2002年6月21日
日本共産党・長崎県委員会、佐賀県委員会、福岡県委員会、熊本県委員会
有明海および八代海は貴重な生態系と豊富な水産資源に恵まれ、沿岸住民にとってだけでなく国民の貴重な財産です。「宝の海」と呼ばれた有明海の漁獲量は、過去三十年間で最盛期の約十三%にまで激減し、昨年は養殖ノリの記録的凶作も起こりました。八代海でも一昨年、赤潮による過去最悪の養殖魚の大量死など、大きな漁業被害が発生しています。特に有明海の急激な環境破壊と水産業の衰退は、「有明海異変」といわれるまで深刻な事態となっています。
全国の干潟面積の約四十%を占める有明海の干潟は年々減少し、干潟が持つ海水の浄化機能が減少しています。海洋環境の根幹にかかわる最大約六mあった潮汐(干満差)が年々減少し、潮流の速度が平均で十二%低下していることも判明しています。夏場に貧酸素水塊が発生し、有害赤潮の発生件数も増えています。とりわけ諫早湾干拓事業による広大な干潟の消失は、そこに生息していた生物を死滅させただけにとどまらず、有明海全体の生態系に大打撃を与えています。
こうしたなか、自民党・公明党・保守党の与党三党は、今国会に「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律案」を提出しましたが、この海域の持つ特徴をふまえた環境悪化の原因にメスを入れず、一時的な対症療法的事業を並べただけの法案であり、これで問題が解決するはずがありません。何より問題なのは、広大な干潟を消滅させ、有明海の環境の人為的改変として最も問題をはらんだ諫早湾干拓について全く言及していない点です。
また、八代海沿岸漁民は、球磨川流域におけるダム建設とあわせて漁獲量が減少していることを実感していますが、八代海の環境に大きな影響を及ぼす恐れのある川辺川ダム建設が、依然として強行されようとしていることは重大です。
私たちは有明海と八代海の環境を再生させ水産業振興を図るため、次の緊急提言を発表します。
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有明海の再生をめざす上でいま最も緊急に必要なことは、諫早湾干拓が有明海の環境に与えている影響の全面的調査です。ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第三者委員会)は、諫早湾干拓について、生態系維持機能を損ねるなど有明海全体の環境に影響を与えており、開門調査はその影響の検証に役立つという見解を示し、調査は調整池に長期間大きく海水を入れて行う必要があると提言しました。
ところが農水省は第三者委員会の見解と提言を無視し、干拓工事を強引に推進しています。短期開門調査に続いて行うべき中・長期開門調査の実施については、「今年度中に設ける有明海の再生方策を総合的に検討する場での議論を経て農林水産省において判断」すると、委員会の存在すら否定する姿勢を示しています。
五月下旬に海水の導入を打ち切った短期開門調査は、海水の量が少なく調整池の塩分濃度は低い状態にとどまりました。短期調査で起こった変化はごくわずかです。第三者委員会の提言どおり、干拓事業の影響を十分に検証する中・長期の開門調査をただちに具体化し、引き続き第三者委員会に、今後の中・長期調査の議論をゆだねるべきです。
調査をしながら一方で工事を進めていては、有明海の環境に影響を与えないはずがありません。調査中の工事はただちに中止すべきです。農水省が今年度中に新規に着工するとしている前面堤防工事は、許されないものです。中・長期調査のさいに干陸地に海水が行き渡るのを遮断するばかりか、干潟再生への道をわざわざ困難なものにするからです。また、工事が途中で打ち切られたままになって放置されている旧・前面堤防の石積みは、湾奥の海水循環の妨げになり撤去すべきです。
諫早湾干拓は事業でもたらされる効果より、事業にかける費用の方がはるかに大きく、このまま続ければ四百三十億円もの無駄になることを農水省自身が認めています。入植農家の確かな見込みもなく、目的そのものも失われています。
閉鎖性海域で富栄養化が進行しても、これまで有明海で有害赤潮や貧酸素水塊が発生しなかった大きな要因は、大きな潮汐と速い潮流です。調査によって排水門の開放だけでは潮汐と潮流が回復せず、有明海が再生しないということが明らかになった場合は、諫早湾を閉め切っている潮受堤防の存在を根本から見直す必要も出てきます。そのさいには、当然必要な防災対策を講じて潮受堤防を大きく開削したり、なお不十分であれば撤去するなどの方策も視野に入れておく必要があります。
