分譲マンションの居住者数はすでに一千万人をこえました。マンションの戸数は四百六万戸(二〇〇一年末の推計)をこえ、大都市圏では、住宅総数の二割、三割がマンションという自治体も増えています。
建物・敷地の多くを共有する分譲マンションでは、居住者(区分所有者)全員で管理組合をつくり、共同管理することが基本です。集会所などの共用施設を活用したサークル活動が活発に行われるなど、都市における新しいコミュニティの場でもあるマンション居住をより快適に発展させることは、まちづくりや国民生活の向上にとっても重要です。しかし現状は、分譲業者・管理業者とのトラブル、建物の管理・修繕や建替えの難しさなど、解決すべき問題が山積しています。
そのため、政府もマンションの「建替え対策」を中心とする区分所有法(マンション法)「改正」案を国会に提出しています。しかし、その内容はきわめて不十分であるだけでなく、多くの問題点を持ったものです。区分所有法は、マンション居住者の基本的な権利と義務、共同管理のルールを定めた法律であるだけに、その「改正」は国民生活に大きな影響を与えます。拙速ではなく、居住者・関係者の意見を十分に集めた慎重な改正こそ求められています。問題解決のためには、区分所有法の改正にとどまらず、マンションに関する諸法律や行政のあり方全体を本腰を入れて整備することも必要です。
これまで日本共産党は、「住まいは人権」「住民こそ主人公」の立場で、マンション居住者の生活や権利を守ることにとりくんできました。各地で相談会を開き、自治体の相談窓口設置など、管理組合や居住者のみなさんとともに実現してきたことも少なくありません。快適で安心なマンション生活を実現するために、いま法律や行政をどう改善することが必要なのか――この機会に、日本共産党の見解と提案を明らかにするものです。。
どのマンションもいずれは建替えなければならない以上、必要となったときにスムーズに建替えが進むような仕組みを整備することは当然です。ところが、今回の政府案は、居住者が知恵と力をあわせて建替えを進めるのではなく、建替えに踏み切れない人々の「追い出し」を容易にすることで進めようという内容になっています。
マンションの建替えは、かつて全員合意以外の方法は認められていませんでしたが、一九八三年に区分所有法が改正され、現在は、客観的に建替えが必要な場合(建物の維持・復旧費用が建替え費用にくらべて過分という要件を満たすとき)にかぎって、全体の五分の四以上の賛成によるマンション建替えが認められています。
今回の政府案は「建替え決議」の客観的な要件(建替え要件)を撤廃し、理由・目的を問わず、すべての建替えを「五分の四」の賛成だけで認めようというものです。団地型マンションの一括建替えでは、全体の「五分の四」の賛成があれば、各棟ごとの賛成要件は「三分の二」まで緩和されます。マンションを明け渡さなければならない人々への補償には移転費用なども含まれず、これでは、区分所有者の権利は非常に弱くなってしまいます。
しかし、法律を変えて「追い出し」を容易にすれば、マンションの建替えは進むのでしょうか。ことは住宅という生活の根本にかかわる問題だけに、こんなやり方では、争いがなくなるどころか、いざこざや住民間の反目がもっと激しくなることまで予想されます。
そもそも、このような政府案の内容は、法制審議会の区分所有法部会での議論などとは無関係に、この夏以降に突然浮上してきたものです。その背景には、マンション建替え需要の拡大をめざす不動産業界と小泉内閣・与党の意向があります。政府の総合規制改革会議の専門委員の一人は「(マンション建替えの)事業規模は延べ数十兆円にも及ぶ。マンション建て替え制度改正が都市再生にもたらす貢献は絶大なものがある」と、その狙いをあけすけに語っていますが、これでは、居住者を無視したゼネコン、デベロッパー支援だという批判をまぬかれません。
マンションの建替え問題は、居住者(区分所有者)の立場にたって進めるべき問題です。日本共産党は、多くのマンション建替えに共通する問題について、以下のような提案を行うものです。
老朽化したマンションでは、区分所有者の高齢化も進み、高額な建替え費用の調達は大変な問題です。「建替え円滑化法」によって、建替え費用への助成や税制上の特例措置、建替えに参加できない高齢者にたいする居住安定化策などについては一定の改善がされましたが、依然として不十分です。建替え資金の融資・助成や、建替えに参加できない人たちの居住を守る公的施策について、いっそうの拡充・強化につとめます。従前居住者の公共住宅への入居についても、自治体に努力義務を課すだけでなく、国の責任を明確にしてとりくむことを求めます。
所得も価値観も多様な多くの人が共同所有するマンションでは、区分所有者の合意形成は容易ではない課題です。しかも、何百人という集団の話し合いであるにもかかわらず、情報公開や意見交換などのルールが法律できちんと定められていないために、建替えか補修かをめぐって意見の違いがあると、それが深刻な対立に発展することが少なくありません。こうした問題を解決するために、以下の提案を行うものです。
(1)建替えに関する資料の閲覧権を、区分所有者一人ひとりに認める
政府案も、建替え決議の前に、説明会の開催や、建替え費用とともに補修費用の提示も義務づけるなど一定の改善を行っています。しかし、「形だけ」の説明会を防ぐためにも、見積もりの根拠となった資料などの閲覧権を区分所有者に認めるべきです。
(2)建替えの必要性について公平に調査・情報提供を行う第三者機関を設立する
建替えか補修かを検討する際には、専門家の協力が不可欠ですが、阪神大震災の被災マンションでは、「建替え促進」など特定の立場にたったコンサルタントが提供する情報をめぐって争いがたえませんでした。都道府県・政令指定都市などに第三者機関を設置し、建替え・修繕の費用比較など、公平な調査・情報提供を行うことが必要です。
