2006年9月10日(日)「しんぶん赤旗」
主張
9・11から5年
戦争でテロはなくせなかった
米国での同時多発テロ(二〇〇一年九月十一日)から五年がたちます。米政権が五日発表した「テロとたたかう国家戦略」改訂版では、「米国はより安全になった」「アフガニスタンとイラクをテロから解放した」と結論付けています。しかし、現実はまったく異なります。
この五年間にはっきりしたのは、「戦時国家米国」の軍事力行使一辺倒のやり方ではテロはなくせないばかりか、逆にテロの策動の余地を広げてしまうという現実です。
アフガン、イラクの現実
戦争によってむしろ世界にテロの危険がひろがっているというのが諸国民の実感です。スペインやイギリス、インドネシアなどでテロが続発しました。「英国でも欧州諸国でもテロ細胞の広がりは重大な挑戦だ」と、英国際戦略研の年次報告(五日発表)は分析しています。
テロをなくすといってブッシュ米政権が戦争を引き起こしたアフガニスタンとイラクの事態が、そのことを端的に証明しています。
アフガニスタンではテロ事件の首謀者を拘束できなかっただけでなく、駐留外国軍にたいするタリバンなど武装勢力の攻撃は激化し、事態は悪化するばかりです。
ブッシュ政権が「対テロ戦争の主戦場」といって、テロリストとのつながりも不明なまま攻撃を開始したイラクでは、外国からのテロリストをひきこんで逆に治安が悪化しました。これまでイラク人の犠牲者は五万人近く、米兵の死者も二千六百人を超えています。
米国防総省の最新報告でさえ、「イラクでは内戦になる条件がある」といわざるをえない情勢悪化をもたらしています。
テロは、いかなる宗教的信条や政治的見解によっても許されない卑劣な犯罪行為です。その根絶は軍事報復や戦争でなく、法にもとづく裁きによって行うべきものです。にもかかわらず国連憲章や国際法をふみにじり「有志連合」を率いて戦争につきすすんだ米国にたいする国際的批判は厳しくなる一方です。
アナン国連事務総長は昨年九月の国連総会首脳会議で、名指しこそしなかったものの、米国の一方的な行動を批判しました。仏、独など米国の同盟国もイラク戦争を批判し、国連加盟国の三分の二近くが加わる非同盟諸国首脳会議で議長国マレーシアのアブドラ首相は、テロとのたたかいで「一部の大国の行動」が「国際法と文明的な行動規範」を侵犯したと批判(今年五月)しました。
米国内でもいまでは、「イラク戦争がテロとのたたかいを妨げている」と考える国民は54%にのぼります。「ブッシュ政権はテロに対する明確でよく考えられた政策をもっているか」との問いには、59%が「ノー」と答えています(米誌『タイム』八月二十二日〜二十四日調査)。 ブッシュ政権の失政は明らかです。
国際社会の協力こそ
世界各国と国連をはじめとする国際機構が一致協力してあたってこそ、テロを根絶できることを、9・11から五年目にあたって改めて確認すべきです。国連首脳会議は、包括的テロ条約を成立させてテロを弱める戦略を進めることを合意しています。正義と公正さに立脚しテロを生み出す根本原因の除去にもとりくみ、テロ策動の余地を封じ込める必要があります。
アフガン、イラクで米国の戦争を支持し続けてきた小泉政権の対テロ政策も、厳しい点検を避けられません。