日本共産党国会議員団は食品衛生法の改正案である「食品安全確保法案」の要綱を発表(三月十五日)しました。同法案の必要性や内容などについて、岩佐恵美参院議員(党国会議員団「食の安全・消費者問題委員会」責任者)に聞きました。
――なぜ、いま改正なのでしょうか。
岩佐 日本は、食料の六割を外国からの輸入に頼っています。主要国のなかでこのように他国に胃袋を依存しているのは日本だけです。
そのような状況のもとで、日本で禁止されているアメリカの遺伝子組み換え食品スターリンクをはじめ、ダイオキシン汚染の豚肉、鶏肉、赤痢菌に汚染された生ガキ、日本の残留農薬基準の何倍も汚染された生鮮野菜などが、国民の知らない間に食卓にのってしまうという事件が相次ぎ、輸入食品に対し、多くの消費者が不安を抱いています。
また、国内でも、一万四千人近い中毒患者が発生した雪印乳業の乳製品による集団食中毒事件、学校給食による大変な被害を出したO―157事件、ダイオキシン、環境ホルモン汚染食品や、BSE(狂牛病)汚染牛が見つかり大きな社会問題になるなど、深刻な食品汚染事件があいついで起きています。さらには、輸入食品を国産と偽装したり、産地を偽りブランド品として売る、食品の期限表示を先付けしてごまかすなど、食品業界による悪質な事件も続発しています。食の安全や表示に対する消費者の不信感、怒りは頂点に達しているといっても過言ではありません。
日本共産党国会議員団は、このような現状を変える緊急対策が必要であると考え、食品衛生法の改正案である「食品安全確保法案」を提案しました。
――食品衛生法の改正を求める請願署名が、昨年秋の臨時国会で採択されましたね。
岩佐 日本生活協同組合連合会が中心になって、千四百万人近くの署名を集めました。昨年春の通常国会では、一度不採択にされてしまったのですが、みなさんのねばり強い運動によって、秋の国会で採択にこぎつけました。消費者の切実な願いが国会を動かしました。本当によかったと思います。
私たち日本共産党も、消費者のみなさんの期待にこたえることができればと、国会の法制局とつめた相談をしながら、法案の要綱をまとめあげました。
――法案要綱はどのような特徴があるのですか。
岩佐 まず、法律で食の安全に対する消費者の権利を明確にしたことです。
日本には、食の安全を守る目的をもった法律は「食品衛生法」しかありません。ところが、この法律で保障されている消費者の安全は、業界を取り締まることによって確保されるという、いわゆる「反射的利益」にとどまっています。
そこで、法律の名称を、ずばり「食品等の安全性の確保等に関する法律」と改め、目的規定も、取り締まりから、消費者の食の安全確保を明記するということにしました。
――法案要綱では具体的改正点はどのようなものですか。
岩佐 改正点は、大きく六点あります。
第一に、輸入食品の検査の見直しおよび国内検査体制の強化です。
輸入食品は、一九九〇年の六十八万件から九九年の百四十万件へと二倍に増え、輸入量も五百万トンも増えています(23%増)。一方、九九年の行政による輸入検査率は、わずか3・5%にすぎません。
もちろん、日本の食料自給率を高めることが最優先の課題です。でも、現に急増している輸入食品の検査体制をきちんとしていくことも急務です。
法案要綱では、九五年の食品衛生法「改正」にともなって、輸入食品の行政検査を水際検査(輸入された港や空港ですぐに検査する)から、モニタリング検査(サンプルをとって横浜、神戸などの検査場に送って検査するため、消費者が食べてしまってから検査結果がでる)にしてしまった部分をもとに戻すことを提案しています。また水際検査率を、当面二〜三割程度に引き上げ、国内市場に出まわっている食品の安全チェックなどの人員を大幅に増やすなど、検査体制を抜本的に拡充、整備する対策をとるよう提案しています。
二つ目は、食品添加物、農薬、動物用医薬品などの食品への使用、残留基準などの規制の強化についてです。
国は、九五年の「改正」で、安全をたしかめないで四百八十九品目もの天然添加物を一挙に認めました。また、国内基準が決められていない残留農薬、動物用医薬品などは、外国のゆるい基準に合わせた規制緩和をしました。国内基準のないものについては、基準がないからという理由で、事実上輸入野放しの状態です。
