日本共産党
SEISAKU
SOUGOU,SYAKAIHOSYO

2009年 総選挙政策 《分野別政策》

2 社会保障

国民のくらしをささえ、命と健康をまもる社会保障制度を確立します

 貧困と格差が拡大し、未曾有の経済危機が生活を脅かしている今こそ、くらしを支える社会保障の役割がきわめて重要です。ところが、自民・公明政権は、社会保障予算の自然増を毎年2200億円削減するという方針を決め、その“ノルマ”を達成するため年金・医療・介護・福祉などの制度改悪を繰り返すという異常な政治を続けてきました。

その結果、日本の社会保障では、もっとも支えを必要とする社会的弱者が真っ先に制度から排除され、くらしを支えるべき制度が逆に、負担増や給付削減で国民の生活苦と将来不安を増大させるという事態が引き起こされています。また、医療体制の崩壊や介護現場の人手不足など、社会保障の根幹にかかわる深刻なゆがみが顕在化し、病院が次つぎに閉鎖される、お産ができない、救急車を呼んでも病院にたどりつけないなど、これまで「当たり前」だったことさえも、まともに機能しなくなっています。

もともと日本の社会保障はヨーロッパなどと比べて低水準でしたが、そこに自公政権の削減路線が加わったために、今、主要な資本主義国では日本にしかない異常な事態が、あらゆる分野で引き起こされています。医療の患者負担が、通院でも入院でも3割もかかるという国は、他の先進国にはありません。後期高齢者医療制度という、高齢者を別枠の保険制度に囲い込んで差別医療を強いる制度をつくったのも日本だけです。公的年金制度で、25年も保険料を払い続けないと1円も年金を受け取れないという過酷な制度をおこなっている国も他にありません。「自立支援」の名で、障害者福祉にまで「応益負担」を持ち込み、障害が重い人ほど負担が重くなる制度をつくったのも日本だけです。

くらし破壊に対する国民の激しい怒り、地域医療や介護基盤の立て直しを求める世論と運動に包囲され、自公政権も「2010年度は2200億円削減をおこなわない」と言わざるを得なくなりました。すでに破綻が明瞭となった切り捨て路線は撤回し、社会保障を削減から拡充へと転換することが必要です。

 自公政権や財界は、社会保障給付を「過大」だとし、これ以上、社会保障への財政支出は増やせないといって負担増・給付減を正当化してきました。しかし、日本の社会保障支出はGDP(国内総生産)の19・1%――イギリス(22・0%)、ドイツ(27・1%)、フランス(29・4%)、スウェーデン(30・1%)などより大きく立ち遅れた水準に過ぎません。日本国民が生みだす“富”の全体からみれば、社会保障にまわる部分はむしろ少なすぎるのです。「所得や資産などの能力に応じて負担し、給付は平等に保障する」という応能負担の原則で税制・社会保険料を改革し、国の歳出の浪費を見直すならば、社会保障を拡充する財源は確保できます。

社会保障の拡充は現在のくらしを支え、将来不安を解消し、内需の大きな柱である個人消費をあたためます。さらに、新たな雇用を生みだし、地域経済を活性化させるなど大きな経済効果があります。「医療」への「投資」が経済に及ぼす「総波及効果」は「住宅建設」や「精密機械」を上まわり、「通信」「電力」の1・3倍にのぼります。「雇用誘発効果」でも、「介護」は全産業中の第1位、「社会福祉」が第3位、「保健衛生」が第8位など、社会保障分野が上位を占めます(『厚生労働白書』2008年度版)。社会保障の拡充は景気対策としても大きな力を発揮し、内需主導の安定した経済成長に道を開きます。

日本共産党は、「健康で文化的な最低限度の生活」をすべての国民に保障し、社会保障の増進を国の責務と明記した憲法25条の立場から、医療・年金・介護をはじめ社会保障の各分野で、負担の軽減と不安の解消をすすめます。お金のあるなしで格差をつけず、平等な給付を保障するという社会保障のルールを日本でも確立し、だれもが安心でき、将来に希望のもてる社会保障制度を構築する改革に取り組みます。

