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(日本共産党文化局が、2000年6月に「赤旗」号外で発表した政策に、若干の加筆・補正を行ったものです)
国民の間で、文化にたいする関心、要求が大きく高まっています。きびしさを増す経済的制約に苦しみながらも、すばらしい文化をつくり、届けようと、文化関係者は全国で頑張っています。しかし、文化庁の「国民の文化に関する意識調査」によれば、鑑賞、創作のさいに支障になっている原因として、「時間がない」「費用がかかりすぎる」がずばぬけて高くなっています。また、「芸術活動に関する意識調査」によれば、「芸術活動だけの収入」で成り立っている芸術家は、わずか15.6%にすぎません。
こうなるのも、わが国では、欧米ではあたりまえの、国民を大切にするルールがなく、国民のくらしや福祉・文化より、ゼネコン中心の公共事業や大銀行への支援を最優先する、逆立ちした予算の使い方が続けられてきたからです。この自民党政治の大もとをただすことが、国民のくらしとあわせて、文化を守り発展させるカギです。
また、日本では、ほんらい国民の文化活動を支援すべき国の文化行政は、文化庁予算が国の予算全体の0.1%にすぎないように、世界からもいちじるしく遅れた“文化貧国”となっています。そのうえ、国立博物館や美術館、その一部である唯一の国立フィルム・センターを、“効率化”の追求を最大の理由にして「独立行政法人」に移し、文化面での国の責任を放棄してしまいました。文化庁は、「著作権に関する仲介業務に関する法律」の見直しにさいし、「政府全体の規制緩和政策との関係」や「競争原理の導入」を基本方針とまで主張しています。
しかし文化は、短期間に利益をあげられるかどうか、市場競争で勝てるかどうか――そんな価値基準で判断すべきものではありません。文化のもつ特性を無視し、国の責任は投げ捨て、効率優先と市場原理の枠組みにむりやり組み込むことは、文化の自由で多面的な発展を大きくそこなうものです。世界から遅れた文化行政を、文化を大切にする政治へ切りかえることが強く求められています。
日本共産党は、文化が社会進歩と人間の自由な発展に欠かせない活動であり、文化を自由につくり楽しむことは国民の基本的権利だと考えます。そのための条件を整えることは政治の責任です。同時に、政治は文化の内容に干渉すべきでないと考えています。世界では、その方向が本流です。国連の世界人権宣言、日本も批准した国際人権規約や、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の一連の宣言などでは、国民の文化的権利とそれを保障すべき政治の責任がうたわれています。これは日本国憲法の人権保障の精神にも合致するものです。ヨーロッパの国々が、文化に手厚い助成をおこなっているのは、こうした文化を尊重する考えが政治の常識になっているからです。21世紀の日本社会の民主的発展にとっても、文化面で豊かな発展をはかることが欠かせません。日本共産党は、そうした文化の役割と国民的権利にふさわしく、文化政策が国政できちんと位置づけられるよう、皆さんと広く手をつないで全力をつくします。
日本の文化施策でもっとも問題なのは、文化予算の貧困です。国の予算全体に占める割合は、フランスの10分の1です。文化予算をヨーロッパなみに増やせば、国民の文化活動を支える基盤をもっと強めることができ、超低金利政策のもとで先細りになっている芸術文化振興基金の大幅な拡充をはじめ、芸術文化団体への助成を増やす道もひらかれます。豊かな創造を保障するために、創造団体の日常の運営経費にたいする助成(運営助成)の確立、充実をはかることも急がれます。
松竹・大船撮影所の売却問題は、一映画企業の問題にとどまりません。文化庁もこのままいけば日本映画は「消滅の危機」にあると認めています。日本映画の危機打開策として、映画諸団体が提案している「日本映画振興基金」構想を支持し、公的助成をふくめて実現するよう努力します。
不況は、芸術創造活動に多大の影響を与えています。この分野に税制面でなんらの優遇措置がないばかりか、地方公演にさいして出演者やスタッフに実費支給される旅費・宿泊費にまで源泉徴収で課税する不当な扱いは、文化分野の困難に拍車をかけています。文化分野にふさわしい税制を実施することは急務です。
法人税制における収益事業の「興行業」「出版業」のうち、非営利目的の芸術、芸能、文化活動を原則非課税にすること、公益法人の収益事業の課税範囲の縮小および税率の引き下げも欠かせない課題です。必要経費にも一律に課税し前納させる「法人に係る芸能報酬等の源泉徴収制度」廃止も急がれます。
特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され2年が経過しましたが、NPO法が肝心のNPO団体に使い勝手が悪く、また、税の優遇措置がまともにありません。とくに文化団体が要求している「収益事業」への課税の軽減措置や、収益事業の所得への「みなし寄付」制度の導入をはかる必要があります。
