2006年8月1日(火)「しんぶん赤旗」

医師不足に拍車 厚労省の「報告書」

実態反映せず国際比較も欠落

根底に「医療給付費削減」

小池政策委員長に聞く


 医師不足が社会問題化するなか、厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」は七月二十八日、報告書をまとめました。国民の期待に応える内容なのでしょうか。日本共産党の小池晃政策委員長(参院議員)に聞きました。


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(写真)小池晃政策委員長

 全国各地の医師不足は、病院や診療科の閉鎖という事態を招き、住民・患者の命と健康を脅かしています。過重労働やストレスが医師や医療スタッフの心身をむしばみ、医療事故の背景にもなっています。

検討会でも批判

 ところが報告書は、“医師は基本的には足りている”と従来の主張を繰り返し、「地域別・診療科別の偏在」さえ解決すればいい、医師増員の抜本的施策はとらない、と結論づけました。これでは、ますます医師不足に拍車をかけることになりかねません。報告書を撤回し、患者、医療現場、地域の声を十分反映するよう検討し直すことを強く求めます。

 問題点の一つは、現場の実態を反映していないことです。

 神奈川県茅ケ崎市では、総合病院の産科が次々と廃止され、「将来はヘリコプターで妊婦を搬送する事態になる」といわれています。千葉県のある地域では、七市町村が運営する病院が内科病棟の半分を閉鎖しました。

 検討会でも「患者の視点では医師は不足している」「医師は過剰になるという認識は正しいのか」という根本的な批判があがったほどでした。しかし、実態を踏まえた分析はいっさいおこなわれていません。

 もう一つの問題は、国際比較の視点が欠落していることです。

 人口千人あたりの医師数では、日本はフランスやドイツの六割にすぎません。OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均医師数で比較すると、日本の医師数は十二万人不足しています。

 検討会には、岩手県から“OECD諸国の考え方も検討すべきだ”との道理ある意見が寄せられましたが、無視されてしまいました。

 あきれたのは、報告書が「九千人増えれば医師は足りる」ことを不動の前提にしていることです。“必要な医療はすでに提供されている”という現状認識で出発し、医師の勤務時間を「週四十八時間」にすれば、「必要医師数」は満たされるとし、その数を「二十六万六千人」としました。

9千人増ありき

 医療施設で働く現在の医師数は二十五万七千人です。だから「九千人増員」だけで、国民に必要な医療が提供され、医師の労働条件も抜本的に改善できると描き、その延長線上で将来的にも「充足する」としたのです。

 そもそも「四十八時間」を前提にすることの問題点に加え、「必要医師数」の算出根拠にした「勤務時間」とは、当直時間や待機時間は除外するなどきわめて恣意(しい)的な設定です。

 報告書自身、「医療施設に滞在する時間を全て勤務時間と考え、これを週四十八時間までに短縮する」ことも想定して、その場合は「六万一千人」が不足すると記述しています。ところが、この後にすぐ「適切ではない」と退けました。検討会の委員からは“どう公平に見ても「九千人増が先にありき」としか映らない”と指摘されるような、「机上の空論」の数字でしかありません。

 政府・与党は、社会保障や医療にたいする国の財政支出と大企業の税・保険料負担を抑えるために、窓口負担増で受診を抑制するだけでなく、入院するベッドをなくしたり、病院の統廃合を強行しています。報告書の「医師の増加抑制」の考えの根底には、この「医療給付費削減」があるのです。

抜本的な目標を

 報告書は不十分ながら、大学医学部の「地域枠の設定」や「地域枠と奨学金の連動」など当然の施策を盛り込みました。

 しかし、医療供給体制を充実させるために、医学部の定員増など医師数を抜本的に増やすという大きな目標を立てないといけません。

 不足が深刻な小児科・産科については、公的医療機関が地域の中核的存在となり、それにふさわしい体制をとることなどが急務ですが、そのためにも医師全体の増員が不可欠です。

 問題の大本には、社会保障への国の支出を抑え、無駄な大型公共事業や軍事費に税金を使う「逆立ち財政」があります。この構造の転換こそが国民に安全な医療を提供できる体制をつくります。日本共産党はそのために力を尽くします。


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