1、いま年金改革でなにが必要か――年金受給条件の年数引き下げ、最低保障年金制度の実現、「消えた年金」問題の解決などで、いまも将来も安心・信頼できる年金制度を

 政府・与党は2004年に「百年安心の年金改革」といって、給付水準は低額年金もふくめて一律に引き下げるしくみに改悪し、年金保険料も毎年値上げを続けています。実際には政府のモデル世帯での給付水準も、現役世代の50%を保障するという宣伝文句は、今年の財政再計算でもあらためて破たんしていることが明らかになりました。

 しかも、「年金のため」と言って、国民に定率減税の廃止まで押しつけたにもかかわらず、国庫負担の引き上げは将来の消費税増税によってまかなうという法律が強行されました。このままでは、制度の空洞化もいっそう深刻化し、年金制度は老後の生活保障という役割をますます失ってしまいます。「消えた年金」「消された年金」問題でも、保険料徴収・収納率の向上だけに熱心で、国民の受けとる年金額には無頓着な、冷たい政治の姿勢が明らかになっています。年金問題にたいする国民の怒りと不信は当然です。

 日本の年金制度の最大の問題点は、日々の生活をまかなえない低額年金、無年金の人が膨大な数にのぼることです。国民年金しか受給していない高齢者は900万人以上もいますが、その平均受給額は4万7000円にすぎません。厚生年金も、女性を中心に劣悪な状態が放置されています。また、国民年金の保険料を払っていない人が1000万人を超え、免除などをのぞいた実質的な納付率が5割を切るなど、年金制度全体の深刻な空洞化も放置できません。日本共産党は、こうした現状を打開し、公的年金制度にたいする国民の安心と信頼をとりもどす改革をすすめます。

年金受給のための加入期間の条件をただちに「10年以上」にひき下げます

 わが国では、保険料をおさめていても、総加入期間が25年に満たなければ、税金から支払われている部分もふくめて、年金を1円も受けとることができません。加入期間25年以上という、この長すぎる受給条件は、不安定雇用で働く若者をはじめ、国民のなかに年金制度にたいする不信をひろげている大きな要因のひとつです。イギリス、フランスなど、年金の受給資格に加入年数を条件としていない国も広がっています。日本共産党は、せめてアメリカなみに、年金受給のための最低加入年数を「10年以上」へとただちにひきさげます。基礎年金の国庫負担2分の1への引き上げの財源は、消費税増税ではなく、歳出・歳入の見直しでまかないます。

「最低保障年金制度」の実現に足を踏み出し、年金制度の土台をたてなおします

 日本共産党は、「最低保障年金制度」をつくり、今も将来も安心できる年金制度をつくるという提案をおこなっています。その中心点は、憲法25条の「生存権」を保障する見地に立って、全額国の負担でまかなう「最低保障年金制度」を実現させることです。第一歩として、最低保障額を月額5万円とし、その上に、支払った保険料に応じた額を上乗せし、無年金を解消し、低額年金を底上げする制度をスタートさせます。これによって、国民年金の満額は現在の月6万6千円から月8万3千円へと引き上げます。厚生年金も給付水準の低い人から順番に底上げをすすめていきます。

「最低保障年金制度」の実現に足を踏み出せば、低額年金や無年金の問題、年金制度全体の空洞化、サラリーマン世帯の専業主婦の「第3号被保険者問題」など、今日の年金制度がかかえるさまざまな矛盾を根本的に解決する道が開けます。

 日本共産党は、安心できる年金制度にするために、(1) 年金財源は、大型公共事業や軍事費などの浪費を削減するとともに、「所得や資産に応じて負担する」という原則をつらぬき、大企業や高額所得者に応分の負担を求めて確保する、(2) 巨額の年金積立金は、高齢化がピークを迎える2050年頃までに計画的に取り崩して年金の給付にあてる、(3) リストラや不安定雇用に歯止めをかけ、年金の支え手をふやす、(4) 急速な少子化の克服は年金問題を解決するうえでも大事であり、安心して子どもを生み育てられる社会をつくる――この4つの改革にとりくみます。

 この改革を着実にすすめれば、給付を減額せずに、低額年金を底上げすることができます。将来、経済が発展の軌道に乗り、国民の実質所得が増えていくなかで、年金改善のために国民の保険料の負担増を求める場合も、政府の計画よりはるかに低い水準にとどめることができます。

