2006年9月16日(土)「しんぶん赤旗」
小泉政治の総括と日本のこれから
日本記者クラブでの志位委員長の講演(大要)
日本共産党の志位和夫委員長が十五日に日本記者クラブで行った講演の大要は以下の通りです。
自民政治の「異常をさらに異常に」――新しい政治への転換が必要
主催者からは、「小泉政権の総括と日本のこれから」というテーマでとのことでした。私は、この間、初めての韓国訪問の機会をえました。明日からはパキスタン政府の公式招待で訪問し、十八日にはアジズ首相と会談する予定です。これらの国際活動で感じたこと、考えていることもまじえてお話ししたいと思います。
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わが党が一月に開いた第二十四回党大会では、世界の他の資本主義国にも類例のない、自民党政治のつぎの三つの異常な特質を告発するとともに、それを大本からただす改革の道をしめしました。
――過去の侵略戦争を正当化する異常。
――アメリカいいなり政治の異常。
――極端な大企業中心主義の異常。
小泉政権の五年間というのは、一言でいえば、「異常をさらに異常にした」――この三つの異常を、極端なまでに肥大化させた五年間でした。そのために、外交、内政ともに、日本の政治が深刻な閉塞(へいそく)状態におちいっています。
つぎの自民党総裁、首相にだれがなるにせよ、この路線をつづけるかぎり未来はありません。しかし、総裁選の論戦をみるかぎり、この異常に正面から向き合い、見直そうという姿勢は、だれにもみられません。かたや民主党も「対決」といいますが、自民党政治の異常な特質の根本について、対決する足場がありません。
日本の情勢は、古い政治の枠組みを打開する新しい政治を切実に求める歴史的時期をむかえています。日本共産党の役割が、いよいよ重要になってきています。
歴史問題への認識が問われる――未来を展望しての重要性にもふれて
第一は、過去の侵略戦争を正当化する異常です。小泉首相の靖国神社連続参拝は、日本外交の深刻なゆきづまりをつくりました。
わが党は、この行為の問題の核心は、「日本の戦争は正しかった」とする靖国神社の歴史観、戦争観――“靖国史観”に、政府公認のお墨付きをあたえることにあると、繰り返し明らかにしてきましたが、この問題の核心は内外の広い共通認識となりました。
批判の声は、韓国、中国だけでなく、東南アジア、欧米に広がりました。十四日に開かれた米下院外交委員会で、ハイド委員長は、靖国神社の「遊就館」について、「ここで教えられている歴史は事実に基づいていない」、「西洋の帝国主義からアジアを解放するために日本が戦争をしたと若い世代に教えているのは困ったことだ」と批判しています。
そして、首相のおひざ元からも上がっています。九月七日付の「小泉内閣メールマガジン」では、防衛大学校長の五百旗頭(いおきべ)真氏が、異例の批判をしています。小泉外交では「まずいことまで国民的に了承される」「『あばたもえくぼ』症候群が顕著である」として、「靖国参拝一つで、どれほどアジア外交を麻痺(まひ)させ、日本が営々として築いてきた建設的な対外関係を悪化させたことか」と靖国参拝を公然と批判しています。
侵略戦争と植民地支配の正当化という愚かな行為を、次の内閣が清算できるのかどうかが、厳しく問われています。
ここで問題になってくるのは、次の首相になる人物の歴史認識そのものです。
小泉首相の場合は、過去の侵略戦争と植民地支配にたいする歴史認識を問われれば、ともかくも一九九五年の「村山談話」の中身がみずからの歴史認識だと答えました。「村山談話」は、私たちから見れば不十分なものですが、ともかくも「国策の誤り」として「植民地支配と侵略」をおこなったことへの「反省」をのべたものでした。
私は、昨年六月、国会で、小泉首相と靖国問題での論戦をおこないましたが、小泉首相は「村山談話」について「同じような認識を共有している」と答弁し、私との論戦では「靖国神社の考えは、政府の考えと違う」とまでのべました。小泉首相の矛盾は、みずから「考えが違う」とのべた神社に参拝することにありました。言葉で「反省」をのべても、行動でそれを裏切る――ここに問題があったのです。
