2002年4月1日(月)「しんぶん赤旗」
文化芸術振興基本法が施行され、その具体化に関心が高まっています。同振興基本法ができたにもかかわらず、小泉内閣が日本芸術文化振興会の独立行政法人化を推進し、助成削減を図るなど、矛盾もあらわれています。
文化芸術の国の振興についての基本理念と方向を示したものです |
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文化の基本法は文化・芸術関係者が二十年以上も前から制定を求めてきました。昨年、議員立法で成立、同十二月七日に公布されました。日本共産党は提案には加わりませんでしたが、国会審議に積極的に参加し、問題点をただして賛成しました。
同振興基本法は、国や自治体が文化をどういう考えで振興するのかという基本理念と、振興のための基本施策の柱からなっています。
「文化芸術を創造、享受することが人々の生まれながらの権利」(第二条3項)と、国民の文化的権利についての文言が盛り込まれています。「文化芸術の振興に当たっては、文化芸術活動を行う者その他広く国民の意見が反映されるよう十分配慮されなければならない」(第二条8項)「文化芸術活動を行う者の…地位の向上が図られ、その能力が十分に発揮されるよう考慮されなければならない」と、専門家の意見を尊重し、地位向上を図ることも明記されています。
「国は、前条の基本理念にのっとり、文化芸術の振興に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」(第三条)など、国と自治体の責務を記しています。
法案への付帯決議でその点にくぎをさしました。今後も介入を許さないとりくみが必要です |
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芸術・文化活動は自由・自律的におこなわれるものです。しかし、振興基本法案には「表現の自由」や「行政の不介入」が明記されていないことから、「行政の介入」の心配はないのか、と専門家から声が上がりました。
日本共産党は審議の中で、「行政が支援をおこなうさいに、芸術・文化活動の内容に介入してはならない」点を強く指摘し、衆議院・参議院それぞれの付帯決議に「文化芸術活動を行う者の自主性及び創造性を十分に尊重し、その活動内容に不当に干渉することのないようにすること」と盛り込まれました。今後の実施にあたっても、行政の介入を許さないとりくみが必要です。
政府は夏にも「基本方針」を定めようとしています |
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文化庁は夏にも同法にもとづいて文化芸術振興を総合的に推進するための基本方針を定めようとしています。四月十二日には香川県で、六月三日には秋田県で、それを前にした地方懇談会も開きます。芸団協(日本芸能実演家団体協議会)などは三月に同振興基本法をめぐりシンポジウムを開きました。
一方で、小泉内閣は芸術・文化への支援とは逆行する政策をおこなおうとしています。
小泉内閣は特殊法人の「改革」(「整理合理化計画」)の名で日本芸術文化振興会を独立行政法人化の対象にあげ、助成金の削減と政府の監督の強化を図っています。同振興会は「学校」(山田洋次監督)、「Shall We ダンス?」(周防正行監督)など多くの日本映画の製作支援をおこなってきました。国立劇場を運営し、新国立劇場についても新国立劇場運営財団に運営委託し助成をしているのも、この日本芸術文化振興会です。
法律で文化芸術振興をいいながら、一方で助成を削ろうという方向には、関係者から強い批判の声があがっています。地方でも地方オーケストラや映画祭などへの文化予算が削減される事態が続出しています。こうしたやり方をチェックし、やめさせることが大事です。
文化行政を充実させる |
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矛盾いっぱいの小泉内閣の文化政策ですが、芸術・文化関係者がシンポジウムなどを開き、振興基本法を生かし、芸術・文化の発展に役立つ支援を充実させようと努力しています。日本共産党も国会議員団と芸術・文化団体との懇談会を二月に開き、振興基本法のもとで文化行政発展をともにすすめるために意見を聞きました。懇談会には日本芸能実演家団体協議会、全国演劇鑑賞団体連絡会議、日本レコード協会など各分野から三十七団体九十余人が参加し、熱心に意見交換しました。
こうした声を受け、日本共産党は、振興基本法を活用するため、政府まかせにせず、関係者、国民の声を反映させるとともに、「お金はだすが、口はださない」という公的支援の原則の確立を重視しながら、五つの課題を示し、実現めざし関係者と協力していこうと努力しています。
一つは「文化にふさわしい税制支援を具体化する」ということ。寄付税制の拡充や、芸術・文化活動への現在の不当な税制の改善、消費税の減税、を提案しています。二つ目は「専門家の社会保障の充実」。労災が適用されないなど、専門家がおかれている遅れた社会保障の現状をただちに解決していこう、といっています。
三つ目は「芸術文化振興会の独立行政法人化に反対し、事業の充実・発展をめざす」ことを掲げています。四つ目は「日本映画への支援をすすめる」。映画団体が提唱している日本映画振興基金などの実現を図るよう努力することにしています。
五つ目は「子どもの文化的権利を実現するための環境整備を重視する」。国連が定めた「子どもの権利条約」第三一条にある、子どもの文化的権利を実現していくことや、学校での芸術教育や、子どもたちが芸術に親しめるよう環境を整備することが大事とよびかけています。
文化芸術振興基本法は芸術・文化にかんする基本的な法律が作られたという意味で、画期的といえます。
しかし、実際問題として、ここに書かれたことをどう具体化し実施するか、という問題があります。それだけに、この法律にもとづいて策定される「基本方針」に注目しています。
私たち演劇に携わる者としては、こういう法律ができたにもかかわらず、新国立劇場の民間委託、文化芸術振興会の独立行政法人化が図られ、その予算が削られています。地方自治体の文化予算も削減されています。不況の中、国民のさいふのヒモは堅く締められて、芝居をみる人の数が減っています。
舞台芸術への国民のアクセス(接近・利用)、かかわりを、どう増やしていくかが大きな問題ですし、またこれまで積み上げられた市民運動をどう評価するのかという問題もあります。さまざまな関係団体で議論し、必要な意見をだして、基本方針に反映させなければなりません。また、国が芸術の自律や表現に介入できないような仕組みや、無権利状態にある、演劇人など実演家・スタッフの社会保障をどうしていくのか、急いで改善しなくてはならない問題です。
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