2001年7月18日 日本共産党政策委員会
小泉流の「構造改革」が「不良債権処理」で多くの中小企業を倒産に追い込むなど、国民に耐えがたい激痛をもたらすものであることが明らかになる中で、小泉首相は、「民間の不良債権処理も重要だが、郵政三事業を含めて財政投融資制度、特殊法人、公的部門の改革が大事」などといって、「特殊法人改革」を政策の目玉として強調しだしている。
しかし、特殊法人の問題は、無駄な公共事業によってつくられた巨額の債務の問題にしても、天下り人事やファミリー企業などの政官財の癒着構造の問題にしても、特殊法人を通じて大企業奉仕の政治を続けてきた自民党政治のゆがみにほかならない。「改革」というなら、こうしたゆがみの構造に抜本的にメスを入れなければならない。
ところが、政府が進めようとしている特殊法人「改革」の方向は、こうしたゆがみをただすどころか、大企業や財界の利益に合うかどうかで特殊法人を分類し、大企業の“競争相手”として邪魔な事業は縮小・廃止する(郵政三事業や住宅金融公庫など)、“採算は合わないが大銀行や大企業に役立つ”事業は形を変えて温存させる(石油公団など)、“収益性が高い”事業は民間企業に「切り売り」して、累積した債務のツケだけは国民におしつける(道路公団など)――というものである。これでは、まったく「改革」の名に値しない。
日本共産党は、こうした大企業の利益優先の「改革」ではなく、国民の視点に立って、無駄なものは思い切ってメスを入れ、国民にとって必要な事業は拡充するという方向で、特殊法人の改革を行うことを主張するものである。
特殊法人の中には、ほんらい企業や業界の責任と負担で行うべき事業を国が肩代わりするものや、大企業に補助金をばらまくだけの機関となってきたものも少なくない。
こうした特殊法人は縮小・廃止し、残された借金は、その特殊法人を通じて甘い汁を吸ってきた業界の負担で解決させる。
石油会社の油田開発リスクを肩代わりしてきた石油公団は、「成功しなければ返済しなくていい」という約束で、これまでに二百九十三の石油開発会社に二兆円もの投融資を行ってきたが、成功したのは十三社にすぎず、巨額の赤字をかかえている。政府は、石油公団について先行的に「廃止」を打ち出したが、廃止後も油田開発に「国の関与が必要」だとして、他の特殊法人に引き継ぐなどの形で事業の存続をはかっている。
これでは、これまでの赤字だけが国民の負担とされ、大企業奉仕のための浪費はなくならない。油田開発は石油会社の責任と負担で行わせるべきである。
日本政策投資銀行(旧日本開発銀行・北海道東北開発公庫)は、コンビナート建設など、大企業のための産業基盤整備に長期・低利の融資を行ってきた。とくに、「苫小牧東部開発」「むつ小川原開発」「東京湾横断道路」など、採算の見込みのない事業に巨額の資金を投入してきた。こうした融資はやめ、組織を縮小・廃止する。
事実上、大企業への補助金ばらまき機関となっている新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、安全性の保障がないまま、高速増殖炉やプルサーマルなどの核燃料サイクル研究や、高レベル廃棄物処分などの研究開発を進めている核燃料サイクル開発機構(旧動燃事業団)なども、縮小・廃止する。
預金保険機構(認可法人)については、大銀行への税金投入の仕組みを廃止し、本来の預金者保護を中心としたものに改めるべきである。
奨学金事業や私学助成、公団住宅の管理、住宅・中小企業向け融資など、国民の暮らしにとって大事な事業を行っている特殊法人については、公的部門として充実させる方向での改革を行う。本来、もっと国が責任を果たすべき事業でありながら、特殊法人に仕事をおしつけているようなものについては、特殊法人の形態にこだわらず、国が直接事業を行うこともありうるが、いずれにせよ、国民にもっと役立つように中身を改革していくことが必要である。
政府は、「民間にゆだねられるものは民間にゆだね」るとして、住宅金融公庫や中小企業金融公庫、日本育英会などについて「廃止を含め事業を見直す」対象にしている。しかし、大銀行の中小企業への「貸し渋り」の実態や、地価や教育費が高い日本の現実を考えれば、こうした公的金融の仕組みを廃止して民間金融機関まかせにすることはできない。
政府は、これまでも、住宅・都市整備公団を都市基盤整備公団に再編し、公共住宅の建設から撤退して大企業の遊休土地の買い取りや再開発を中心業務にするなど、国民の暮らしに背を向け、大企業のための「改革」を進めてきた。こうした逆立ちの「改革」をやめ、国民の暮らしに役立つ分野こそ、拡充すべきである。居住者の権利を無視して七十二万戸の公団住宅を民間に払い下げるなどということは許されない。
特殊法人の中で、もっとも巨額の資金を費やしているのが、道路やダム・空港などの公共事業の実施機関である。これらの特殊法人については、無駄な公共事業を思い切ってやめるということが、何よりも重要である。
過大な交通量予測にもとづいて採算の見込みのない道路を建設している日本道路公団は、九九年度末で二十六兆円もの固定負債をかかえている。毎年二兆円の道路料金収入があり、五十年後には債務を返済する計画になっているが、交通量が予測を一割下回っただけで、三十一兆円もの借金が残るという試算もある。このまま無駄な道路建設を進めれば、大変な赤字となることは必至である。新規の無駄な道路建設を中止して、組織をスリム化し、計画的に債務の返済を進める。
