2006年12月28日(木)「しんぶん赤旗」
諫早調整池
水質保全 自治体任せに
赤嶺議員に政府答弁書
国営・諫早湾干拓事業で造成した調整池の水質改善対策事業について、来年度の事業完成以降、農水省は長崎県など自治体に任せて手を引く考えであることがわかりました。日本共産党の赤嶺政賢衆院議員が提出していた質問主意書への政府答弁書で、初めて明らかになりました。
調整池の水質改善対策は、干拓事業完成後も長崎県や関係自治体に長期間にわたって巨額の負担を強いると予想されるだけに、事業主である国の責任が注目されていました。
水質改善対策が効果をあげていないため、赤嶺議員は海水を調整池に導入する抜本的な対策などを求める質問主意書を提出。このなかで「工事完了後の水質改善対策もしくは水質保全対策は、国が行うのか。あるいは長崎県や地元自治体が行うのか」とただしていました。
政府はこのほど答弁書を提出し、「国として現時点では、工事完了後の水質保全対策については、予定していない」と回答、国の態度を初めて明らかにしました。
干拓事業は一九九七年、諫早湾を閉め切って二千六百ヘクタールの調整池(農業用)と干拓地を造成。調整池は淡水化したことにともない、水質が急激に悪化しました。有機物の指標である化学的酸素要求量(COD)や懸濁物質(SS)にチッソやリンも急速に増え、それぞれの濃度は閉め切り前に比べ、二・三―四・一倍も増加しました。
これまで四百億円余をつぎ込み、水質改善対策が進められてきました。しかし、CODは基準値が一リットル中五ミリグラムに対しほぼ八ミリグラムで推移。諫早湾閉め切り後ほぼ十年になるのに基準値に遠く及ばないのが現状です。調整池からの排水量は年間平均で約四億トン。この汚濁水が諫早湾・有明海の汚染源になっているとして漁民から対策を強く求められています。
解説
地元支出 長期化か
調整池のCOD(化学的酸素要求量)が環境基準値をなかなか達成できないのは農水省の当初からの悩みのタネです。達成できない理由について農水省は、関係自治体による流入河川の生活排水対策が完了してないことをあげてきました。
しかし、生活排水対策が進み、流入河川の水質が改善されてきているのに調整池の水質は依然として改善されないことが明らかになってきました。その原因について同省は、「調整池の浅いところで生じる風による底泥の巻き上がりによる」と弁明。その巻き上げ対策に「潜堤」工事を進めています。
調整池の水質問題を研究してきた佐々木克之・元中央水産研究所室長は、「調整池は慢性的赤潮状態なので、このことがCODの汚染源になった要因」と指摘し、抜本的な対策の必要を強調しています。
調整池はもともと堤防で閉鎖された水系として造成されたため、流れが滞り、植物プランクトンの増殖に格好の条件がつくられました。このため慢性的な赤潮状態が生じています。この構造的問題に立ち入らずに対策を立てても効果は上がらないとみられ、自治体の負担になる水質改善事業は長期に及ぶおそれがあります。
改善対策費は、これまでにつぎ込まれた四百億円を含め、二〇一三年までの計画で総額九百五十億円にもなります。
諫早湾干拓事業と同様の方式で海域を閉め切って造成した岡山県の児島湖も、二十年来の水質保全事業に五千五百億円を投入していますが、基準値達成のめども立たないのが現状です。
児島湖とは条件の違いはあるものの調整池の水質改善が容易でないことがわかります。
佐々木氏は、調整池に海水を導入した短期開門調査(二〇〇二年)で水質が改善された例をあげ、海水導入が経済的負担も少ない抜本的な対策になると強調しています。
(環境ジャーナリスト・松橋隆司)