干拓と環境保全が共存できないことは現在の状況でも明らかですが、防災を環境保全と両立させることは可能です。
低平地の高潮対策と排水不良は、海岸堤防の嵩上げ・排水路の整備・強力な排水機の増設などで可能で、すでに同じ有明海沿岸の他の地域で試されずみです。排水門の常時開放によって河口に堆積する潟土の浚渫は、行政の責任で重機によって行えば、かつてのように住民が苦労することはありません。農業用水は用水路を整備して取水すれば、調整池の水に頼る必要もなく、海水の逆流による塩害も防ぐことができます。
干拓により生計を漁業から干拓工事へと余儀なくされた元漁民には、排水門の常時開放に伴って必要な海岸堤防の嵩上げや用水路の整備など、政府の責任で当面の雇用の場をつくり、海の再生で将来は漁業に再従事できるよう手だてをとります。
有明海、八代海とも環境の再生には、これまでの開発行為−埋立や干拓、熊本新港建設、筑後大堰やダムの建設、海底の石炭採掘など−が環境悪化にどう影響を与えたか、原因を科学的に正確につかみ、必要な改善措置を講じる必要があります。同時に、今後の海域に関わる公共事業は、自然環境に与える負荷を厳しくおさえることが不可欠であり、客観的な環境影響評価を、十分に時間をかけて実施するのは当然です。干潟の喪失や漁業環境の悪化につながる可能性のあるものについては、いったん中止・再検討すべきです。
河川の流況のみならず、海域の環境悪化に拍車をかけるダム建設は原則的に厳しく規制し、目的もなくなり八代海に悪影響を及ぼすと考えられる川辺川ダム建設は中止させます。
また、赤潮を発生させる要因の一つである河川水の汚濁物質や富栄養化物質については、総量規制を行い、海域の水質適正水準、削減目標を確立します。下水道や合併浄化槽設置の推進を住民負担の軽減とあわせ、計画的に実施します。
有明海の漁獲量は低落の一途をたどり、昨年はついに二万トンを割り込む最悪の状態になりました。干拓事業の影響は大きく、年間平均漁獲量は、一九八九年までの潮受堤防着工前までは約八万八千トンあったものが、堤防閉め切り後の一九九七年以降は約二万五千トンと、七十%以上も減少しています。
水産資源を回復させるため、現状を正しく認識し、破壊された環境の再生を急ぐことがまず必要です。その場しのぎに漁場整備を進めるだけでは、水産業の抜本的振興ははかれません。その上で、中長期的にどこまで生産を回復させるか目標を設定し、回復した資源を持続的利用ができる操業方法を漁業関係者・水産研究者の協力で確立する必要があります。
漁場整備の一環としての覆砂事業や、水産資源増殖のため種苗の放流は、これらが与える環境への影響、特に生態系への影響について十分に注意を払い、実効性のあるものとして行うべきです。無秩序な海底採砂は新たな環境破壊の引き金になるので、規制すべきです。
有明海、八代海の再生は国が責任を持って行うべきですが、そのさいに関係住民の意見が民主的に反映される仕組みがなければなりません。
そのため、@環境の再生と保全のため、国と各県に審議会を置き、基本計画を民主的に作成する、A行政が事業を一方的に決めることなく、計画段階から住民参加と情報公開を保障する、B第三者委員会の調査活動を強めながら、公開性の高い環境調査機関を設置します。さらに、日本有数の閉鎖水系の環境や水産に関する研究活動の発展に資するよう、各県水産試験研究機関のネットワークの要になる独立した国の研究機関を設置します。
諫早湾干拓事業を受注したゼネコンなどは、わかっただけでも自民党長崎県連や熊本県連に十六年間に合計約十億円、自民党の地元国会議員や農水省出身の国会議員に六年間で合計約二億三千万円という多額の献金をしています。いっぽう川辺川ダム建設事業を受注したゼネコンなどは、自民党熊本県連に十五年間に合計約四億五千万円、自民党の地元国会議員に六年間に約一億三千万円もの献金をしています。
諫早湾干拓事業では潮受堤防工事を受注したゼネコンなどの取締役に、農水省から三十五人の天下りがあることもわかっています。
二つの公共事業が無駄と環境破壊の典型として、国民から強い非難と中止を求める声が上がっているにもかかわらず強行されている背景には、このような政権党や政治家への企業献金、受注企業への官僚の天下りなどの癒着があるからです。
こうした状況を改めないかぎり、再生のための事業が、受注企業と政権党、政治家との癒着によって新たな利権の温床になることは避けられません。日本共産党は企業・団体からの政治献金を禁止すべきだと主張していますが、少なくとも政・官・業の癒着の温床となる受注企業からの政治献金と、官僚の天下りとを禁止すべきと考えます。