2006年11月30日(木)「しんぶん赤旗」
国会の視点
自公・民できょう採決
「防衛省」法案 質疑わずか13時間
自民、公明、民主の三党は、自衛隊の海外派兵を本来任務に位置付け、防衛庁を省に移行させる「防衛省」法案を三十日の衆院安全保障委員会と本会議で採決し、衆院を通過させることで合意しました。憲法にかかわる重大法案にもかかわらず、「今国会成立」という政府・与党の方針を、国会と国民に押しつけようとするものです。
憲法解釈覆す
法案は、一九五四年に自衛隊が発足して以来初めて、その任務を変更するもの。自衛隊は、憲法のもとで、本来任務を“日本防衛”に限定することを建前にしてきました。ところが法案は、憲法違反の海外派兵を、本来任務にするのが狙い。従来の政府の憲法解釈を根底から覆すものです。
これほどの重大法案にもかかわらず、委員会での法案審議は、これまでわずか五日間。政府に対する質疑時間は、十二時間四十分にすぎません。
日本共産党の赤嶺政賢議員は、重大法案にふさわしい徹底審議が必要だと主張。首相出席の委員会審議、国民の声を聞くための中央公聴会、地方公聴会の開催を求めてきました。与党は拒否し続けました。
専門家の意見を聞く参考人質疑では、法案に賛成の参考人からも「(国民の中で)省にすべきだという強い議論が果たして起きているのか」と疑問が出されました。軍事ジャーナリストの前田哲男氏は「あわただしく採決が急がれる異常な事態」と批判し、「憲法との関係についての根源的な議論が必要だ。そのような問題点について正面から提起し、議論を」と求めました。(二十四日)
ところが与党と民主党は、二十八日の委員会審議終了後、採決日程を合意してしまったのです。
民主党は自民党との協議の中で、自衛隊のイラク派兵を「本来任務」から外すことを求めましたが、自民党は拒否。それなのに採決日程は受け入れました。ここには、国民の声や参考人の声を踏まえて、徹底審議をする姿勢はみられません。
わずかな審議の中でも、法案の本質が明らかになりつつあります。
派兵型軍隊へ
法案は、本来任務とする海外活動に、PKO(国連平和維持活動)法、テロ特措法、イラク特措法などを挙げています。
赤嶺氏が、本来任務とする海外派兵の活動内容に何か限定があるのかをただしたのに対し、久間章生防衛庁長官は「新しい法律をつくれば、それは入る可能性はある」と述べ、なんの限定も示しませんでした。
すでに自民党は、海外派兵をいつでも可能にする「恒久法」原案をまとめています。同案は、海外での“テロ鎮圧作戦”まで可能としており、今後こうした活動まで、自衛隊の本来任務にされる危険があります。
自民党議員は「今度は本来任務だから(海外派兵にも)しっかり人員、装備、予算を」と要求(九日)。久間長官は「直ちに予算が肥大化することは考えにくい」としつつ、別の議員の質問には「本来任務とされれば、それに応じた体制づくりが必要だ」とし、海外派兵のための専門部隊の新設や、輸送能力強化を挙げました(二十八日)。
また久間長官は、省移行の理由について「各国が国際協力業務で活動しているときに、日本もそれに加わるべきだというのが根っこにある」(同)と説明。“海外派兵型軍隊”への転換と一体というわけです。
これだけ国民の願いに反した危険が浮き彫りになりつつある以上、徹底審議は国会に課せられた最低限の責務です。「今国会成立」先にありきで、採決を強行すれば、国民のいっそうの批判は避けられません。(田中一郎)