(3)建替え・修繕を判断する技術的な指針をつくり、建替え要件自体は改めて議論を
国土交通省は、建替えと修繕を比較検討する際の技術的な指針を、管理組合に参考として提供する方針ですが、これを公開の議論に付し、マンション居住者の要望を反映させることを求めます。また、建替えの場合と同様に、耐震性の強化やバリアフリー化(エレベーターの設置)など、社会的な要請にこたえる改善を修繕費用に加えるときは、それに対応する助成制度を行政が設けるべきです。
法制審議会などで審議がつくされなかった建替え要件や退去者への補償、団地型マンションの建替え制度などは、マンション居住者の立場にたった議論を改めて行い、決めていくことを求めます。
マンションの維持修繕を定期的に行い、長命化をはかることは、資産価値を守るだけでなく、スラム化を防止して周辺の生活環境を守るためにも重要です。環境問題や資源の節約を考えても、既存マンションの長命化は社会的な要請になっています。
ところがマンションの修繕は調査・計画、合意形成、資金調達など困難が多く、国土交通省の管理組合アンケートでも「将来への不安」の第一位が「大規模修繕工事の実施」(四六・九%)となっているにもかかわらず、行政の支援策はほとんどありません。マンションの長命化、大規模修繕などへの支援を強めるため、次の提案を行います。
大規模修繕の基本は、建物の調査・診断を行い、状態をよく把握することです。現在も一定規模以上のマンションには、建築基準法で定期調査報告が義務づけられていますが、商業ビルなどと同じあつかいで、費用への補助がありません。この制度を土台に、公的補助の実施、検査項目の拡充などの改善を行い、マンション定期診断制度をつくります。その実施時期は建物のアフターサービスや瑕疵担保責任の期限に対応できるようにします。
所得も家族構成もことなる様々な世帯が暮らすマンションでは、大規模修繕工事の資金調達は容易ではありません。資金不足のために必要な工事を先送りするような事態を防ぐために、民間融資を受けにくい高齢者世帯への低利貸付や、管理組合として融資をうける際の利子補給制度など、大規模修繕に対する自治体の融資・助成制度を拡充させます。また、バリアフリー化や、耐震診断・耐震改修への助成も実施・拡充させます。
マンションでは、電気、水道のような基本的な公共サービスを受けるのにも、変電室、ポンプ、貯水槽などの設備が必要です。また、団地敷地内にはガス管の本支管が埋設されています。このような公共的な設備の維持・管理は、戸建て住宅との負担の公平性を考えても、安全管理を徹底するためにも、自治体や電力・ガス会社などが責任を果たすようにします。
マンションの集会所や通路は、一般の住宅街では町会集会所や多数が使う私道にあたるものであり、居住者の働きかけや日本共産党の議員団のとりくみによって、すでにいくつかの自治体では、これらの施設の固定資産税を減免しています。集会所や、一定の条件をみたす団地内の通路、公園(プレイロット)などに固定資産税の減免を行います。また、このような公共的な施設の維持・管理について、自治体の助成を充実させます。
多くの勤労者にとって、マンションの購入は人生最大の買い物のひとつです。ところが、それにふさわしい購入者保護のしくみがないことが、様々なトラブルの原因になっています。日本共産党は、以下のような消費者保護をすすめます。
居住者間に不公平をもたらす規約や、マンションの価格を安く見せるために、あとで困難になると知りながら異常に低く設定された修繕積立金など、問題の多い分譲があとをたちません。これに対してアメリカ・カリフォルニア州では、州による事前審査と情報開示によって消費者保護がはかられています。日本でも同様の対策が必要です。
敷地や共用部分が正しく確保されているか、管理規約案の内容が適切か、建物にふさわしい長期修繕計画がつくられているか、その計画に見合った修繕積立金になっているかなどを、建物の性能や環境・まちづくりへの影響とともに自治体が審査して、分譲業者への指導と購入者への情報開示を行うマンション分譲審査制度(仮称)をつくります。そのなかで、共用部分と専有部分の境界も、図面上で明確に示すようにします。
また、各地でトラブルをひきおこしてきた分譲業者による駐車場の「専用使用権」の販売は、宅建業法を改正して禁止します。
これまでの「欠陥マンション」問題では、管理組合が区分所有者を代表して裁判の原告になれないことが問題になってきました。今回、政府案も共用部分の損害賠償請求と不当利得返還請求について、管理組合(理事長)が区分所有者を代理できるように一定の改善を行っています。それに加えて、共用部分の瑕疵担保責任(欠陥についての売主の責任)については、中古として購入した人の持ち分もふくめて、損害の全額を請求できるように区分所有法を改めます。
入居後に雨もり、結露、ひび割れなど建物の不具合が明らかになっても、責任をとらず不誠実な対応をくりかえす業者が少なくありません。とくにマンションでは、不具合の原因が自分の専有部分内にあるとはかぎらず、調査には他の居住者の協力が必要なため、泣き寝入りさせられることも少なくありません。一定の基準をみたす不具合は分譲業者・施行業者の瑕疵を推定するように、住宅品質確保促進法を改めます。
以上のべたように、いま必要なマンション対策は多岐にわたります。日本共産党は、マンション居住者の願いにそった区分所有法改正に力をつくすとともに、関連法の整備や各自治体でのとりくみをすすめます。
とりわけ、マンション分譲審査制度(仮称)、マンション定期診断制度、建て替えの必要性に関する第三者機関の設立など、提案で述べた管理組合・居住者への支援を具体化するために、マンション管理支援法の制定も提案するものです。
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