一般勤労者にはない特殊な必要経費の存在など、芸術家の特性に配慮した納税申告制度を設けるとともに、消費税を3%に戻し、将来の廃止を実現することが強くもとめられています。日本においては、きわめて制約されたものになっている寄付税制を改革し、芸術、芸能、文化活動にたいして、個人所得に関する一般寄付金の控除制度の創設と、企業の寄付金の特別損金枠の設置につとめます。
著作権者、隣接権者の権利が損なわれないよう、また、著作物を利用する人たちが利用しやすいよう、著作権法がうたっている「文化の発展に寄与する」ように制度を発展させ、21世紀にふさわしい著作権制度をすみやかに実現しなければなりません。
デジタル化、IT化の進展は、一方で国民の文化への参加の新たな可能性を生み出すとともに、他方で、著作権の侵害などの問題も生んでいます。これらに対応した制度の早期実現が求められています。
また、芸能実演家、映画、写真分野など、課題が残されている分野の著作権・著作隣接権を、創造や表現にたずさわる人たちの権利が最大限保障される方向で解決しなければなりません。とりわけ遅れている視聴覚的実演分野の保護の実現が急がれます。
政府はアメリカの圧力を背景に、“規制緩和”の名のもと、書籍や新聞、音楽CDなどの安定した流通を支えてきた再販制度の廃止をねらっています。再販制度が廃止されると、すべての著作物は市場競争に巻き込まれ、高い文化的価値があっても少数の需要しか見込めない著作物は消滅しかねません。多様な創造と幅広い選択を前提とする文化の発展にとって大きなマイナスであり、国民にとっても利益になりません。著作物再販制度廃止に反対する世論の高まりのなかで政府も当面存続するとしていますが、引き続き広く国民の関心を高め、関係者とともに運動をつよめます。
芸術文化は社会全体の財産です。そうした芸術家たちの社会的役割にふさわしい生活と権利を保障していくことは、ゆたかな芸術文化を生み出す基盤をつくるものです。しかし、この面でも日本はアメリカやヨーロッパ諸国などに比べ立ち遅れており、世間なみのルールを確立することが望まれています。
雇用関係の有無に関わらず、芸術文化従事者は、本人の希望により、勤労者に準じた権利を取得できるようにしなければなりません。映画、レコード、放送、映像作品などの制作および音楽、演劇、舞踊、演芸などの舞台上演において、芸能実演家の役務の提供を受けるものが、社会保険料の使用者分を負担するようにすることが必要です。また、労働者災害補償保険を、実演家などと短期間契約し、舞台芸術創造活動や映画、放送番組の制作をおこなう事業所にも適用させるよう取り組みます。
多少なりとも雇用関係が存在し、組織的対応が可能な舞台芸能関連、映像メディア関連よりいっそう困難な状況に置かれているのが個人芸術家です。これらの人たちが加入できる総合的な社会保障制度をつくることは重要な課題です。
日本では、音楽と美術が学校教育のなかに取り入れられていますが、演劇、舞踊、映画、伝統芸能などは、公的な学校教育の場ではほとんどおこなわれていません。これらの文化の将来をになう人材の育成は、民間にまかせられたままです。社会全体の財産である芸術家の養成には、国や地方自治体も一定の責任をもつ必要があります。演劇、舞踊、映画など、それぞれの専門にそった大学などの公的な教育養成機関を、あらたに設置します。また、若手・中堅専門家の発表の機会を保障します。
次の時代をになう子どもたちが健やかに成長し、明日への希望と夢をもてるようにするのは、社会全体の責任です。ところが日本では、暴力や性をむき出しにした映像や雑誌などがはんらんし、子どもたちの人間としての成長をゆがめる大きな要因となっています。子どもたちを社会的退廃からまもるために、暴力的・退廃的文化を社会の自主的な規律で克服することが大事です。同時に、子どもたちがゆたかな人間性を育むうえで、すぐれた文化を提供することは、大きな意味をもちます。子どもの権利条約の第31条がうたう「文化的権利」の具体化と実施が求められています。
この実現を阻んでいる経済的障害をなくすため、子どものための芸術文化活動をすすめる文化団体への国や地方自治体による運営助成の拡充、税制優遇措置などが必要です。
また、学校教育の抜本的改革の柱の一つとして、文化・芸術に親しみ、その感受性をやしなう情操教育をすすめることを重視しなければなりません。そのなかで、学校における芸術文化鑑賞活動の位置づけを明確にし、「芸術鑑賞を公費負担に」というねばり強い運動の結果、大阪市や名古屋市において実現した学校運営費などによる学校公演、上映活動への助成を強めることも大切です。
先人たちが残した文化財は、国民全体の宝物であり、これなしに今日の文化はありえません。日本は世界でも有数の文化財の豊かな国です。対象も、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、伝統的建造物、埋蔵文化財、文化財の保存技術と広範囲にわたっています。
