2006年12月7日(木)「しんぶん赤旗」
「慰安婦」決議 再提出へ
米議会 “日本政府の責任問う”
日本の妨害判明
【ワシントン=鎌塚由美】アジア太平洋戦争中のいわゆる「従軍慰安婦」について、日本政府に責任を認めるよう求める決議案が一月から始まる米議会(第百十会期)に再び提出されることが確実になっています。今議会では、九月に米下院外交委員会を通過しましたが、日本政府のロビー活動で本会議での採決が妨害されたことが明らかになっています。
米国で「慰安婦」問題を広める活動をしてきた「慰安婦問題ワシントン連合」のオクチャ・ソック会長は、決議案が本会議の採択まであと一歩で実現しなかったことは「残念」としながら、「委員会で通過したことは大きな成果でした」と語りました。ソック会長は、「(来年一月からの)次期議会では、積極的な可能性がある」と言います。
すでに次期議会で「慰安婦」決議を提出すると表明しているのがホンダ下院議員(民主党)です。同議員事務所のコーンズ報道官は、「次期議会では時期をみて提出する」と語りました。
二〇〇〇年以来、議会で「慰安婦」問題を取り上げてきたエバンス下院議員(民主党)は、パーキンソン病の悪化で今期限りで引退。ホンダ議員は、カリフォルニア州議会議員時代から、「慰安婦」など戦争犯罪への明確な謝罪を日本政府に求める決議を提出してきました。「エバンス議員から引き継ぐ」(同報道官)ことになります。
「慰安婦」決議妨害 米誌が報道
大物ロビイストに“日本が月690万円”
下院外交委員会(ハイド委員長=共和党)が、日本政府に責任を認めるよう求める「慰安婦」決議を全会一致で通過させたのは九月十三日。エバンス議員は二〇〇一、〇三、〇五年に同様の決議案を提出していますが、委員会を通過したのは今回が初めてでした。
議会院内紙ヒル(九月二十七日付)によると、委員会通過後、ハイド委員長や他の議員が本会議での速やかな採択を求める書簡を送付しました。しかし、「対日関係を考え、決議案にいい顔をしない」下院議長のハスタート議員や院内総務のベイナー議員(いずれも共和党)は、採決日程を決めることを渋ったといいます。
同紙は、決議採択を求める韓国系米国人らの働きかけに対抗し、「日本は決議に反対し静かにロビー活動をした」と紹介しました。
「冷たい慰め 日本ロビーが第二次世界大戦の性奴隷決議を妨害」と題して報じたのは、『ハーパーズ・マガジン』(電子版、十月五日付)。日本政府は大物ロビイストに「月六万ドル(約六百九十万円)」もの大金を支払っているとし、ホワイトハウスも「ひそかに慰安婦決議を妨害していた」と指摘しています。
「超一流のワシントンのロビイスト」とは、議員歴三十八年の元下院院内総務のロバート・マイケル氏で、ハスタート議長や採決日程を管理するベイナー院内総務とは元同僚の間柄という人物。
同誌によると、マイケル氏は五月末、ハイド委員長に対し、決議が通れば日米同盟に支障をきたすなどと圧力をかけました。関係者は、その直後に「すべての交渉が止まった」と述べています。しかし、小泉首相(当時)の八月十五日の靖国参拝に業を煮やしたハイド委員長は九月、決議促進に踏み切ったといいます。
同誌は、下院指導部への具体的な働きかけは「不明」としながらも、速やかに本会議で採択されるはずだった同決議案が動かなくなったのは、「ホワイトハウス、マイケル氏、他の日本のロビイストらがベイナー議員、ハサート議員に働きかけた」からだと「議会ではうわさ」になっていると伝えています。
日本大使館は、本紙の問い合わせに対し、「あらゆる案件で必要な努力をしている」と回答、「慰安婦」決議に対するロビー活動を否定しませんでした。
小泉首相の後を継いだ安倍首相は国会で歴史認識を正面から問われ、「従軍慰安婦」問題について、旧日本軍の関与と強制を認めた一九九三年の「河野官房長官談話」を認め、継承する立場を表明しました。その日本政府が次期議会でも引き続き妨害を続けるのか。態度が問われています。(ワシントン=鎌塚由美)
「慰安婦」決議案
九月に米下院外交委員会を通過した決議案は、「慰安婦」を「奴隷化」する過程で、日本政府が公式に関与したと認定。日本の一部の教科書で「慰安婦」問題や他の残虐行為を軽視し、第二次世界大戦における日本の役割が歪曲(わいきょく)されていると指摘しています。
日本の教科書から「慰安婦」の記述が消えたことを政治家や官僚らが称賛したことに触れ、▽日本政府が公式に責任を認め受け入れる▽この非人道的犯罪を未来と現在の世代に教育する―ことなどを求めています。
エバンス議員と共和党のスミス議員が四月に提出し、ほかに五十六の議員が共同提出者に名を連ねました。