法案要綱では、食品添加物、農薬、動物用医薬品などの、日本の食生活にそくした厳しい国内基準をつくると同時に、基準にないものの輸入、流通を禁止することとしました。
三つ目は、雪印乳業による食中毒事件で重大な欠陥が発覚した総合衛生管理製造過程制度、いわゆるハサップ(HACCP)制度についてです。
ハサップ制度の認定工場になると、行政による安全チェックを受けなくてよいということになっています。これを改め、ハサップ認定施設であっても、定期的に検査を受けることを義務づけるとしました。
四つ目は、表示を消費者の知る権利として必要であることをはっきりさせたうえで義務づけることにしました。
現在の食品衛生法では、「安全」である食品、容器についてまで、表示を義務づけることはできないとして、当初、食品添加物、遺伝子組み換え食品、子どもの玩具などへの表示の義務づけを拒否してきました。いま、食物アレルギー、アトピー、環境ホルモンなどが大きな問題になっています。消費者の知る権利、健康に生きるための選択の権利としての表示の制度化をもりこみました。
五つ目は、予防原則をもりこんだことです。
環境や人の健康に及ぼす影響が懸念される場合には、因果関係が科学的に解明されていなくても、食中毒や健康被害などの予防的観点から、販売を規制できる仕組みとしました。この条項は画期的です。
同時に、乳幼児、妊婦、病弱者に対して、基準、規格づくりの際に、特別な配慮をすることにしました。
六つ目は、食品行政の情報公開、消費者参加をはっきり法律にもりこんだことです。
――改正点のなかでも大きな特徴は、どこでしょうか。
岩佐 現在の食品衛生法にない、安全を求める「消費者の権利」の確立、消費者のための「表示」という考え方をはっきりさせたことです。予防原則の明記、乳幼児、妊婦などへの配慮規定は、いままでにない考え方ですね。消費者参加、情報公開も法律ではっきりさせたことは、大きい改正点です。
――現在問題になっている原産地、期限表示の偽称に、具体的に対応できるのでしょうか。
岩佐 食品の期限表示ですが、九五年に製造年月日表示が、「外圧」によって廃止され、賞味期限、消費期限、品質保持期限となりました。
しかも、食品衛生法では消費期限と品質保持期限、JAS(日本農林規格)法では消費期限と賞味期限と分かれており、消費者にとっては何がなんだかわからないのが実態です。その上、消費期限などの表示は、個々の業者の判断で、個々の商品ごとに決めるため、製造年月日のような客観性がありません。業者が一方的に表示をつけかえても摘発しにくいと現場の検査官は嘆いています。
この問題を国会の委員会で指摘したところ、厚生労働大臣は、両省に分かれている表示を一本化すること、表示方法の見直しを検討すると答弁しました。また、原産地表示の偽称事件などへの対応については食品衛生法の強化・見直しが必要と答弁し、法改正が必要と認めました。
消費者の安全確保の権利を明確にし、消費者の知る権利としての表示を明記した日本共産党の改正案は、このような事態の解決に役立つと思います。
――最後に、各省庁の食品行政の一本化や、食品基本法制定などの構想がありますが、今回の日本共産党の食品衛生法の改正とは、どういう関係になるのでしょうか。
岩佐 食品安全行政の強化のために、組織的な一本化、検査体制強化のために検査機能を独立させる、法律も食品基本法的なものが必要なのではなど、さまざまな議論があります。
ただ、現状を改めるためには、食品衛生法やJAS法など個別法のどこにどういう問題があるのか、タテわりの弊害を具体的にどう正していったらいいのかなどをきちんと検討し、いま緊急に何が必要なのかを明らかにし、是正していくことが大事です。
食の安全を守る法律は、いま食品衛生法しかありません。それがきちんと機能していないことが最大の問題なのですから、その解決のためにも、食品衛生法の改正は待ったなしの課題だと考えます。できるだけ早い機会に党の改正法案を国会に出したいと考えています。