2001年11月30日(金)「しんぶん赤旗」
参院文教科学委員会で29日、文化芸術振興基本法案(与党3党と民主党などの提案)が全会一致で可決されました。同法案は文化芸術の振興施策にふれ、個別の文化芸術分野を例示して条文化していることから、取り扱いに差別が内容にするなどの付帯決議も採択されました。
採決に先立って日本共産党の畑野君枝議員は、文化庁が「トップレベル」とする団体に、直接重点助成する「アーツプラン21」予算が近年大幅に増えており、「同法制定で国が支援するさい、内容を評価することに拍車がかかるのではと危ぐする声がある」と指摘しました。
文化庁の銭谷真美次長は「助成にさいして、外部の専門家による審査委員会での審査や運営を適切にすすめたい」と答えました。
畑野議員は、画家や芸能関係者から労災保障や労働条件で苦労しているとの声が寄せられていることを紹介しながら、ユネスコの「芸術家の地位に関する勧告」も示して、「芸術家の所得や社会保障、労災保障などを具体的に検討すべきだ」と要求しました。
銭谷真美次長は「芸術家の意見を改めてよく聞き、社会保障関係の各制度の実態を考慮して各省庁と相談したい」と答えました。
特殊法人「改革」の一環として、国立劇場の民営化や新国立劇場の「演劇分野の国費投入廃止」(行政改革推進事務局)などが進められようとしている問題で、文部科学省は29日の参院文教科学委員会で、「廃止・民営化はなじまない」とのべました。日本共産党の畑野君枝議員の質問に答えたもの。
銭谷真美文化庁次長は、「日本芸術文化振興会がおこなっている事業は公共性が高く、採算ベースに乗らないからと単純に事業を廃止・民営化するという議論にはなじまないものもある。演劇への国費投入の必要性など文化芸術振興の観点から必要なことは必要との理解を求めていきたい」とのべました。
○委員長(橋本聖子君)
文化芸術振興基本法案を議題といたします。
本案につきましては既に趣旨説明を聴取しておりますので、これより質疑に入ります。 質疑のある方は順次御発言をお願いいたします。
○畑野君枝君
おはようございます。日本共産党の畑野君枝でございます。
きょうはトップバッターで質問させていただくということになっておりますので、よろしくお願いいたします。 文化芸術振興基本法案につきましては、自由かつ創造的に行われるべき芸術文化活動への国家と行政の介入や、あるいは国費の重点配分による差別と選別を招きかねないのではないかという懸念があることに対しまして、衆議院の審議の中では、芸術文化活動に対しての行政の介入はしないという答弁や、差異は設けないという答弁がございました。さらに、質疑の中では、表現の自由の保障は当然であるとの意思も確認されてきたところだと思います。
この法案につきましては、基本理念の中で、文化的権利やあるいは芸術家の地位向上などが条文として明記をされました。また、芸術団体が寄附を受けやすくするための税制上の措置も書き込まれております。 こうした理念や施策につきましては、六万人の芸能実演家を擁する芸団協を初め、多くの文化芸術団体、個人の皆さんが二十数年にわたって研究を重ね、粘り強く運動されてこられた、その一定の成果の反映だというふうに思っております。 しかしながら、私は、まだまだ創造する側あるいは享受する側、国民の皆さんの願いからすれば十分ではない点があると思いますし、芸術文化の本当の振興、芸術家の創造表現の自由や地位の自主的な向上、そして国民の文化権を発展させる、この点で質問をさせていただきたいと思うわけであります。 まず最初に伺いたいのは、文化庁の直接支援でありますアーツプラン予算、これはこの間、九六年の三十二億六百万円が二〇〇一年には二倍の六十三億六千九百万円になっておりますが、一方で、第三者機関を通じての間接支援である芸術文化振興基金による支援という点では減っておりまして、最高の九一年三十一億三千四百万円だったものが二〇〇〇年には三分の一の九億七千七百万円と、金利の低下の影響はあるにしても、そういう状況になっているわけなんですね。
アーツプラン21についてですけれども、我が国の芸術水準向上の牽引力となることが期待される芸術団体に対する重点支援だとか、またことしの新世紀アーツプランではトップレベルの団体というふうになっております。このように、内容の評価にかかわることが現に行われておりまして、直接の公的支援をする場合に内容に対して行政介入のおそれがある、法律制定によってさらに拍車がかけられるのではないかという危惧の声も聞かれておりますけれども、その点についてどう考えるか伺います。
○政府参考人(銭谷眞美君)
ただいま先生お話ございましたように、我が国全体の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術の頂点を高めるとともに、そのすそ野を拡大するということが必要だと考えております。
