──新しい「標準管理規約」のポイント
都市における住宅として、分譲マンションが定着してきました。長く快適なマンションライフを続けるうえで欠かせないのが、マンションの維持・管理、生活の基本ルールを定めた管理規約です。国土交通省は、その標準モデルを定めてきましたが、このほど、その内容を改正して、新しく「マンション標準管理規約」を発表しました。何がどう変わったのか。どう役立てたらいいのか。日本共産党国会議員団事務局の田上和儀さんに書いてもらいました。
上手な管理運営のために 居住者の悩みに応えて
国土交通省は、二〇〇四年一月二十三日に、マンション標準管理規約を発表しました。これは、(1)マンションにかんする法制度の改正(マンション管理適正化法やマンション建て替え円滑化法の制定、建物区分所有法等の改定)や、(2)マンションをとりまく情勢の変化を踏まえて、「中高層共同住宅標準管理規約」を改正したものです。
位置づけの変化
今回の改正では、標準管理規約の名称と位置付けが変わりました。
まず、名称は、「中高層共同住宅標準管理規約」が「マンション標準管理規約」に。また、その位置付けが、新規分譲時に分譲業者が参考にするためのものから、居住者(区分所有者)が管理規約を制定・変更する際のモデルにするためのものに変わりました。もちろん、新規分譲時に使用されるものとしても、引き続き周知徹底を図っていきたいとしています。
この標準管理規約は、あくまでも参考にするためのものであって、強制されるべきものではありません。内容も絶対的なものではありません。マンションの形態や規模もさまざまですから、個々の管理組合は、マンション標準管理規約とその解説(「マンション標準管理規約コメント」)を参考にしながら、それぞれのマンションや管理組合にふさわしい規約となるよう、工夫することが大切です。
円滑な運営へ
管理組合の役員になったときに一番困るのは、その運営をいかに円滑で民主的なものにしていくかではないでしょうか。
たとえば、理事長だけの判断で決められることはどこまでなのかなども判断に迷うところです。組合員の要望にもとづいて理事長が植木の伐採を決めたけれど、あとから別の組合員から苦情が出たなど、よくあるトラブルです。
資金の保管や運用をめぐっては、ペイオフ問題への対応など、理事会だけの判断で決めることへの不安の声もきかれます。
今回は、こうした事例への対応で数多くの改正がおこなわれています。そのなかからいくつかを紹介しましょう。
- 修繕積立金の保管・運用方法を総会の議決事項に追加する
- 植栽の伐採等重要な問題は、理事長権限でなく、総会議決によることが望ましい
これらは、さきに紹介した理事長の権限やペイオフへの対応などにかかわっての規定の変更です。
- 長期修繕計画の計画期間を二十五年程度に変更、計画修繕の対象に窓や玄関扉等の開口部の改良を追加。この改良を管理組合が速やかに実施できない場合は、各居住者の責任と負担において実施することについて、細則を定める
右は、ピッキング対策などへの対応にもかかわる玄関扉の改良工事を、原則として他の共用部分と同様に計画修繕の対象とすることを規定したものです。同時に、こうした問題は、一部の居住者に緊急かつ重大な必要性が生じる場合もあるため、居住者が個人の責任でも改良ができるようにするための規定変更です。
ほかにも、管理組合の総会・役員・組織・業務に関して、以下のような規定の変更が行なわれています。
- 総会の議事で可否同数の場合、議長が決する方法を削除し、議長も議決権を有する単純多数決とする
- 総会議事録の署名人を議長と総会に出席した組合員二名とする
- 理事長が作成、保管すべき帳簿類(会計帳簿、備品台帳など)を明示する
- ペットの飼育に関し認める場合、認めない場合の条文を例示
まだまだたくさんありますが、管理組合の民主的でスムーズな運営の参考にしてみてください。
大規模修繕の合意形成
決議要件が変わりました
法的措置がとれる
区分所有法の改定で、管理組合理事長に共用部分などについての訴訟等の当事者資格が認められました。この問題は、多くの管理組合が長年にわたって要求してきたものです。
それにともなって、新しく改正された「マンション標準管理規約」(以下「標準管理規約」)では、未納管理費の請求や共用部分についての損害賠償などについて、理事会の決議があれば、理事長が管理組合を代表して法的措置をとれるようになっています。
また、マンション管理適正化法の施行によって、マンション管理士という新しい国家資格がつくられました。改正された「標準管理規約」では、管理組合は、マンション管理にこうした専門家の知恵を借り、援助を求めることができるとし、その費用を管理費から支出できるとしています。
不可欠な事項