一期工事でさえ採算のメドが立っていない関西国際空港株式会社については、一兆五千六百億円もの浪費となる二期工事をただちに中止する。長良川河口堰(かこうぜき)、徳山ダムなど、環境破壊で無用なダム開発をすすめる水資源開発公団は、きっぱり廃止する。
政府が検討しているのは、無駄な公共事業をやめるのではなく、採算の見通しのない道路などは地方自治体などにおしつけ、収益性の高い幹線高速道路は「民営化」して財界が投資できるようにするという方向である。これでは、公共事業の浪費がなくならないだけでなく、借金だけは、国民の税負担におしつけられることになる。
かつて、国鉄の「分割・民営化」の時にも、債務だけが国民におしつけられ、鉄道や駅の一等地など、もうかる部分だけが民間大企業に引き渡された。この結果、本州のJR三社は黒字となったが、清算事業団が引き継いだ借金は減るどころか、逆にふくれあがり、結局、国民の税負担が増大することになった。いま政府が検討している特殊法人の「民営化」の方向では、これと同様の事態が繰り返されることになりかねない。
本州四国連絡橋公団は、すでに道路建設はほぼ終了しているが、建設費だけでも三兆五千六百億円の債務にくわえて、毎年の利払い負担で八百億円程度の赤字を出しつづけ、この累積赤字が今年度末には一兆円を超えようとしている。国と地方で一・六兆円もの出資と八千億円もの無利子融資を予定して、それでも借金の返済に七十年もかかると計算されている。
こうした事態になったのは、過大な交通量予測にもとづく虚構の「採算見通し」を前提として三本のルートの同時建設を進めてきた自民党政府の責任である。政府は、この責任をあいまいにしたまま、償還年数を三十三年から五十年、七十年と引き延ばすなどによって、破たんを糊塗(こと)してきた。こうしたいいかげんな対応ではなく、赤字の原因と責任を国民の前に明確に示して、解決の方向を検討すべきである。
特殊法人が所管官庁の高級官僚の天下り先となり、さらに特殊法人の役員OBが特殊法人の子会社に天下りして、こうしたファミリー企業に仕事が回されるといった、癒着と利権の構造に、国民の批判が強まっていることは当然である。こうしたゆがんだ構造は、ただちに改革しなければならない。
特殊法人への天下りは目にあまるものがある。たとえば、財務省所管の日本政策投資銀行や国際協力銀行の総裁ポストは、旧大蔵省事務次官クラスの天下り「指定席」となってきた。総裁の年収は二千三百八十七万円で、数年在職するだけで退職金は数千万円にもなる。
日本共産党は、国会に「天下り禁止法案」を提案し、その中で、公務員や特殊法人役員にたいして関連企業への就職を禁止することや、特殊法人役職員に占める国の行政機関出身者の比率の制限、特殊法人役員への高額報酬の規制、特殊法人の役員を歴任する「渡り鳥」の禁止などを明記している。この法律を成立させれば、天下りの禁止は、すぐにも可能である。
政府は、「特殊法人のゼロベースからの見直し」を口実にして、「民営化」をしないと解決できないかのようにいって、すぐにもできる天下りの禁止を先送りしようとしている。そのうえ、先ごろ発表された「公務員制度改革の基本設計」では、民間企業への天下りについて、現行の人事院による事前承認制度を廃止し、大臣の一存で認められるように緩和する方向さえ、打ち出されている。「民営化」すれば、天下りは、ますます「自由」になるだけで、問題の解決にはならないことは明らかである。
小泉首相は持論である「郵政三事業の民営化」を強調し、「これまで特殊法人改革ができなかったのは、郵政に手をつけなかったからだ」などといっている。しかし、これは、何重にも国民をあざむくものである。
そもそも、小泉首相のいう「郵政民営化」は、銀行業界などの要求を代弁して、銀行や保険会社にとって「競争相手」である郵便貯金や簡易保険を解体・縮小して、大銀行などのもうけの機会を拡大しようというものである。
日本には全国津々浦々に二万四千を超える郵便局があり、郵便局までの平均距離は一・一キロメートルという身近な存在となっている。全国一律のサービスが提供され、小口の貯金でも手数料なしに、安心して預けることができる。「郵政民営化」は、国民にとっては何の恩恵もなく、身近に金融機関の窓口がなくなるとか、「口座維持手数料」などの負担なしには小口の預金口座を持てなくなるなど、「痛み」だけがおしつけられることになる。
また、郵貯資金が財政投融資という形で特殊法人に流れているからといって、「郵貯がある限り特殊法人改革ができない」などということはない。無駄な事業をしている特殊法人の整理・縮小は、郵貯があろうとなかろうと、政府の責任でできることである。郵貯資金の運用先は、無駄な公共事業や大企業奉仕の使い方をしなくても、福祉関係の公共事業や住宅金融・中小企業金融など、暮らしに役立つ分野で、十分確保することが可能である。
小泉首相は、国会で特殊法人の天下り問題を質問されて、「だから郵政民営化が必要だ」などと居直ったが、天下り禁止は法律をつくれば、すぐできることであり、「郵政民営化」をしなければできないことではない。小泉首相の態度は、「郵政民営化」論が特殊法人の問題点の真の改革を先送りする議論であることを、示すものである。
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