(2004年1月13日〜15日「しんぶん赤旗」)
問われる日本の“子どもの権利”条約 批准から10年 |
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(上)、競争教育、体罰、保育、「改正」少年法…(1/13) | ||
(中)、国連勧告に背を向けた 「第2回政府報告」(1/14) | ||
(下) 国連の「質問リスト」に反映 国民の願いと運動(1/15) |
◇ 問われる日本の“子どもの権利”条約 批准から10年 (上)
日本共産党女性委員会 副責任者・広井 暢子
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子どもの権利条約を日本が批准・発効して十年。二十八日には、国連・子どもの権利委員会で、条約にもとづいて日本政府が、どう義務を果たしてきたか審査が行われます。前回一九九八年に続く二回目の政府報告審査です。この間、国連から問題提起されたこと、政府のとった措置、今回の審査で注目されていることなどについてみてみました。
二〇〇三年、「私たちは殺したくも、殺されたくもありません。あらゆる戦争を拒否します」などと訴える「高校生戦争協力拒否宣言アピール署名」が一万人近く集まりました。高校生や中学生が自ら平和のメッセージを発し、一歩足を踏み出した生き生きした姿が光っています。
昨年十月に「子どもの権利条例」を制定した北海道奈井江町は、市町村合併の賛否を問う住民投票にあわせて、小学校五年以上から高校生までを対象とした「子ども投票」を実施。「参加する権利が保障される中で町のことを考える意識が生まれている」(中学校校長)。各地で住民投票に子どもの参加が進んでいます。
日本は子どもの権利条約を一九九四年に批准しました。
批准にあたって自民党政府は、条約上の権利の多くは「国内法制で既に十分に保障されている」から、新たな実施体制や予算措置、法的措置は必要ないという態度でした。また、条約の精神や内容にたって子ども施策を見直し、検討することも拒みました。
そうした政府の実施状況にたいして、九八年の国連子どもの権利委員会の第一回審査のときに二十二項目にわたる改善の提案・勧告が出されたのです。発達した資本主義国にたいして、こうしたきびしい警告は異例でした。
子どもの権利条約が国内法より優位にあるにもかかわらず、裁判の判決に適用しないことや、権限を持ち、効果的な調整ができる政策調整機関や政府から独立した実施監視機構がないことが指摘されました。
また、有害情報からの保護、家庭内の虐待からの保護や学校の体罰・いじめの根絶などを勧告。とくに注目されたのは「高度に競争的な教育制度によるストレスにさらされ、かつ、その結果として余暇、身体的活動および休息を欠くにいたっており、子どもが発達にゆがみをきたしていることを懸念」し、「それらを生みだす教育制度と闘うための適切な措置をとるよう貴国に勧告する」というものです。
子どもの権利条約の成立は、従来の子ども観の見直しを迫る画期となったといえます。条約は子どもの人間としての尊厳と権利の保障をかかげ、保護されるだけではなく、独立した人格を尊重するという考え方にたっています。
条約の第二条ではいかなる差別もうけないこと、第三条では子どもにかかわるすべての措置は「最善の利益」を考慮するとし、さらに第十二条が「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利」、いわゆる意見表明権の保障をうたっています。表現・思想・良心・集会・結社など市民的自由を子どもに認めています。子どもの養育についての父母の責任とともにそれを援助する国の責任もうたっています。
子どもは「子どもの専門家」なのだから、子どもにかかわる問題を決めるときには、子どもを中心におき、何が最善なのかについては、子どもの意見に耳を傾けようという努力が国民のなかで始まっています。
一方、条約公布にあたって文部省(当時)は、この条約は発展途上国の子どもたちのものであり、意見表明権は一般的な概念を定めたもので、必ず反映することを求めているものではない、とする通知(文部事務次官通知)を出しました。管理・規制の校則を見直してほしいという子どもの声を聞く必要はないという立場を学校に押しつけています。(つづく)
◇ 問われる日本の“子どもの権利”条約 批准から10年 (中)
日本共産党女性委員会 事務局 大田みどり
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国連審査は、政府が提出した「報告」をもとに二十八日、行われます。今回二回目となる審査では、一九九八年に指摘され「勧告」された課題に政府はどういう措置をとったのか、日本の子どもの権利は実現してきたのかが問われます。