安倍晋三氏はといえば、この歴史認識という点で、小泉首相と比較しても、さらに大きく後退しているという問題があります。私は、昨年七月、安倍氏とテレビ朝日の番組で靖国問題について対論をおこない、私は、二つの点を端的にただしました。「過去の日本の戦争を正しい戦争だと考えているのか、侵略戦争だったと考えているのか」「A級戦犯について『ぬれぎぬ』だったと考えているのか、裁いたことは正しかったと考えているのか」とただしました。安倍氏は「歴史が判断を下すだろう」と答えました。これは、侵略戦争と植民地支配が不義不正であったことへの認識もなければ、それへの反省もない立場を示すものでした。安倍氏は、「村山談話」の踏襲を明言せず、「歴史的な談話」という言い方で、談話で明らかにした政府の歴史認識を「過去の遺物」として、いわばお蔵入りさせてしまおうとしています。
これは極めて重大です。小泉首相は、言葉で「反省」をのべたが行動で裏切りました。安倍氏は、言葉ですら反省をのべようとしません。安倍氏が首相になろうというなら、「歴史家が判断を下すだろう」というみずからの歴史認識の清算が迫られます。それなしに首相になる資格はありません。だれが首相になるにせよ、靖国参拝という愚かな行為を中止することを、わが党は強く求めます。
未来を展望しても、侵略戦争と植民地支配を正当化する逆流の清算は、日本国民がアジア諸国との本当の友好をつくるうえでも、日本の国益のうえでも、決定的に重要です。韓国を訪問して痛感したことを二つ紹介します。
一つは、東アジアに平和の共同体をつくるためには、歴史認識の基本点での共通の認識が必要だということです。いま、ASEAN(東南アジア諸国連合)でつくられている平和の共同体を、北東アジアに広げることが重要です。韓国の各界の人々との対話でも、それにつづくアジア政党国際会議でも、この点は多くの人々の共通の願いでした。そのためには、歴史問題の解決が必要です。EU(欧州連合)の結成は、ドイツがみずからの過去と正面から向き合い、フランスなどと和解をしたことなしにはありえませんでした。
第二は、日韓の懸案事項を解決するうえでも、歴史問題での反省が土台になるということです。竹島問題が、韓国マスコミとの会見やハンナラ党院内代表との会談で話題になりました。私は、日本共産党が、一九七七年に発表した見解で、日本の竹島領有の主張には、歴史上の根拠があるとのべたことをきちんと伝えました。同時に、日本の竹島編入が一九〇五年という韓国への侵略と植民地化の過程のなかでおこなわれたことも考慮して、韓国側の言い分にも耳を傾ける必要があること、日韓両国政府が、竹島をめぐる歴史的経緯についての認識を両国の国民が共有できるように、資料を互いに提示しあい、共同研究をする必要があるとのべました。ハンナラ党の代表は、「率直なお話に感謝する」「植民地時代のことに言及されたことに非常に意味があります」とのべました。
この問題では、日本側が、一九六五年の日韓基本条約にいたる交渉過程でも、植民地支配の不法性について認めていないことが弱点となっています。この弱点を正せば、冷静な話し合いのテーブルがつくれるということを感じました。
世界で破たんした対米追随外交――憲法改悪、軍事同盟強化を許さない
第二のアメリカいいなりの異常についてです。小泉政権の五年間は、日米軍事同盟を、侵略的な方向にさらに大きく変質させたものとなりました。一言でいえば、「世界の中の日米同盟」路線への踏み出しということです。
「世界の中の日米同盟」という日本語訳にたいして、米国では「the US―Japan global alliance」(グローバルな日米同盟)という表現が使われています。つまり世界の中に日米同盟を位置づけるという話ではなく、地球規模の問題に日米が共同で対処するということです。日米安保の範囲は、「極東」から「アジア・太平洋」に、そして文字通り地球規模に広げられました。これは日米安保条約の枠組みさえこえた重大な変質にほかなりません。
やったこと、すすめつつあることは何か。イラク侵略戦争の支持と自衛隊派兵、米軍再編、集団的自衛権行使・憲法改定の動きです。アメリカにつきしたがって、地球的規模での戦争に打って出ていこうという動きです。
