日本共産党

2002年10月4日「しんぶん赤旗」

見直しが必要な「新世紀アーツプラン」

芸術・文化活動への支援を考える


 文化庁の文化芸術創造活動への支援である「新世紀アーツプラン」の採択結果が発表されました。今年、鳴り物入りで始まった事業ですが、結果だけからでも大きな問題を抱えていることがわかります。

「新世紀アーツプラン」とは何か

 「新世紀アーツプラン」は、「世界水準の芸術家、世界に羽ばたく新進芸術家、感受性豊かな子どもたち」を総合的に育成するとして、「オペラ、バレエ、映画等の重点支援によるトップレベルの芸術の創造」、「世界に羽ばたく新進芸術家の養成」、「こどもの文化芸術体験活動の推進」の3つの柱に、13の施策がもりこまれています。

予算上も、193億円と文化庁予算のなかで約20%を占めます。また、地方自治体の文化施設の建設・維持費を除いた芸術文化経費の総額が494億円(2000年)ですから、日本の行政全体による芸術活動への支援のうちでも大きな位置を占めます。それだけに、「新世紀アーツプラン」を吟味することは、公的支援のあり方を考えるうえで大事な課題となっています。

支援の特徴と抱える矛盾

 「新世紀アーツプラン」の支援方法は、重点支援、事業支援、国の直接支援、の3つの特徴をもっています。この特徴から採択結果をみてみましょう。

(1)重点支援による偏りや「東京一極集中」

 「トップレベルの文化芸術団体」を支援する「芸術団体重点支援事業」は、音楽、舞踊、演劇、大衆芸能、映画など75五団体が選ばれています。しかし、「トップレベル」を重点的に選ぶという方式は、大きなアンバランスを生んでいます。たとえば、オーケストラの場合、オーケストラ連盟加盟23団体のうち16団体が対象となっています。他方、演劇の場合、19団体が対象となっていますが、日本劇団協議会に加盟する劇団だけで71あり、加盟していない日本全国の演劇団体からいうと、ごく一部といわざるを得ません。また、支援を受ける劇団のほとんどが東京に集中しており、「東京一極集中」を文化庁が後押ししているようなものです。

(2)活動基盤の強化にならない事業支援

 公的支援にあたって芸術団体は、けいこ場や劇場などの活動基盤・条件を強めることを望んでいます。しかし、「新世紀アーツプラン」は、公演などの事業支援を基本としています。この矛盾が端的に現れたのが劇場への支援である「芸術拠点形成事業」です。厳しい不況で民間劇場が相次いで閉鎖に追い込まれているだけに、劇場への支援には「期待」がありました。しかし、劇場の「自主企画・制作公演」などの事業への支援という形式のため、採択されたのは自主企画を組む予算をもった公立施設となり、民間劇場は選ばれませんでした。「(民間劇場が)休・閉館に追い込まれている今、この公偏重の選定には、なぜ? という思いを禁じ得ない」(「読売」10日付夕刊)と指摘されています。

(3)国の直接支援がもたらすもの

 公的支援にあたっては、芸術・文化活動の内容に介入しないことが原則です。「新世紀アーツプラン」は、国の直接支援であり、「トップレベル」かどうかは、専門家の協力はえるものの文化庁長官が決定します。「トップレベル」かどうかを国が認定し、活動内容に介入しかねない問題をはらんでいます。

 また、国の直接支援は、国主導の「文化振興」の傾向を強めざるを得ません。「国際芸術交流支援事業」の「二国間交流」も、政府間レベルにおける「周年事業」を対象としており、政府事業優先の「芸術交流」になりかねない問題をもっています。

関係者の参加による支援方法の検討を

 現在、文化芸術振興基本法にもとづいて文化行政の「基本方針」を決める論議がすすんでいます。このなかでは、既存の施策の見直しとともに、公的支援の方策をつくりあげていくために、芸術家などが参加した政策形成の場を求める意見も多く出されています。こうした声を真剣に受けとめ、矛盾を抱えたままの「新世紀アーツプラン」を見直し、公的支援の新たなあり方をさぐるべきです。

辻 慎一 (党学術・文化委員会事務局)


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