日本共産党

耐震偽装再発防止のために

建築基準法等改正案の審議にあたっての提案

日本共産党国会議員団

2006年4月13日、15日「しんぶん赤旗」より

 日本共産党国会議員団の耐震強度偽装問題プロジェクトチーム(責任者・穀田恵二衆院議員)は十二日、「耐震強度偽装事件の再発防止にいま何が必要か 建築基準法等改正案の審議にあたっての提案」をまとめました。提案の全文を紹介します。

 耐震強度偽装事件が明らかになってから四カ月余たちました。この間、新たな構造計算書の偽装・改ざんや耐震強度不足の建築物の存在も明らかになるなど「わが家は大丈夫か」という国民の不安は、ますます強まるばかりです。建築物の安全性を確保するための建築行政に対する信頼は失墜しているといっても過言ではありません。

 政府は、三月三十一日、「耐震偽装事件の再発を防止し、建築物の安全性に対する国民の信頼を回復する」として、建築基準法等の改正案を国会に提出しました。その中にある確認審査におけるピアチェック(専門家同士による審査)の導入や違法行為に対する罰則の強化などは当然ですが、肝心の建築確認・検査制度の枠組みはそのままにしています。これでは再発防止策とはとてもいえません。

 問題の核心は、規制緩和によって、一九九八年に建築基準法を改悪して、建築確認・検査を民間まかせにし、チェック体制も整えないままコスト最優先の「経済設計」を可能にしたことなど、建築行政を「安全よりも効率優先」に変質させたことにあります。このことに対する反省がなければ、再発防止はもちろん、建築行政に対する国民の信頼回復はできません。

 日本共産党は、九八年建築基準法改悪に反対しました。被害者の迅速な救済とともに今回のような事件の再発を防ぎ、建築物の安全確保をはかるため全力をつくします。その立場から、建築基準法等の改正にあたって、当面、以下のとおり提案します。

1、建築確認・検査制度を抜本的に改善する

(1)民間検査機関を非営利の法人とし、検査業務は地方自治体(特定行政庁)からの委託によって行う

 <1> 現行の民間検査機関が、構造計算書の偽装を見抜けなかった要因に、顧客(建築主など事業者)獲得のために検査を甘くする競争(安かろう、悪かろう検査競争)があった。建築確認検査は、建築物の安全性等の法令適合を審査することを目的としており、本来、公の責任で行うべきものであって、営利目的の競争とは相いれないものである。したがって、民間検査機関は非営利の法人に限るものとする。

 <2> 建築確認・検査は、昨年六月の最高裁判決でも、民間の指定確認検査機関がおこなったものも含めて、地方公共団体の事務とされていることから、地方自治体がすべて責任をもつことを明確にする。

 そのため、民間検査機関は、地方自治体からの委託にもとづいて検査業務を行うことにする。確認申請は、地方自治体が受け付け、必要に応じて審査を民間検査機関に委託する。確認済み証などは、地方自治体が責任をもって発行する。

 <3> 非営利の民間検査機関の公正・中立性を確保するため、デベロッパーや施工会社・建設会社などの利害関係企業からの出資や出向等を禁止するなど、事業者との癒着を排除する。

(2)地方自治体の人材の育成と確保、技術向上をはかり検査体制を強化する

 九八年法改悪による確認検査の民間開放以降、体制の弱体化が深刻になっている建築主事とその補助者を増員するとともに、年々高度化している構造計算技術の向上に対応できるよう専門家を育成する。そのため必要な研修・教育体制の整備などを行う。

(3)中高層建築物についてピアチェックを義務づけるなど確認検査を厳格にする

 一定の高さ以上(鉄筋コンクリート造=高さ二十メートル以上など)の建築物の構造設計の審査は、非営利の第三者機関によるピアチェックを義務付ける。審査を厳正に行うため、建築確認の審査期間を延長する。また、中間検査の義務化をはじめ、施工時のミスや手抜きを防ぐための仕組みを充実させる。特定行政庁に構造計算書など図書の保存を義務付け、期間も延長する。

2、耐震基準の引き上げなど建築物の安全を最優先にした構造設計に改善する

(1)建築基準法の耐震基準を引き上げる

 現行の建築基準法が定める最低限の耐震基準(保有水平耐力比一・〇以上)は、「震度5強程度の中規模地震で建物が損傷せず、震度6強程度の大規模地震で倒壊しないこと」としている。これは、大規模地震では、倒壊せず人命は保護するが、余震による倒壊の危険性や居住困難なほどの構造体に大きな損傷を受けるという基準であり、不十分である。

 東京都はじめ多くの自治体が一・二五倍の基準を満たすよう行政指導している現状もふまえ、建築基準法の耐震基準そのものを引き上げる。また耐震強度が地域ごとに異なる「地震地域係数」を見直す。

