2006年11月11日(土)「しんぶん赤旗」
サラ金問題 この間の経緯を追う
多重債務解決へ一歩前進
「特例」を撤回
逆風押し返した世論
サラ金など貸金業者への規制を強化する貸金業規制法等改正案が七日、衆議院で審議入りしました。多重債務問題の温床である「グレーゾーン(灰色)金利」を三年後に撤廃する内容です。一方、政府・与党が当初案に盛り込んだ「特例高金利」「利息制限法の改悪」は、世論の厳しい批判を前に撤回を余儀なくされました。この間の経緯を振り返ります。(安川 崇)
■悲願
都内で七日夜に開かれた「高金利引き下げの早期実現を求める緊急集会」(日本弁護士連合会など主催)。日弁連上限金利引き下げ本部の宇都宮健児本部長代行は、二百人を前に語りました。
「被害者や弁護士の運動の勝利。喜びを分かち合いたい。まずは法案の早期成立を期す」
サラ金など貸金業の利用者は二千万人。その一割以上が多重債務に陥っているとされます。「問題の根源は、返済不能なほどの高金利。引き下げは二十五年来の悲願」(本多良男・全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会事務局長)でした。
四月には金融庁の「貸金業制度に関する懇談会」が灰色金利撤廃の方向性を打ち出しました。
■逆流
九月、空気が一変。自民党と金融庁が相次いでまとめた制度案に▽少額・短期の貸付に認める「特例高金利」▽利息制限法の金額区分(刻み)変更=実質上の利上げ――が盛り込まれました。
「特例も問題だが、刻み変更はひどい」。被害者支援に取り組んできた弁護士は語ります。
「灰色金利を払わされても、弁護士などが利息制限法の上限で計算しなおせば、過払い分を取り戻せる。上限が上がると、救済できたケースが救済できなくなる」
|
■抗議
十月十七日、日弁連などが呼びかけた金利引き下げ「千人パレード」に、主催者の予想を超える約二千人が集いました。
同日の国会内集会には日本共産党や民主党のほか、自民党の一部議員も出席。「業界ではなく消費者のための法改正を」と声をそろえました。
同月には、労働者福祉中央協議会などが、三百四十万人分の署名を国会に提出。四十を超える都道府県議会も、引き下げ要求を決議しました。
日本共産党は九月二十六日、「高金利引き下げ対策チーム」(責任者・大門実紀史参院議員)を発足させました。
同チームは▽サラ金業界から安倍内閣閣僚、自民・公明の議員らへの約二千万円の資金提供▽サラ金が借り手を被保険者として掛ける「消費者信用団体生命保険」の、大手五社別の実績――などの調査結果を相次ぎ公表しました。
こうした中、自民党は十月末、特例と刻み変更の撤回を決めました。
日弁連上限金利引き下げ本部の新里宏二事務局長は「各方面からの抗議が積み重なった。与党も世論を意識せざるを得なかった」と話します。
ただし、法案は施行後二年半以内に金利制度を「見直す」と明記。特例復活の余地も残しました。宇都宮氏は「監視が必要」と強調します。
■課題
サラ金被害は今も続いています。
多重債務被害者の相談・救済に取り組む「太陽の会」事務所(東京・神田)には、毎日新たな相談者が訪れます。今年十月までの新規入会者は約五百人。昨年一年間の一・五倍にのぼります。
「利息制限法の存在が、まだ消費者に知られていない。三年後に金利が下がる前にも、被害者が生まれ続ける」と相談室長の本多氏(前出)。
新里事務局長は「金利引き下げだけですべてが解決するわけではない」と指摘します。
「ヤミ金の取り締まり強化を並行して進めないと、多重債務はなくならない。低所得者への低利融資制度など公的支援も欠かせない。まだまだ運動は続く」(新里氏)
貸金業規制法等改正案の概要 ▽刑事罰のある出資法の上限金利(29.2%)を20%に引き下げ。これ以下の金利で、利息制限法の上限金利(借入額により15%〜20%)を超えた場合は行政処分の対象。 |
|
国民の運動と国会の追及と
大門議員
世論が政治を動かした。サラ金被害者や弁護士らの運動の成果。国会では、与野党の良識派議員が頑張った。課題も多く残るが、逆風を押し返した。大きな一歩だ。
九月の政府・与党案は、業界寄りに大きくぶれた。自民党の商工族議員らの巻き返しがあったことは間違いない。
日本共産党は前国会からこの問題を取り上げてきた。業界から資金提供を受けた安倍内閣閣僚を明らかにし、批判を恐れる与党の判断に影響を与えた。「命が担保」の生命保険の実態も示し、禁止に追い込んだ。「高金利を許さない」という世論の流れをつくるのに、大いに貢献できた。
法案では、三年間は灰色金利が残る。過払い金返還請求をどんどん行い、業者が灰色金利で営業できない状況をつくる必要がある。ヤミ金の取り締まり強化や、多重債務者の公的救済制度の整備も欠かせない。「見直し」で逆行を許さないためには、運動と国会での追及がカギになるだろう。