2006年10月15日(日)「しんぶん赤旗」
首相「ワーキングプア前提の生産は大問題」
参院予算委で市田氏に答弁
職場の無法是正は急務
安倍晋三首相は十三日、参院予算委員会で日本共産党の市田忠義書記局長への答弁で、ワーキングプア(働いても貧困から抜け出せない人々)に依存した大企業の生産体制を「大変な問題」と認めざるをえませんでした。職場の異常な無法状態をやめさせ、人間らしい労働のルールを確立するうえで、国政の最高責任者がこう述べたことは重要です。
安倍首相の答弁は「いわゆるワーキングプアといわれる人たちを前提に、コストあるいは生産の現状が確立されているのであれば、それは大きな問題であろう」というものです。
空前のもうけ
非正規雇用の労働者は千六百四十七万人(総務省労働力調査ことし四―六月期)。厚生労働省の二〇〇五年賃金構造基本統計調査では非正規労働者の平均的な月額賃金は男性二十二万円、女性十七万円。ワーキングプアを構成しているのはこの人たちです。
大企業はいま史上空前のもうけをあげています。それを可能にしたのが正社員を派遣や請負など非正規労働者で置き換え人件費を削減したことです。非正規労働者は、全労働者の32%、女性では52・5%(総務省同調査)。いまや生産活動の主力です。「あれば」という仮定の問題ではありません。
厚生労働省の〇六年版労働経済白書に載った調査では、八割以上の事業所が非正社員を増やす理由に「労務コストの削減」をあげました。大企業にとって非正社員は低賃金で、いつでもクビを切れる便利な労働力です。
大企業の経営戦略は、単なる人減らしではなく、雇用責任を負わない派遣や請負労働者を主力に据えるところにまで至っています。メーカー側が直接指揮しているのに請負を装う、違法な偽装請負が横行しています。請負は何年働かせても正社員契約を申し入れる義務がなく、安全衛生にも責任を負わずにすむからです。市田氏への答弁で首相は違法行為の取り締まりを約束しました。
政府の施策で
ただ、違法が横行する背景には政府の規制緩和路線があります。政府は、大企業の雇用責任逃れを正当化する法制を次々につくり上げてきました。労働者派遣法の制定(一九八五年)や製造業への派遣解禁(二〇〇四年)で非正規雇用は急増しました。
十三日に新たな顔ぶれでスタートした経済財政諮問会議で御手洗冨士夫・日本経団連会長ら民間議員は雇用のルールの“見直し”を提言しました。厚労省は、八時間労働制を形がい化させる「ホワイトカラー・エグゼンプション」や解雇を金で解決する制度の法案化を急ピッチで進めています。
首相がワーキングプアを前提にした大企業の経営に問題ありと認めるなら、とるべき方策は規制緩和の加速でなく、働くルールの確立です。なによりまず、違法な偽装請負やサービス残業をなくすことです。(山田俊英)