2006年6月26日(月)「しんぶん赤旗」
南京大虐殺
日本の著作でニセ被害者扱い
真実伝えるため提訴
家族7人殺され孤児に
南京大虐殺で家族七人を殺害され、自身も銃剣で刺され負傷した中国人女性の夏淑琴さんが、三十日に開かれる裁判のため来日します。(尾崎吉彦)
夏 淑琴さん 来日へ
夏さんは、東中野修道・亜細亜大学教授の著書『「南京虐殺」の徹底検証』(展転社)で、「事実をありのままに語っているのであれば、証言に、食い違いの起こるはずもなかった」として、ニセ被害者と決め付けられました。夏さんは、名誉を傷つけられたとして東京地裁に損害賠償を求め訴訟をおこしました。(注参照)
訴状などによると、夏さん一家は、中国・南京市中華門内新路口五番地で借家住まいをしていました。家族は、当時八歳だった夏さんと母方の祖父、祖母、父、母、二人の姉、二人の妹の九人。
一九三七年十二月十三日、大勢の日本兵が夏さんの家に乱入し、父親と大家さんを殺害しました。夏さんは姉や妹らと布団をかぶって隠れました。日本兵は、子どもたちをかばうように寝台に腰掛けた祖父母を射殺、布団をはいで二人の姉を強姦(ごうかん)しようとしました。大声を出した夏さんは左脇、背中、肩の三カ所を銃剣で刺され、気を失いました。意識が戻り、部屋を見渡すと二人の姉は殺されていました。夏さんが四歳の妹と、空襲のときに隠れる「避難所」にいくと、生後数カ月の妹と母が死んでいました。
生き残った二人は、なべに残っていたおこげのご飯を食べて生き延び、数日後、近所の老人に発見され、養老院に保護されました。
南京事件では、中国の負傷兵、敗残兵ばかりか、日本軍に元兵士とみなされた多くの市民・農民も殺害されました。南京事件の研究者・笠原十九司都留文科大学教授は、二十万人に近いかそれ以上の中国軍民が犠牲になったと考えられるとしています。性暴力被害が多かったのも特徴で、事件当時、中国人被害者の救済にあたった南京安全区国際委員会の推計では、強姦された女性は数万人に達します。
笠原教授は、「東中野氏は、“南京事件はなかった”とする立場から証言や資料を見、証言のささいな齟齬(そご)を探して、否定しています。両親や姉妹を一度になくし、孤児としてその後もずっと苦労した八歳の少女の体験を、細部が食い違うからと否定するのは、異常です」と東中野氏の立場を批判します。
「夏淑琴さんに関連する資料で、『銃剣で刺した』と訳すべき英語を、『銃剣で突き殺した』と誤訳し、“夏淑琴にあたる少女は殺されて存在しないはず”と主張するのですから、学問的には問題になりません。しかし、彼の本を大量に買い取る財団があるうえ、しにせの出版社が発行することもあり、軽視できません」
笠原教授は、二〇〇二年四月、南京市の夏さんを訪ねました。「夏さんは、自分の証言を否定する言論が日本で放任されていることを、自分に学歴がないため信用されないんだと傷ついていました。裁判を通じて、真実が多くの人に伝わることを期待しています。夏さんの生涯を聞くなかで、南京事件の問題はまだ終わっていないことを実感しました」と話します。
第一回口頭弁論は、三十日午後一時十分から東京地裁一〇三号法廷で開かれます(傍聴者多数の場合抽選)。また、「夏淑琴さんの証言を聞く集い」が七月一日午後六時三十分から、東京・渋谷区の東京ウィメンズプラザで開かれます。
注 夏さんは二〇〇〇年十一月、中国で東中野氏を相手取って名誉棄損裁判をおこしました。これにたいし、東中野氏は、中国の裁判で賠償命令が出ても賠償しないでいいように、東京地裁に「債務不存在」の確認を求める訴えを起こしていました。今回の夏さんの訴えは、東中野氏の訴訟に対抗するもの(「反訴」)で、東京地裁はいっしょに審理します。