日本共産党

アイヌ(ウタリ)の政治参加の道を拡大し
アイヌ(ウタリ)問題の民主的解決をはかるための
3つの緊急提案

1988年発表

日本共産党中央委員会・政策委員会

日本共産党北海道委員会


 アイヌの生活と権利を真に保障して、アイヌ問題の民主的な解決をはかることはいま、あらためて重要な政治課題になっている。アイヌは、北海道庁の調査によれば現在、道内を中心に2万4千人余が居住している。その生活は、明治政府いらいの強制同化とアイヌ蔑視政策によって、いまなお様々な差別・格差がひろく残され、悲惨な状況にある。このなかでアイヌの人々は、アイヌ新法制定などアイヌの民族的誇りを回復するための各種の要求とともに、いっさいの差別・格差を一掃し、就職先の拡大と雇用の確保、農林漁業・牧畜業の安定と振興、進学率の向上をはじめとする教育諸条件の整備など、切実な生活改善要求をもっている。

 ところが自民党政府は、アイヌを蔑視する「北海道旧土人保護法」()の部分的な手直しだけで当面を糊塗し、アイヌの人々の生活と権利を保障するための新法の制定はもとより、アイヌ問題解決のための諸施策を政府の責任で総合的に実施する部局の設置も、アイヌ問題を調査・検討する審議機関の設置さえも行おうとしていない。

 日本共産党は、アイヌの要求を実現するうえでいま重要なことは、アイヌの政治参加の道を拡大することにあると考える。同時に、アイヌ問題解決のための諸施策は、アイヌの人々自身の意見・要求をもとにした民主的な討議と合意にもとづいて立案・決定するとともに、政府の責任で総合的に実施する必要があると考える。この見地から、アイヌの切実な生活改善要求や民族的誇りを回復するための要求を実現するため、以下の3つの制度上の緊急措置をただちに講ずるよう提案する。


)北海道旧土人保護法は、1997年に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の成立にともない、廃止されました。


緊急提案の第1

 アイヌ問題の解決を民主的かつ計画的にはかるため、国と地方に、民主的に構成・運営される審議機関(「アイヌ問題中央審議会」、「アイヌ問題地方審議会」−仮称)を法律で設置すること

 現在、同和対策事業に準じて実施されている「北海道ウタリ福祉対策事業」は、しっかりした事業計画も根拠となる法律もないことから、まったくの場当たり的事業となっている。このため北海道議会は、「北海道旧土人保護法」の廃止・アイヌの生活と権利を保障する「アイヌ新法」の制定を要求する意見書の採択をおこない、北海道ウタリ協会は、6項目の具体的内容からなる「アイヌ民族に関する法律(案)」を提案している。ところが、国には、これらの意見・提案を検討する部門もなければ、審議機関さえない。こうした現状は、ただちに改めなければならない。

 日本共産党は、アイヌ問題を調査・審議する機関として、国に「アイヌ問題中央審議会」(仮称)を、北海道及びアイヌが集中的に居住する地区をもつ市町村に「アイヌ問題地方審議会」(仮称)を法律で設置するよう要求する。

 国に設置する中央審議会は、内閣総理大臣の諮問に答申するだけではなく、みずからの判断で、アイヌ問題の民主的かつ計画的な解決をはかるために必要な基本的事項を調査・審議し、内閣総理大臣はじめ関係大臣に意見をのべ、勧告する権限をもつ機関とする。

 中央審議会は、設置後ただちに、北海道議会の意見書やウタリ協会の提案の検討をふくめ、アイヌの人々の生活と権利を保障する新法制定にむけてその具体案づくりに着手する。同時に、現在の差別・格差の実態や行政運営の実態を調査し、アイヌの経済的基盤の確立、生活環境の改善、および教育上の措置など差別・格差を解消するための計画の立案、アイヌ語およびアイヌ文化をまもるための施策の具体化をはかる。中央審議会は、新法制定後もアイヌ問題の解決が基本的にはかられるまで存置するものとする。