 最低保障年金制度の創設を口実にして、大企業の年金にたいする負担を削減したり、消費税を増税することにはきっぱりと反対します。

物価値上げに対応した年金額の引き上げをおこないます

 生活必需品を中心とした物価値上げにもかかわらず、年金の物価スライドはおこなわれず、年金額はすえおき、実質的には引き下げとなっています。日本共産党は、物価値上げに対応した、年金額の引き上げをおこないます。

 また、「百年安心の年金改革」といって2004年に導入されたしくみが、物価値上げのなかで、年金額をすえおく重大な役割をはたしています。マクロ経済スライドは撤廃します。さらに、現在のように、物価上昇率が名目賃金上昇率をうわまわっている場合に、物価スライドの上昇率を名目賃金上昇率まで引き下げるしくみもやめさせます。過去の物価下落時に国民生活の困難に配慮して凍結したマイナススライド分を、物価が上昇するときに年金額から引き下げることは中止すべきです。

公的年金等控除などの増税を見直し、「天引き」をやめさせます

 この間おこなわれた高齢者の年金にかかる所得税・住民税の増税について、公的年金等控除の最低保障額を140万円に戻すとともに、所得500万円以下の高齢者には老年者控除を復活します。

介護保険料や今年10月から開始されようとしている住民税の年金からの特別徴収(天引き)については、「天引き」の強制をやめさせ、各人の希望で普通徴収に変更できるようにします。

「消えた年金」「消された年金」問題は、一人たりとも被害者を残さないように、一日も早く国の責任で解決します

 「消えた年金」問題を、一人残らず、08年4月までに解決するという安倍元首相や舛添大臣の国民への約束は果たされず、それどころか、厚生年金記録の改ざんも明らかになりました。国民の怒りと不安が広がるのは当然です。”被害者を一人も残さない””一日も早く”という立場で、国が解決に責任を果たすことを求めます。

 受給者、加入者に、年金記録が消えたり、消されたりしていないかわかるように、国が管理・保有している情報をきちんと提供するとともに、相談・問い合わせや、記録の照会や訂正、未払い金のすみやかな支払いなどに対応できる体制を抜本的に強化すること、第三者委員会などでは、物証がなくても、申し立てや証言などを尊重して支給することなどを求めます。また、コンピューターの誤った記録は、すべての手書き記録とつきあわせて修正すべきです。

 「消えた年金」「消された年金」問題の根本には、国民の老後の生活保障である年金受給権を守ることには無関心で、保険料の徴収と納入率のアップが年金行政の最重要課題になっているという、大きなゆがみがあります。社会保障に対する国の政治姿勢が問われています。年金をはじめ社会保障は国民の権利であり、行政は国民の権利を守るために仕事をするという、最も基本的な原則を行政の上から下まで徹底することこそ、求められている改革です。

 この立場で、年金保険料の流用をやめる、世界に例のない巨額の積立金は計画的にとりくずして給付にあてる、などの年金行政の抜本改革をすすめます。また、「消えた年金」「消された年金」問題の国の責任も放棄してしまう、2010年1月からの社会保険庁の解体・民営化は中止し、これまで繰り返し政府が国民に約束してきたように、最後まで国の責任で解決するにふさわしい体制をとることを求めます。

 「消えた年金」問題を口実にして、社会保障番号制度=「社会保障カード」の導入が検討されています。しかし、国民の医療・介護・年金などのあらゆる情報を一元管理するという社会保障番号制度の導入は、「消えた年金」問題の解決に役立つものではありません。

 社会保障番号制度は、財界団体などから、一人ひとりの国民が納めた保険料と受けとった給付額が比較できるようにして、公的社会保障を民間の保険商品と同様に扱い、社会保障制度にたいする国や企業の負担の責任をあいまいにするために導入が提言されてきたものです。社会保障は憲法25条にもとづく国民の権利です。社会保障の給付をその人が納めた保険料にもとづく対価という考え方をひろげ、もっぱら保険料のとりたてを強化するために、社会保障番号を導入することは問題です。また、社会保障番号を導入しているアメリカでは、社会保障番号の盗難など、年間20万人が「なりすまし被害」にあっており、国民の個人情報・プライバシーの保護という観点からも慎重な検討が必要です。