区分所有法の改定を受けて、大規模修繕工事などの決議要件も変わりました。敷地及び共用部分などの変更のうち、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」は総会の普通決議で議決すると規定されました。そして国土交通省は「標準管理規約」の解説で、普通決議だけで可能な共用部分の変更について具体的な事例を示しています。
「標準管理規約」では、普通決議は総会に出席した組合員の過半数の賛成だけで決められます。ただし、大規模工事など、多額の費用を要する事項については、出席者の過半数ではなく、マンション全体の議決権総数の過半数で決めると定めてもよいとしています。大規模修繕にかんする組合員の合意を形成していく上で、この部分は大事な内容です。
また、「標準管理規約」では、建物の修繕等の履歴情報の整理や管理を組合の業務とし、履歴情報の具体的内容を解説で明らかにしています。これは、建物管理上不可欠な事項であり、規約に盛り込むことが重要です。
町内会の行事参加
管理組合の役員をやっていると、地域の町内会の行事への参加を求められることがあります。
地域のコミュニティーに配慮すること、居住者間のコミュニティーの形成は、マンションの管理にとっても大事なことです。「標準管理規約」は、こうしたコミュニティーづくりを管理組合の業務とし、そのための経費を管理費から充当できるとしています。
建て替え規定どう盛り込むか
管理組合で慎重に検討を
大きな議論に
区分所有法改定をめぐって大きな議論になった部分にマンションの建て替え問題があります。
今回改正された「マンション標準管理規約」(以下、「標準管理規約」)では、マンションの建て替えに関する規定を次のように盛り込んでいます
- 建て替えに関する調査を管理組合の業務とし、その費用を修繕積立金から取り崩すことができる
- 建て替え決議に関する区分所有法の内容を規約に条文化し、賛成者・反対者が明確にわかるように決議することが必要
- 建て替え決議から建て替え組合の設立までの間に、建て替え計画のために修繕積立金を普通決議で取り崩すことができる
2カ月前に通知
建て替え問題でいちばん大切なことは、組合員の十分な合意をもとにすすめることです。そのためにも、建て替え関連の規定をどう盛り込むかは、それぞれの管理組合でも慎重に検討する必要があります。
今回の「標準管理規約」の改正では、総会を招集する場合、会議の目的が建て替え決議であるときは、二カ月前までに会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知しなければならないとしています。建て替え決議以外の場合は、二週間前となっていますから、建て替え問題の重要性を考慮に入れた改正です。こうした内容は、積極的なものなので管理規約に盛り込むことが大事です。
このほか、区分所有法の改定にともない、管理組合の規約や議事録の電磁的方法(パソコンやインターネットの利用)による作成・閲覧、総会の招集や議決権の行使が可能となりました。国交省がつくった「標準管理規約」の解説(「マンション標準管理規約コメント」)は、管理組合における電磁的方法が利用可能な場合と利用可能でない場合にわけて規定を例示しています。
個々の管理組合で、電磁的方法をとることは全員の同意が必要ですが、採用するとしても、どういう方法なら可能なのかの検討が大事です。諸条件をクリアして初めて定めることが可能な内容です。
もちろん、管理規約にこうした条項を盛り込むかどうかはそれぞれの管理組合の選択の問題です。最初にもお話ししたように、この「標準管理規約 」は 、あくまでも参考にするためのものだからです。
改正あわてずに
マンション関連法とのかかわりでいえば、法律が変わったからといって、個々の管理組合があわてて管理規約を改正する必要もありません。法律が変われば、管理規約がどうあれ、法律の内容が優先されるからです。
大事なことは、個々の管理組合が、それぞれのマンションの実態に合った、よりよい管理規約をつくっていくことです。そのためにこそ、今回改正された「標準管理規約」を有益に活用してもらいたいと思います。
(日本共産党国会議員団事務局 田上和儀)
HPで見られます
標準管理規約及びコメントは、http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/07/070123_3_.html(国交省)で見ることができます。
また各型ごとの小冊子(1冊500円)と「マンション標準管理規約改正の経緯とその内容」(1000円)がマンション管理センター●03(3222)1516で頒布されています。
(「しんぶん赤旗」2004年4月9,10,14日付に掲載)
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