 中央審議会の構成は、関係各分野の意見が正しく、総合的に反映するような民主的なものにするとともに、アイヌの代表が一定の数をしめるようにして、アイヌの政治参加の道を拡大する。その運営は、庶務を担当する官僚や一部の構成員による“引き回し”を排除し、国民的合意がえられる答申・意見等をとりまとめることができるよう、公開を原則とした民主的なものにする。また、審議会をアイヌ問題についての民主的な討議と国民合意の形成を促進する場として活用する見地から、創意ある運営につとめる。

 地方審議会は、知事や市町村長の諮問に答申し、また、みずからの判断で、関係地域のアイヌの生活と権利の保障や生活改善の計画を実際に実行する上での具体的な諸施策などについて調査・審議し、知事や市町村長に必要な意見具申・勧告をおこなう機関とする。知事や市町村長に答申・意見・勧告を尊重するよう義務づける。その構成と運営は、国の中央審議会と同様に、アイヌの代表が一定の数をしめ、会議公開を原則とするなど、民主的なものとする。中央審議会と同様、この審議会を住民討議と合意形成促進の場として活用すべきことはいうまでもない。

緊急提案の第2

 北海道とアイヌが集中的に居住する地区をもつ市町村にたいし、合議制の行政機関(「アイヌ問題委員会」─(仮称)の設定を義務づけること

 現在、北海道庁の調査では、アイヌの人口比率が5%をこえる市町村が、11町村も存在する。このうち、えりも町は17・4%、日高支庁平取町は22・9%と高い比率をしめ、胆振支庁管内穂別町にいたっては31・3%にものぼっている(「北海道ウタリ生活実態調査」86年11月)。それにもかかわらず北海道はじめこれら市町村は、アイヌ問題を専門的に担当する窓口〔部課〕を設けていない。こうした現状は抜本的に改める必要がある。

 日本共産党は、アイヌ問題解決のための諸施策を民主的に実施するため、北海道とアイヌが集中的に居住する地区をもつ市町村にたいし、「アイヌ問題委員会」(仮称)の設置を義務づけるよう提案する。この委員会は、農業委員会などと同様の合議制の行政機関とする。委員はアイヌによる公選制で選任するものとし、委員会の会議は公開を原則とする。

 自民党政府は、農業委員会法に定める有権者が年々減少している今日なお(埼玉県の大宮市では、全人口にたいし1・8%、千葉県の市川市では、0・96%という現状である)、市町村に公選による合議制の行政機関として農業委員会の設置を義務づけている。地方自治体に公選による合議制の行政機関として「アイヌ問題委員会」(仮称)の設置を義務づけることは、農業委員会のこうした現状に照らしてもなんら問題はない。政府は、ただちに「アイヌ問題委員会」(仮称)設置のための法案準備に着手すべきである。北海道など関係地方自治体が、委員会設置の法的措置がとられるまでの間、アイヌ問題を専門的に担当する窓口を設置すべきことはいうまでもない。

緊急提案の第3

 アイヌ問題解決のための諸施策を政府の責任で総合的に実施するため国にアイヌ問題を専門的に担当する部局を設置すること

 自民党政府はこれまで、アイヌ問題を専門的に担当する部局をどこにも設置してこなかった。現在、アイヌ対策を実施するため、北海道開発庁がとりまとめ役になって、「ウタリ対策連絡協議会」が開かれているが、この協議会は法令上の根拠をもった行政機関の部局ではなく、関係省庁による連絡・調整のための、たんなる協議の場でしかない。自民党政府は、今後も、これまでと同様のおざなりな対応で済ませようとしている。

 日本共産党は、こうした政府の対応を抜本的に改め、国のしかるべき行政機関にアイヌ問題を専門的に担当する部局をただちに設置し、政府が責任をもってアイヌ問題解決のための諸施策を総合的に実施するよう要求する。アイヌ問題担当部局の設置は本来、問題の重要性からいって法律でおこなうことが望ましいが、政府にその意思さえあれば政令改正などの行政上の措置をとるだけで実行できることである。政府は、ただちにアイヌ問題担当部局設置のための法案準備に着手するとともに、法的措置がとられるまでの間、政令改正など必要な行政上の措置を講ずるべきである。


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