アーツプラン21によりまして、我が国の芸術水準を高める上で直接的な牽引力となることが期待される芸術活動に対して現在重点的な支援を行っておりますし、一方、そのすそ野を拡大するという意味合いでは、若手芸術家の養成・研修、あるいは地域文化の振興への支援、あるいは芸術文化振興基金による多様な活動への助成を行っているわけでございます。
来年度、現在考えております文化芸術創造プランの中でも、トップレベルの芸術活動の支援、新進芸術家の養成、そして子供の文化芸術体験活動、この三点を総合的に推進をするということで考えておりまして、その中で芸術団体が行う地方公演の支援など文化のすそ野を広げる事業についても積極的に対応していきたいというふうに考えております。
なお、このアーツプランなどによります助成に際しましては、現在、芸術家や有識者、こういった外部の専門家の方によって構成される審査委員会を設置いたしまして、この審査委員会で適切な審査を行った上で助成を決定しているところでございます。今後ともそのような運営が適切に行われるように努めてまいりたいと考えております。
○畑野君枝君
その点で、アーツプランなどの直接支援に対しましても、文化庁から独立した第三者機関ですね、専門家などを含めた、そういったものも設ける必要があるのではないかと思いますが、この点はいかがですか。
○政府参考人(銭谷眞美君)
これまでも、アーツプランの実施につきましては外部の専門家の方による審査委員会というものをきちんと設けて実施をいたしております。今後ともそのように考えております。
○畑野君枝君
次に、表現の自由の問題、これは一九八〇年のユネスコの勧告の中でも示されております。私は、このユネスコの芸術家の地位に関する勧告の中でこのように言われている点が大事だというふうに思います。つまり、「最も広く定義された芸術が、生活の不可欠な部分であること、かつ、そうあるべきであることを認め、また芸術的表現の自由を助長する精神的風土のみならず創造的才能の発揮を促進する物質的条件の醸成、維持に努めることは各国政府にとつて必要かつ適切である」、このように言っております。つまり、経済的な保障、これがないと表現の自由の本当の開花にはつながっていかないというふうに思うからでございます。
衆議院の審議の中で、提案者からは、地位の中には社会保障を含む経済的かつ社会的権利が含まれているというふうに答弁されております。そこまで考えるならば、所得や社会保障まで触れていくべきではなかったかというふうに思うわけですが、この点について今後どのように考えておられるのか、施策あるいは立法はどのようにお考えになっているのかを伺います。
○衆議院議員(中野寛成君)
芸術家の社会的な地位の向上ということについては、芸術家団体の皆さんからとりわけ強く要請を受けたものでございまして、そういう意味でも期待は大きいと思います。そしてまた、社会保障的な性格を持たないのであれば、それを規定する意味がないのではないかとさえ私ども思います。
今御指摘いただいた自由を保障する自主的な創造、また享受を保障することがこの法案の目的でございますので、おっしゃられた趣旨を体して当然それが実現しなければいけないものと思っておりますが、この法律案が施行されて、さまざまな公演や展示等への支援、それから芸術家等の国内外における研修や発表機会の充実など、そういうことが活性化されることは、おのずから芸術家の経済的な地位や社会的な地位を高めることになろうと思います。
ただ、労働災害などの社会保障の問題についてはとりわけ厚生労働省の皆さんに頑張っていただかないといけませんし、これは以前にも先生の党の方から御指摘があって、懸案になっているテーマもあると思います。そういうことをより一層促進させていくためにも、この法律案が有効に機能するのではないかと期待をいたしております。
○畑野君枝君
本当に芸能関係者の方あるいはいろいろな方から労災補償や労働条件で大変苦労されているというお話を私も伺います。
そして、例えばフリーのカメラマンの方のお話ですけれども、フリーだから自由でいいではないかというふうに言われるけれども、現実はフリーしか選べない、フリーではなくてフリーターだと、こういうふうな声もあるわけですね。
芸能実演家の活動と生活実態を芸団協の皆さんが調査報告書を出されておりますけれども、その最新の中ででも、二十九歳までの女性芸能実演家の年収収入は、民間のOLあるいは公務労働者の年間の収入の半分、百五十九万円になっている、こういう実態なわけですね。ですから、所得や社会保障、芸能の制作現場における安全管理や労災補償等についても、さらに一層具体的な検討をすべきだというふうに思っております。
先ほど厚生労働省との関係も進めるということでございますけれども、文化庁、この点では、どういう内容をどういう方向で相談するということになるのでしょうか。
○政府参考人(銭谷眞美君)
お話のございました芸術家の皆さんのいわゆる労災補償など社会保障の問題につきましては、一義的には厚生労働省の所管となるわけでございますが、文化庁としても芸術家の社会的、経済的な地位が向上していくということは文化政策上大変重要なことだと考えております。