(2)構造計算プログラムの大臣認定を見直す

 二〇〇〇年六月以降、大臣認定の構造計算プログラムを使って計算した場合、建築確認の審査の際に、複数の専門家によるチェックが行われなくなった。大臣認定された計算書ということで、審査が簡素化されたからである。この大臣認定の仕組みは、コンピュータープログラムへの過度な依存を助長し、ずさんな構造設計を増幅させている。認定プログラムの計算結果の改ざんが可能であるだけでなく、プログラムそのものが「ブラックボックス」化しているとの指摘もあることから、計算プログラムの大臣認定を見直す。

3、建築士の独立性を確保し、安全・安心設計や適切な工事監理ができるよう建築士制度を抜本的に改善する。

 建築士の違法行為に対する罰則強化は当然であるが、同時に、建築士が、建築物の安全性を確保するための設計・監理など、本来の社会的責務を果たせるような条件をつくる必要がある。

 売り主や建設会社などからの安全軽視など不当な圧力に屈しないなど、建築士が専門家として独立した立場から安全・安心な設計・監理をできることが重要である。そのために、建設業者などとの従属的関係の是正、専門分野別の建築士制度の導入、工事監理業務の適正化など、建築士制度を抜本的に改善する。建築士が報酬の安さによって競争することを禁止しているアメリカなどにならい、報酬を適切なものにする。

4、消費者の立場に立った情報開示の徹底と瑕疵(かし=欠陥)補償制度の拡充など住宅購入者保護を充実する。

(1)消費者に対する徹底した情報開示

 今回の事件では、消費者(ユーザー)に建物の安全性などの重要な事項が情報開示されないことが、欠陥建物を購入・賃貸した消費者に大きな被害を与えた。そのため、住宅性能表示制度の充実・強化、宅地建物取引業者に対する説明義務の拡充など、消費者への情報開示を徹底する。

<1> 建築物の安全性確保のための情報開示…物件の耐震性、構造計算を行った設計者、確認検査機関(審査担当者など)、工事監理者、中間検査・完了検査の状況など。

<2> 供給サイドの信頼性確保のための情報開示(瑕疵担保責任の履行が可能かどうかなど)…売り主や施工・設計会社の実績、財務状況、品質管理体制、施工管理方法など。

<3> ライフサイクルコスト(LCC)の考え方にもとづく情報開示…販売価格については、初期の取得費用だけでなく、耐久年数、維持管理コストなどトータルコストの試算も開示するようにする。

(2)住宅の購入者の保護を図るため、瑕疵補償制度の拡充をはかる

 今回の事件では、マンションの構造部分の欠陥(瑕疵)が明確であるのに、売り主に賠償能力がないため、「瑕疵担保責任」(売り主が賠償責任を負う)が履行されないなど、深刻な事態が起きている。偽装物件にかかわった設計会社や施工した建設会社は、賠償責任もあいまいにして、責任からのがれようとしている。

 こうした実態を改善するため、売り主や設計、施工会社などに瑕疵担保責任保険への加入を義務付ける。また、欠陥か否かの立証は企業側の責任とし、消費者が負担なく賠償を求められるように瑕疵補償制度の改善・拡充をはかる。

(3)偽装マンション被害者の救済のため、国が責任をもって解決にあたる

 二重ローン問題など被害者住民が個人で銀行と交渉することは困難である。そこで、(1)被害住民にかわって、国が責任をもって、住民の既往ローン債務を軽減するため、銀行等と交渉する。(2)国が責任をもって、瑕疵担保責任者(売り主)と事件関与者(建築士事務所、民間検査機関など)と交渉し、損害賠償責任をはたさせる。(3)銀行や不動産関係業界などから基金等を募り、債務の返済に充てるなど、国が責任をもって解決にあたる。

5、「住まいは人権」、市場競争まかせの住宅政策を是正する。

(1)安全・安心に居住する権利を保障し、民間市場まかせの住宅政策に反対する

 国民だれもが安全・安心な居住生活をおくる権利をもち、行政には、それを保障する責任がある。今国会に提出されている「住生活基本法案」は、住宅供給を市場まかせにするものである。また、住宅分野の規制緩和として政府が推しすすめた「住宅建設コスト低減のための緊急重点計画」(一九九六年)は、市場に安全をないがしろにする“安上がり競争”を助長してきた。

 こうした、市場競争まかせの住宅政策を是正するためにも、国民の居住の権利を明確にし、安全もふくめた、めざすべき居住・住環境の水準の法定化などの指針を明確にした「基本法」をめざす。

(2)建設業界の重層的下請け構造を是正する

 建設会社・設計会社などの下請業者への“丸投げ”の禁止を徹底することをはじめ、建設業法による下請け保護、独占禁止法の順守によって、不当な買いたたき、低価格発注をやめさせる。


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