 「消えた年金」「消された年金」問題で、国の管理能力・統治能力が問われているいま、どさくさにまぎれて社会保障番号制度を導入することは許されません。

パート、派遣、契約社員など非正規雇用で働く人たちの厚生年金加入の権利を保障します

 厚生年金など社会保険に加入することは、ほんらい非正規雇用もふくめた労働者の権利です。現在の法律でも、法人または従業員が常時5人以上いる事業所は、正社員の4分の3以上の時間を働く労働者はすべて厚生年金に加入させる義務を負っています。問題は、この義務を果たしていない事業所が少なくないことです。派遣社員も派遣元の企業が加入させる義務をおっていますが、責任逃れ・違法行為がまん延しています。日本共産党は、違法・脱法行為をなくし、非正規雇用で働く人たちの社会保険加入・厚生年金加入の権利を守ります。

年金「一元化」をどう考える――制度間の格差を是正し、公平な年金制度へ前進させます

 国民からみて公平な年金制度をめざすことは当然ですが、自民・公明・民主がすすめてきた年金「一元化」議論は、負担は重い方に、給付は少ない方にあわせることになりかねない危険なものとなっています。

 自民党・公明党がねらっている厚生年金と共済年金の一元化では、厚生年金が改善されることはなく、「見せしめ」的に共済年金の制度を改悪するだけです。しかも、改悪の対象には公務員だけでなく、零細な私立学校や幼稚園の教職員なども含まれます。

 さらに現状の枠組みのもとで、国民年金の給付水準を厚生年金・共済年金にあわせるならば、事業主負担のない国民年金の保険料は数倍に引き上がらざるをえません。また、被用者年金を国民年金にあわせれば、被用者年金の給付水準の大幅な引き下げとともに、財界が要求しているように、被用者年金への事業主負担をなくす入口になりかねません。どちらにしても、保険料の大幅引き上げか、給付水準の引き下げであり、国民にとってよいことは1つもありません。

 日本共産党は、年金の水準をいっそう貧しくする「一元化」ではなく、年金制度間の格差をなくし、国民から見て公平な制度をめざすべきだと考えます。そのために、いちばん具体的で現実的な方法は、最低保障年金制度を創設して、国民年金と厚生年金の低い部分の底上げをはかり、全体として格差を縮小していくことです。財源は、大企業・大資産家に応分の負担を求めるなど、歳出・歳入の改革によってまかないます。そうしてこそ、誰もが「生存権」を保障される年金制度への道が開けます。

2、医療にかかる負担を軽減し、「医療崩壊」を打開し、だれもが安全・安心の治療が受けられる医療制度を確立します

 深刻な受診抑制、急増する無保険者、医師・看護師不足、地域の拠点病院の消失――「医療費削減」の名で国民の命と健康を切りすてる自民党政治により、日本の医療は今、「崩壊」の危機にひんしています。こうした政治のおおもとには、大企業の税・保険料負担を減らすため、公的保険・公的医療の縮小・解体を求める日本経団連などの要求があります。日本共産党は、財界の身勝手な要求にこたえて公的医療保障を切り縮める政治を転換します。「保険証一枚」あれば、だれでも、どんな病気でも医療が受けられるという「国民皆保険」の原則にもとづき、医療制度を土台から建て直します。

後期高齢者医療制度を廃止し、安心できる高齢者医療に転換します

 75歳という年齢を重ねただけで、高齢者を国保や健保から追いだし、「年金天引き」で保険料を取り立て、外来・入院・健診などあらゆる分野で差別する後期高齢者医療制度に、国民が大きな怒りの声をあげています。

この制度のねらいは、高齢者を別枠の医療制度に囲いこみ、高い負担と安上がりの差別医療を押しつけることです。保険料は2年ごとに値上げされ、際限のない負担増が国民に襲いかかります。後期高齢者の診療報酬を全面的に「包括払い(定額制)」にし、検査・投薬・手術を制限することや、後期高齢者の受診する医師を「かかりつけ医」に限定して、複数の診療科を受診しにくくすることなども検討されています。

組合健保や「協会けんぽ」(旧政管健保)が支出する「後期高齢者支援金」「前期高齢者納付金」はこれまでの拠出金より増額され、それを理由にした保険料の大幅値上げや健保組合の解散など、現役労働者の生活と医療が脅かされる事態が起こっています。