しかし、この道は、世界ではすでに、破たんが証明された道です。9・11テロから五年で世界はどうなったか。イラク侵略戦争がどんなに重大な間違いだったかは、内戦の瀬戸際まで事態が悪化したイラクの事態、アフガンでのタリバンの復活と不安定化、全世界へのテロの拡散に示されています。口実とされた大量破壊兵器での歴史的ウソももはや明白となりました。国連憲章をふみやぶった無法な戦争が歴史に裁かれつつあります。こうした無法な先制攻撃戦略をとるアメリカにつきしたがって、日本を海外で戦争をする国にする――憲法改定の狙いはここにありますが、この道に未来はありません。
小泉首相の後継者たちには、この道をただす意思も立場もありません。軍事同盟の強化とタカ派の競い合いです。安倍氏は、五年という年限を示して改憲をすすめるとともに、憲法の解釈変更による集団的自衛権行使の可能性について研究・検討をすすめると明言しています。ここには、憲法改定への強い志向とともに、それまで待てない、すぐにでも海外での武力行使を可能にしたいという衝動が働いています。アーミテージ氏は、『Voice』九月号などで、「二〇〇〇年のアーミテージ・レポートのほとんどは実現された」、「残る課題は集団的自衛権の行使だけだ」とのべています。安倍氏は、「主張する外交」といいますが、アメリカにたいしては何も「主張しない外交」であり、屈従の外交でしかありません。
韓国では、マスコミとの会見でも、各界の方々との交流でも、共通して「日本の右傾化」への不安と危惧(きぐ)が強く語られました。またそれと正面からたたかう党として日本共産党への期待の声も多く聞きました。
とくに九条改定への不安は非常に強いものがあります。九条は、日本だけのものではありません。これは「二度と戦争をしない」という国際公約です。この不戦の誓いを守り抜くことは、アジアと世界にたいする日本の責任です。そのための国民的多数派の結集にさらに力を入れたいと思います。
同時に、この動きの根底にある日米安保条約を廃棄する国民的多数派をつくるために力をそそぎたい。アジア政党国際会議では、地域の平和共同体をつくることが大きなテーマとなりました。この大陸では、軍事同盟はほとんど消え去り、仮想敵をもたない平和の共同体が大きく成長しています。ASEANとTAC(東南アジア友好協力条約)、上海協力機構などです。この流れにこそ未来があります。
格差社会と消費税――空前の大もうけをあげている大企業にこそ応分の負担を
第三は、異常な大企業中心主義の政治です。小泉内閣の五年間で、「構造改革」の名で、弱肉強食の「新自由主義」の政策がとられました。
その結果、格差社会と貧困の新たな広がりが重大な社会問題となりました。NHKスペシャル「ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない」(七月二十三日放送)が話題になりました。日本の全世帯のおよそ十分の一、四百万世帯ともそれ以上ともいわれる家庭が生活保護水準以下で暮らしている深刻な実態をルポしていました。ワーキングプアの世帯では、進学や就職の機会まで奪われ、次の世代に貧困が引き継がれるという深刻な構造問題がおこっていることなども示されました。リポーターが、「努力した人が報われる社会をというが、私が取材した人で努力していない人はいなかった」とのべていたことがたいへん印象的でした。
こんな弱肉強食の社会をつくった責任が厳しく問われます。これは、自民党政治がすすめた三つの悪政の複合的な結果です。すなわち、(1)人間らしい労働のルールの破壊、(2)社会保障が土台からほりくずされていること、(3)大企業・大金持ちには減税、庶民には増税という「逆立ち」した税制です。口先で「格差是正」「再チャレンジ」などといっても、この根源にメスを入れる姿勢がなければ、問題の解決ははかられません。
