「"禁止"よりルール作りを」「飼い主のマナー改善が先」 「集合住宅ではペットを飼えない」という「常識」が変わりつつあります。新築マンションでは「飼ってもいい」が多数派ですが、新たなトラブルも生まれています。結果としてペットが捨てられたり、"安楽死"させられることも。そんな現状を「人と動物との共生」の条件づくりで改善していこうという動きが始まっています。ルールを守ればOKが過半数に 「一割ぐらいの住民は、禁止してもペットを飼育する。ルールを決めて飼えるようにしたほうがうまくいく」「マナーを守らない飼育者が多い。解禁は慎重にしたほうがいい」――。
十月下旬、横浜市で開かれた「住まい・まちづくりフォーラム」(かながわ住まい・まちづくり協会主催)。現状集合住宅の動物飼育問題にかかわっている獣医師や弁護士、一級建築士、動物ボランティアなどが体験や意見を交流しました。
弁護士の矢花公平さんは、マンション管理規約で一律にペットの飼育を禁止することの合法性が問われた「横浜ペット裁判」を担当した経歴の持ち主。都市部では集合住宅居住者が六割を超えるなかで、「一定のルールを守れば、飼ってもいいと考える人が過半数を突破(旧総務庁調査)」、「国の『標準管理規約』が条件付きでペット飼育ができるように改訂(一九九七年)」、「公営住宅や民間マンションでも飼育が認められる動きが広がっている」などの現状を紹介。「横浜ペット裁判」は飼育を禁止すること自体が違法とはいえないという判決でしたが、「ペットとの共生」が大きな流れであることを強調しました。終生飼育する決意なければ 「安易な解禁には反対」と述べたのは「まちづくり協議会」管理相談員で動物ボランティア活動をしている計良(けいら)たか子さん。「無責任な飼い主が多い現状でマンションのペット飼育が解禁されれば、安易に飼う人が増え、トラブルが多発し、"飼えなくなった"と捨てられる犬や猫がいっそう増えかねません」 計良さんは、二十年来ペット共生住宅の企画設計に携わり、地域で野良猫の避妊・去勢などにも取り組んでいます。「個人的には、誰もが動物とくらすことができる社会になってほしいと願っています。でも捨てられて、命を奪われているペットが多すぎます。終生飼育する決意なしに飼い始めるのは無責任です」楽しく"共生"のシステムほしい 横浜市青葉区の動物病院院長、井本史夫さんは、自分が住んでいるマンションで「飼い主会」を結成。「犬がほえてうるさい」「ベランダでブラッシングされたら困る」などの問題を解決してきた経験を紹介。「規約に違反している」「飼うのは権利だ」と双方が争っているとトラブルが深刻化するので、「マンションというコミュニティーで楽しく暮らすには」という問題の立て方をすることが大切、と指摘。細かな規則を決めるより、問題が起きたときには「飼い主の会」が窓口になって機敏に解決するというシステムをつくることを提案しました。
一級建築士で愛玩(あいがん)動物飼養管理士の金巻とも子さんは、企画や設計、管理を手がけた「ペット共生」集合住宅の現状を報告。「トラブル回避に重点が置かれ、『ペット共生』でなく『ペット警戒』のマンションが多い」「ペット洗い場などの設備を作るよりも、居住者同士が共同体意識を持って生活できるしかけが必要」と、廊下や各戸の入り口に物を置いたり飾ったりできるようにした事例も紹介しました。
"禁止されているけれども飼っている"という状態で広がってきた集合住宅でのペット飼育。動物が好きな人も嫌いな人も、ペット自身も安心して過ごせるための模索が続きます。
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