「政府報告」は、「高度に競争的な教育制度」は、「面接や推薦入試の実施」「十五歳人口が減少」し「受験競争は緩和されつつある」という驚くべきものです。「学区の廃止」や「高校入学定員削減」などで競争がつよまり、「内申書に響くぞ」といわれ、いい子を演じようと苦しむ子どもの実態を無視しています。
「暴力及びポルノから子どもを守るための措置」の「勧告」には、「出会い系サイト」規制法を成立させ、子どもは保護する対象であるという「条約」に反して、処罰の対象にしました。
さらに、「年少少年による凶悪重大事件が多発」を理由に少年法を改悪し、刑罰適用年齢を十六歳から十四歳に引き下げるなど、処罰的対応を強化しました。
昨年七月、長崎で幼児殺害事件が起きた際、罪を犯した少年に「尊厳の回復、価値観の獲得」など、「条約」にもとづいて対応すべきという日本共産党の質問に、青少年担当の鴻池大臣(当時)は「承服しかねる」と「条約」否定の答弁さえおこなったのです。
また「勧告」は、「条約」にもとづく包括的政策を発展させるための政策調整機関や独立した実施監視機構の設置をもとめました。子どもの権利の問題にとりくんできたNGO(非政府組織)は、「どの省庁も責任をもった対応をしない。たらい回しにされる」と訴えつづけ、日本共産党も国会でとりあげてきました。しかし、「政府報告」は「当該施策を新たに政府部内に創設する予定はない」との態度をつづけています。
今回の「政府報告」内容は、子どもを権利行使の主体として尊重し、「子どもの最善の利益」を保障しようという具体的施策に欠け、「勧告」に背をむけ、第一回報告からも後退、逆行したものとなっています。
こうしたなかで「勧告」を受け止め、子どもの権利を保障する施策を前進させようという実践が国民のなかですすめられてきました。
児童虐待に対応する施策の拡充と「児童虐待防止法」見直しをもとめる運動、「青少年と放送に関する委員会」発足と放送文化向上のとりくみ、家庭や学校でのメディア・リテラシー教育、少人数学級実現、学校施設改善など、草の根の運動が子どもの権利条約を根付かせ広げつつあります。
◇ 問われる日本の“子どもの権利”条約 批准から10年 (下)
日本共産党女性委員会 事務局 大田みどり
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一月二十八日におこなわれる国連審査にむけて、「第二回政府報告 市民・NGO報告書をつくる会」が結成され、第一回審査の百三十一本を上回る、二百四十八本のリポート(「基礎報告書」)がよせられました。「つくる会」は、このリポートをもとに昨年「統一報告書」にまとめ、豊富な資料と実例で、日本の子どもの権利の状況を明らかにしています。
NGOと話し合い
「つくる会」の報告書と日本弁護士連合会の「報告書」は、国連子どもの権利委員会に提出され、昨年十月六日、NGOと話し合う予備審査がおこなわれました。
その後、同委員会は、日本政府に「質問リスト」を送付し、さらに必要な資料と文書報告の提出をもとめ、審査で話しあう主要な項目を明らかにしています。
この「質問リスト」には、NGOや国民がくりかえし政府にもとめ、運動してきた内容が反映されていることが注目されます。
「質問リスト」では、前回の「勧告」で「まだ実施されていないもの」として、「差別の禁止」「競争主義的な教育制度」「いじめを含む学校における暴力」の三つを指摘しています。
審査では、教育および福祉で公的な財政負担の後退、内閣府が政策調整機関として機能しているかどうかも問われるでしょう。
「質問リスト」には、「就学前および放課後の子どものケア」、さらに児童虐待、暴力、少年法「改正」、障害児の問題などがのせられています。
政府がすすめる教育基本法改悪の動きが「子どもの権利条約」に逆行するというNGОの訴えが審査されることも期待されています。
第二十三回日本共産党大会議案がよびかけた、社会の道義的な危機を克服する国民的対話と運動には大きな反響がよせられています。
議案では、自民党政治のもとですすむゆがみや矛盾をただすたたかいにとどまらず、社会が独自にとりくむべき問題として、「民主的社会にふさわしい市民道徳の規準の確立」「子どもをまもるための社会の自己規律を築く」「子どもが自由に意見をのべ、社会参加する権利を保障する」「子どもの成長を支え合う草の根からのとりくみ」の四つを提起しました。日本の子どもが自己肯定感情を深く傷つけられている現状を憂慮し、「子どもが自由に意見をのべる権利」を保障することを重視しました。
この権利を社会の各分野で保障しようという積極的な流れがさまざまな場で起こっています。
国連審査に注目しながら、「条約」の精神と内容にそって国の施策を前進させる新たな契機にしたいものです。