今後、芸術家の皆様方の御意見を改めてお伺いをし、また社会保障関係の各制度のそれぞれの実態も考慮して、関係省庁とよく相談をしてまいりたいというふうに考えております。
○畑野君枝君
ぜひ進めていただきたいと思います。
さて、次の問題ですけれども、一方で文化芸術の振興というふうに言うわけでございますが、他方では、今、特殊法人改革の名前によって文化の切り捨てが進められようとしております。例えば、国立劇場や新国立劇場の民営化など、行政改革推進事務局は、特に演劇分野は国費の投入廃止、こういうことなども書かれていると伺っております。
国は、一方で振興と言いながら、民間でやっているからということで切り捨てる。こういうことは私はあってはならないというふうに思うわけですが、この点について、どのように文化庁としては考えておられますか。 ○政府参考人(銭谷眞美君) 特殊法人改革というのは、文化庁としても政府の最重要課題であるというふうに認識をいたしております。
これまで日本芸術文化振興会につきましても、養成・研修事業、あるいはその設置をいたしております国立劇場、新国立劇場の運営業務、あるいは芸術文化振興基金による助成事業などにつきまして、種々御指摘をいただいているところでございます。
文化庁といたしましては、日本芸術文化振興会が行っております事業は公共性が高く、採算ベースには乗らないために、いわゆる単純な事業の廃止、民営化には、その議論にはなじまない面もあると考えております。
今後、演劇への国費投入の必要性など、文化芸術振興の観点から必要なものは必要ということで御理解を求める一方、特殊法人改革の趣旨から改善すべき点は改善しつつ、適切に対応してまいりたいと考えております。
○畑野君枝君
必要なものは必要という立場だというふうに伺いました。
この点では、民間の方が効率的でいいからというふうに言って市場に任せてしまいますと芸術文化はつぶれてしまう分野もあるわけですね。効率性では済まない、こういうことでございます。
そういう点で、「文化芸術活動が活発に行われるような環境を醸成することを旨として」とあるわけですから、効率性を物差しにして公的支援を打ち切るという意味ではないということを御確認したいと思いますが、提案者の方、いかがですか。
○衆議院議員(斉藤斗志二君)
ただいまの御質問は、基本理念をうたった第二条第四項に触れているのではないかと思っておりますが、我が国において文化芸術活動が活発に行われるような、そういう環境が醸成されること、これは非常に大事だと思っておりまして、結果、我が国の文化芸術の発展、ひいては世界の文化芸術の発展に資することを願っているものでございます。
御指摘の効率性を基準等々の関係でございますが、この規定では助成のあり方と関係するものではないと私ども理解をいたしておりまして、多様な文化芸術活動に関して幅広く助成を行っていくということが大事だと考えております。
その際、専門的な見地から判断すべきものとは考えておりますが、何よりも大切なことは、より多くの助成が可能となるよう文化芸術予算の充実を図っていくというふうに考えております。 お花をいっぱいきれいに咲かせたいと思っておりますが、水をやらないというわけでは、そういうことではいけないんだというふうに思っております。
○畑野君枝君
文化庁はいかがですか。
○政府参考人(銭谷眞美君)
先生御指摘の規定が効率性を基準とする助成のあり方と関係するものではないと考えておりますが、いずれにいたしましても、多様な文化芸術活動に対して幅広く助成を行っていくということは我が国の文化芸術の発展にとっては大変に重要なことであると認識をいたしております。 その助成を行うに際しましては、その活動の趣旨や内容、その必要性などにつきまして、それぞれの専門家による判断の上に立って行われているところでございますし、今後ともそのように考えていきたいと思っております。
○畑野君枝君
最後に伺いたいんですが、遠山文部科学大臣に伺います。
私の事務所にも映画関係者の方からファクシミリが寄せられまして、幅広い議論を今度の法案でも行ってほしいし、これによって今の芸術文化振興基金の廃止などの愚策はやらないでほしいと、こういう声が寄せられているわけでございます。
ですから、一方で文化芸術振興基本法で振興しながら、一方では日本芸術文化振興会の業務を民営化するとか助成事業を縮小することのないようにぜひお願いをしたいと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(遠山敦子君)
日本の将来を考えますときに、科学技術創造立国とともに、文化立国で立っていくということはまことに大事だと考えております。
新しいこの法律案は、成立いたしますれば、日本の文化芸術をさらに振興するという、力強い歩みを始めるというための法律だと考えております。その趣旨に照らして、私どもとしては、この分野の振興について責任を持ってこれから対処してまいりたい。次長及び提案者の方々の答弁にありましたような方向でしっかりと歩むということを私としてもここで申し上げたいと思います。
○畑野君枝君
終わります。