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消費税問題が焦点となっています。自民党総裁選で、谷垣氏はわりと本音をいいますが、他の候補はできるだけ隠しています。安倍氏も討論などを聞くと、消費税増税については〇八年の法案提出の可能性を示唆するにとどめており、あまり本音をいいません。七月七日閣議決定された「骨太方針2006」では、「歳出・歳入一体改革」をうちだし、消費税増税を方向づけていますが、参院選での争点化を回避するために、その時期と規模については具体的な言及はされていません。
しかし、政府・自民党の方針は明りょうなのです。「骨太方針2006」を決めた経済財政諮問会議・民間議員の本間正明氏は、マスコミのインタビューに答えて、「今回の骨太方針をそれに至るまでの議論をよく読んでほしい。プライマリーバランスを黒字にするには消費税相当で現行より1〜2%上げる必要があるとか、それ以降は税率が10%になるとか、透き通るくらいに読み取れるシグナルは出している」(「朝日」十四日付)といっています。安倍氏も経済財政諮問会議の一員です。消費税増税が「透き通るくらいに読み取れる」方針を出しておいて、参院選挙をそれを隠してやりすごそうなどということは、国民を欺まんするものです。
「税制改革」でいえば、いま最優先で改革するべきは、大企業への行き過ぎた減税の見直しです。いま大企業の経常利益は、三年連続でバブル期をはるかに上回る空前のものとなっています。にもかかわらず、法人税収は十九兆円から十三兆円に大幅に減っている。谷垣大臣は、法人税率を40%から30%に下げたため五兆円の減税になったとしています。なぜここを聖域にするのか。行き過ぎた大企業減税を見直し、空前のもうけをあげている大企業にこそ、もうけ相応の負担を求めるべきです。
教育基本法改定は熱い焦点――国民運動と国会論戦の共同の力で廃案に
教育基本法改定問題は、つぎの国会の熱い焦点となるでしょう。
この問題は、三つの異常のすべてにかかわる問題です。「海外で戦争をする国」「弱肉強食の経済社会」づくりという二つの国策に従う人間を育成することをその狙いとするという点で、対米従属と大企業中心主義の政治に深くかかわります。推進勢力の中核に「靖国」派がすわっている点では、侵略戦争の無反省の流れともかかわります。
私たちは、すでに前国会で憲法に背反する二つの問題点を明らかにしてきました。すなわち、(1)内心の自由を侵害する「愛国心」などの押しつけ、(2)教育内容への国家的介入は抑制的であるべきとする憲法の要請を無視した、無制限の教育国家統制法であるということです。
安倍氏は、「教育」論を売り物にしていますが、国家が、監察官を全国に配置して、学校と教師を評価し、「問題」校は民間に移行させ、「問題」教師はやめさせるといいます。国家が直接、むき出しの形で教育を支配する体制をつくるというのです。これこそ戦前の教育の最大の問題でした。この教育が教え子を戦場に追いやったのです。その反省から、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべき」と一〇条に明記された教育基本法が生まれました。このイロハを理解しない人物に教育を語る資格はありません。
国民運動と国会論戦の共同の力で、この悪法を葬るために全力をあげたいと思います。
政治の流れの変化とらえ、参院選、いっせい地方選での勝利に全力を
いま自民党政治がゆきづまるもとで政治の流れの変化がおこっています。農村部でも、都市部でも、「このままでは生きていけない」「人間らしい暮らしができない」という声がわきおこっています。従来の自民党の支持層が大きく崩れて、新しい道を模索しています。
政治の流れの変化は、中間地方選挙でのわが党の健闘にあらわれています。もちろん、これは自動的に国政選挙での前進につながりません。自力で「風」を起こす大奮闘があってはじめて前進できます。
きたるべき選挙の真の争点は、「与党の過半数割れ」にあるのでなく、自民党政治を大本から変えるたしかな立場をもつ日本共産党が伸びるかどうかにあります。来年の二つの全国選挙――参院選といっせい地方選挙で必ず勝利をかちとるため、保守層、無党派層もふくめて広く国民との対話と共同をすすめ、どんな情勢が展開しても選挙で勝てる強く大きな党をつくりたい。選挙勝利を前面にすえ、知恵と力をつくしたいと決意しています。