しかし、これらをまもり、活用する施策は十分ではなく、指定を受けながら財政的措置が不十分なために、とくに震災、台風などの災害時に国民の財宝が荒れ果てたままにされているケースも生じています。また、自治体やゼネコンなどによる大規模開発によって貴重な文化遺産が損なわれることも少なくありません。こうした状況をなくすため、災害のさいには、国宝級の文化財だけでなく、地方自治体指定のものについても、緊急の保存措置がとれるような助成措置をとることが必要です。
貴重な文化財や著作物を収集、保存し、調査・研究などをおこない、文化発展に寄与する美術館、博物館、図書館の役割を重視し、それへの公的責任を明確にします。独立行政法人化された美術館、博物館は将来、国が運営に責任を負うようにすることをめざし、当面、「効率化」などの理由で本来の目的が損なわれないようにすることが大切です。文化財保護を自然保護やまちづくりの運動と共同しておこなえるよう、十分な情報提供などが重要となります。
国民が文化に接し、参加していくうえで、芸術文化施設がはたす役割はきわめて大きなものがあります。とくに、日本では文化の東京への一極集中が著しく、地方での芸術文化施設の設置もまだ不十分です。また、かなりの既存施設が改修の時期を迎えており、ハード・ソフト両面で、利用者本位にたった充実が求められています。
芸術文化施設の低料金化と上演演目にあわせた利用時間の設定は、利用者の切実な要求であり、地域文化の活性化にとって欠かせない課題です。また、練習施設は全国的に不足しています。この整備、拡充をはかることが必要です。
安心できる老後をすべての人に保障することは、日本社会の大事な課題です。
その点で、文化の果たす役割は、重要です。高齢者の合唱活動は年々盛んになり、感動的な演奏が聞かれますが、こうした自主的な活動は、さまざまなジャンルでおこなわれています。すべての施設、地域で、高齢者や障害者の自主的文化活動がすすめられるよう、指導者、施設、資材などに関して公的機関が一定の援助をおこなうことが必要です。
国民や専門家が文化活動を円滑にすすめるうえで、文化に関する国の施策の基本的なビジョンや枠組みを示した基本法のないことが、少なからず障害になってきました。
憲法第13条の「幸福追求の権利」、第25条の「文化的な生活を営む権利」という条項を実効あるものにする法律は、文化分野にはありません。
こういうなかで、「文化振興基本法」(仮称)をつくれという声が各方面から起こってきています。超党派の国会議員で結成されている音楽議員連盟(音議連)は、第25回総会で「文化立国をめざし、『芸術文化基本法』(仮称)創設」を決め、本格的研究と検討をはじめました。日本芸能実演家団体協議会など芸術・芸能を専門とする人たちも、同様の提唱をおこなっています。日本共産党は、1995年に発表した「文化提言」(芸術文化の豊かな発展に行政はもっと積極的役割を――文化行政の抜本的拡充のための提言)で、「文化行政全般にわたる基本的な法制度が日本では十分でない現状を改善するため、ひろく関係者とともに法制確立にむけての検討をすすめます」と、基本的な法制度の検討を呼びかけました。これらは、国連・ユネスコなどが打ち出している国民の文化的権利と公共的な文化政策についての国際的到達にもそったものです。
こうした新しい気運を発展させ、広く国民的議論を呼び起こし、文化振興基本法を関係者の意見を十分に反映して練り上げることが必要です。
日本共産党は、その基本として、つぎのような内容が必要になると考えます。
まず、文化は社会の発展と人間形成のうえで不可欠の活動であり、文化に接すること、参加することをすべての人の基本的な権利として明確にすることです。
そして、国民の文化的権利を保障するための条件整備に関する国や地方自治体の責任を明確にするとともに、公権力が文化活動の内容に干渉することをきびしく排し、自主性と多様な発展を尊重することが大切になります。
そのうえで、(1)専門家の役割を大事にし、それにふさわしい社会的地位を保障すること、(2)国民の文化的生活への参加を具体的に保障すること、(3)文化的な財産の保護と新しいメディアへの対応をはかること、(4)国の予算の一定の割合を文化振興に割り当てたり、税制面での支援を重視するなど、国と地方自治体の振興責任を具体化すること、(5)基本計画の策定を国に義務づけるとともに、文化政策の計画と実施への国民・関係者の意見の反映をはかること、などの基本的な施策が必要です。
日本共産党は、「日本改革の提案」で、憲法をまもって、政治や社会のゆがみをただし、憲法の理想が花開く社会をつくることを呼びかけています。いま、検討がはじまっている「文化振興基本法」は、文化面でのその重要な柱の一つとなるでしょう。私たちは、「文化振興基本法」が、衆知を集め、文化の発展に真に役立つものとして実現するよう、力を尽くします。
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