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1999年4月14日
深刻度を増す長期不況のなかで、完全失業率は四・六%と、戦後、統計を取り始めてから最悪、完全失業者は三〇〇万人をこしました。いま、雇用不安が社会全体をおおっています。なかでも大企業は強引なリストラを続け、東京商工リサーチの調べでもこの五年間で五〇万人以上の労働者が減らされました。そのうえで、労働者派遣や請負などの不安定雇用が急速に広がっています。
たとえば、あるパソコンメーカーの工場では、七百人規模の従業員のうち正社員はわずか三十数名にまで減らされ、残りは派遣やアルバイトに置き換えられました。銀行の支店の窓口はほとんど派遣労働者で占められています。外資系のある会社は、労働者を全員派遣会社に転籍させ、そこから派遣された労働者として使い、人件費を大幅に節約する計画を進めていることがマスコミでも大きく報道されました。
ところが政府は、「労働者派遣法改悪案」を国会に提出して、今は二六業務に制限されている派遣労働を建設・港湾・警備をのぞくすべての業務に拡大しようとしています(製造業については当面対象からはずす)。これが通れば、正規労働者の派遣労働者への切り替えが大規模に進むでしょう。大手派遣会社の経営者は、「いまは就業人口の八分の一だが自由化されれば三分の二になる」(「朝日」九八・八・二二)と述べているほどです。政府・財界は、「雇用のミスマッチがなくなり雇用が増える」といいますが、とんでもありません。「企業が進んで労働力を拡大しようとするかどうかは…労働者をどれほど容易に解雇できるかに影響される」(「OECD政策フォーカス」九八・十二、第九号)という指摘に明らかなように、増えるのは、いつでも解雇できる不安定労働者の大群です。東京都がこのたび発表した「派遣労働に関する実態調査一九九八」でも、派遣労働者を利用する企業の側からでさえ、「不安定雇用層が広がり、社会的には好ましくない」という意見が二割をこしているほどです。
労働者派遣とは、雇用契約を結んだ労働者を、まるでレンタル品のようにほかの会社に派遣して働かせ、料金をもらうという「人貸し業」のこと。派遣労働者を使ういわゆる派遣先は、好きなときに好きなだけ労働者を使うことができます。企業が人を雇って働かせるときに当然負うべき責任である、かってに解雇してはならないのはもちろん、賃金や労働時間などの労働条件、社会保険への加入などを、果たさずにすむのですからこんなに都合のいいことはありません。
だからこそ、こうしたやり方は職業安定法で厳格に禁止されてきました。それが、一九八六年、当時の中曽根行革のもとで十六業務に限って公認されました。それから十三年、対象業務は二十六に拡大され政府の統計でも派遣労働者の数は八十六万人に達しています。対象業務以外の違法な派遣や、自動車・電気などに広くみられる請負に名を借りた事実上の派遣も含めたらその数倍になるでしょう。
日本共産党は、派遣業の「公認」は、(1)ピンハネの公認、(2)不安定雇用の拡大につながる、(3)労働条件を劣悪化させる、(4)労働者の団結権を奪う、ことになるとしてきびしく反対してきました。実態は日本共産党が指摘していたとおりに進んでいます。
労働省が昨年十一月発表した調査でも、「契約期間中なのに突然解雇された」「賃金が支払われない」「雇用保険や社会保険に入れない」「年休が取れない」など、労働者としての基本的な権利もないがしろにされたままです。東京都の調査では、「業務の自由化より、派遣労働者の権利を保護する規定を優先すべき」との声が、四割に達しています。
日本共産党は、いま必要なことは、政府案のように派遣の拡大による正規雇用の破壊を進めることではなく、派遣労働者の保護をはかるために現行法を抜本的に改正することだと考えます。この立場から、(1)法律の名前を「派遣労働者保護法」に改める、(2)直接雇用の原則を明確にし、正規雇用との代替がすすまないようにする、(3)一般の労働者に保障されている権利を派遣労働者にも保障する、の三つの柱を中心的な内容とする、「労働者派遣法」改正案を発表するものです。これは、多くの労働組合や法曹団体から出されている要求とも基本的には一致しうると考えています。力を合わせて政府・財界の雇用戦略をうち砕き、派遣労働者の権利を守るために頑張ろうではありませんか。
一、法律の名前を現行の「労働者派遣事業法」から、「派遣労働者保護法」に改めます。
現行の法律は、「労働者派遣事業」を公認するための事業法です。したがって 、派遣労働 者を保護するための規定はきわめて限定されています。これを、名実 ともに派遣労働者を保 護する法律に改めます。
二、派遣の対象拡大は行わず、現行二六業務から縮小の方向で検討します。
労働者派遣はあくまで「専門的一時的な」業務に限り、現行の二六業務から縮小の方向で 見直します。
