミスをしたことがあります。それでも建築確認が下りたんです」
姉歯被告以外の偽装も次つぎと発覚。設計ミスの見逃しも広範です。国交省は、国指定の民間検査機関(五十機関)が建築確認をした構造計算書を抽出調査して五月十二日に、その結果を発表。調査した百三件に「偽装はない」としたものの、十五件で「強度不足の可能性がある」としました。建築確認・検査制度は“破たん”状態です。
北側一雄国交相は、一九九八年の建築基準法改悪による建築確認の民間開放が、事件を生み出したことを否定しています。民間検査機関のずさんな審査を指摘されると、「特定行政庁(地方自治体)の確認でも偽装を見抜けなかった」とのべ、地方自治体の見逃しを持ち出して民間開放を擁護しました。
しかし、地方自治体の検査体制も国主導でつくられました。地方自治体の担当者不足は、法改悪当時から指摘されていましたが、国は増やしませんでした。建築確認を民間に任せ、「行政は違反建築物対策などに重点を置く」(瓦力建設相=当時)としたのです。
被害住民、政府提訴も
偽装事件で被害を受けたマンション住民の生活再建は進んでいません。国交省は、マンション建て替え「支援」策を発表していますが、既存住宅ローンに加え、約二千万円もの負担が必要です。
「支援ではなく賠償を」。国交省に対し、責任に応じた賠償を求める声があがっています。被害住民の一人、東京・世田谷区のグランドステージ千歳烏山の男性(47)は五月二十七日、欠陥住宅全国ネット第二十回大会で窮状を訴え、こう力を込めました。「住民救済に進展がなければ、国に対する訴訟を検討しなければならない」