三、直接雇用の破壊をもたらさないために、派遣労働はあくまで例外とします。
東京都の調査では、派遣労働者利用の理由でもっとも多いのが「従業員数の抑制」三七・六%で、「欠員の一時的補充」や「賃金コスト減」も三割近くあり、企業が正規労働者の抑制・人件費削減などリストラ策の一環として利用している実態が明らかになっています。こうしたことをさけるために、人減らしの道具に労働者派遣を使うことを禁止するとともに、一年以上にわたる派遣や、事実上派遣先が雇用していると見なされる場合には、派遣先への直接雇用を義務づけます。
イ、正規雇用との代替になる派遣は禁止します。 、現行の業務制限に加えて、派遣の事由について、過去一年間に人員削減を目的として常用雇用労働者を解雇したり削減した事業所の派遣受け入れを禁止します。
(1) 派遣は、現行の業務制限に加えて、派遣の事由について、過去一年間に人員削減を目的として常用雇用労働者を解雇したり削減した事業所の派遣受け入れを禁止します。
(2) 特定の派遣先への「もっぱら派遣」は、禁止します。
ロ、派遣先による直接雇用義務づけの措置を講じます。その際、直接雇用を希望しない労働者には強制しません。
(1) 派遣期間の上限を一年とし、更新は認めません。一年をこした派遣労働者は派遣先に 直接雇用を義務づけます。
(2) 派遣先による派遣労働者の直接面接を禁止します。直接面接をしたうえで派遣契約を結んだ場合は、派遣先による採用行為と見なし、直接雇用を義務づけます。
(3) 企業が系列子会社の派遣会社に常用雇用労働者を移籍させ、そこから派遣労働者として元の企業に派遣就労させることを禁止します。違反した場合は派遣先に直接雇用を義務づけます。
四、派遣労働者の権利を保護するための措置を抜本的に拡充します。
派遣労働者は労働省の調査でも明らかなように、本来、労働者なら誰でも認められている権利がないがしろにされています。そこで、労働者として保障されるべき最低の権利を確保するための措置を講じます。 (1) 派遣契約の中途解除を理由として、派遣元との労働契約を解除することを禁止 します。また、派遣労働者の希望に応じ、同等の条件の派遣提供の努力を義務づけ ます。
(2) 賃金や福利・厚生施設の利用など、派遣先労働者との均等待遇を義務づけます。
(3) 社会保険・労働保険や労働条件にかかわる派遣元・先の連帯責任を明確にし 、これらの保険に入っていない労働者の受け入れを禁止します。
(4) 派遣労働者の時間外労働についての三六協定は、派遣先において結ぶこととし、協定の当事者は、派遣先における一般労働者と派遣労働者の合計の過半数代表者とします。
(5) 年休権を確保します。
(6) 個人情報保護違反に対する罰則を含む厳しい規制をします。具体的には、a、派遣元・派遣先が収集できる情報を求職者の職務への適性を判断するために必要なものに限定する、b、派遣事業に不必要な情報収集の禁止、c、個人情報の保管は正当な目的がある場合に限る、d、派遣労働者による個人情報の閲覧・調査・削除・訂正の権利を保障する、e、目的外利用の禁止。
(7) 労働基本権を保障し、派遣元での組合活動について援助措置を講じます。また 、派遣先にも団交応諾義務を課すこととします。
(8) セクハラについて派遣先責任を明確にします。
五、派遣労働者保護法を実効あるものにするために、派遣法に基づく申告権を労働基準法と同様、労働者一般に広げます。
法律を整備しても、それを守らせる体制がなければ現状のように、違法が野放しになります。実効性の確保は、第一義的には行政の責任ですが、労働組合や労働者の協力なしでは、実態をつかむことすら不可能です。政府案では、派遣労働者に申告権を与えていますが、それだけでは不十分です。派遣労働者を受け入れるかどうかは職場の労働者全体の問題です。労基法と同じようにすべての労働者に申告権を与えることがどうしても必要です。
六、派遣は常用型のみとし、登録型は禁止します。その際、三年の経過措置を講じます。
労働者派遣の弊害がもっとも強くでているのが登録型といわれる派遣です。派遣契約の中途解除、賃金の未払い、社会保険のみ加入などの多くは、登録型で発生しています。そこで、この法律で派遣労働者を保護しながら三年間やってみて、その上で、登録型については廃止の措置を検討します。
七、派遣と請負の区分について法律上明確にし、製造業への脱法的な違法派遣を規 制します。 製造現場には労働者派遣は禁止されていますが、実際には、請負という名で大規模に派遣労働者化が進められています。現在は、派遣と請負の区別は労働大臣告示で示されているだけで、現場の労働者が違法派遣として摘発しても、形式上請負になるように指導して、実際には野放しというのが実状です。派遣と請負の区別を法律上明確にし、違法・脱法は厳しく規制します。