これまで老人保健制度に加入していた65〜74歳の障害者が強制的に後期高齢者医療制度に入れられ、加入を拒むと自治体の医療費補助まで受けられなくなる事態も、各地で問題となっています。

 ごうごうとわきあがる怒りと批判の声を受け、自公政権は、一部の高齢者の保険料軽減、年金天引きの対象限定、一部の差別的な診療報酬の凍結など、制度の「見直し」を余儀なくされました。しかし、現代版「うばすて山」と言われる差別法の害悪は、小手先の「見直し」や「改善」で解決できるものではありません。麻生内閣は、後期高齢者医療制度の「抜本的見直し」を打ちだしましたが、厚生労働省内に設置された「検討会」も、与党のプロジェクトチームも、半年間、討議しても「抜本的見直し」案を決められず、検討を打ち切ってしまいました。国民世論に包囲されて「見直し」を叫んでみたが、制度の根幹には手をつけられず、打つ手がなくなってしまったのです。

 日本共産党は、医療にかかる国の予算を減らすために高齢者を差別し、存続すればするほど国民を苦しめ、すべての世代に重い負担と医療の切り捨てを押しつける後期高齢者医療制度を廃止します。他党とも共同して稀代の悪法をすみやかに撤廃し、老人保健制度に戻して、安心できる医療制度をどうつくるかの議論をやり直します。老人保健制度の復活にともなう国保の財政負担などは、国の責任で補填します。

 高齢者医療の財政を悪化させてきた元凶は、政府による国庫負担の削減です。1983年に老人保健制度を導入して以来、歴代政権は、高齢者の窓口負担増、現役労働者の拠出金の負担増、国保への国庫負担削減などで、老人医療にかかる費用を国民に転嫁しつづけてきました。そのために、老人医療費に対する国庫負担は44・9%(1983年度)から37・3%(2007年度)へと落ち込み、後期高齢者医療制度の導入でさらに削減されました(35・4%:2008年度)。日本共産党は、高齢者を“じゃまもの”扱いして、医療を切り捨てる政治を転換します。減らされ続けた国庫負担を元に戻して高齢者医療費の無料制度を復活し、年齢や所得による差別のない医療制度の確立をめざします。

先進国では当たり前の“窓口負担ゼロ”をめざして負担軽減をすすめます

 自公政権が繰り返してきた窓口負担増により、世帯収入300万円未満の世帯では、「過去一年間に具合が悪くなっても医療機関に行かなかった」人が40%を超えるなど(日本医療政策機構、07年2月)、深刻な受診抑制が起きています。医療機関の未収金も急増し、高すぎる窓口負担が、公的医療制度の土台を掘り崩しています。

外来でも入院でも3割もの患者負担をとられるなどという国は、先進国では日本だけです。公的医療制度のある国では、窓口負担はゼロか、あっても少額の定額制です。日本も、1980年代前半までは「健保本人は無料」「老人医療費無料制度」でした。この世界でも当たり前の原則を崩し、日本の医療制度を“国際標準”から大きく後退させてしまったのが、自民党政治です。保険料は所得など能力に応じて負担し、必要な医療はだれもが平等に受けられる――この方向に向かって日本の医療制度を立て直します。

 “窓口負担ゼロ”の第一歩として、子どもの医療費無料化制度を国の制度を創設するとともに、75歳以上の高齢者の医療費を無料化します。さらに、現役世代の3割負担も、健保・国保、本人・家族ともに引き下げていきます。自公政権が来年度の実施を決めている70〜74歳の2割負担への引き上げを撤回します。

国保料(税)を引き下げ、保険証とりあげをやめさせます

 国民の4割が加入する国民健康保険では、所得200万円台で30万円、40万円の負担を強いられるなど、支払能力をはるかに上まわる国民健康保険料(税)に住民が悲鳴をあげ、滞納が453万世帯、加入者の2割を超えています。国保料(税)滞納を理由に保険証を取り上げられ、医療費の全額を負担する「資格証明書」にかえられた世帯は34万世帯にのぼります。また、事業主の“保険料のがれ”などで健保に入れず、国保も「未加入」となっている人、自治体当局が保険証を「留め置き」にしたまま放置している人など、数万人規模の無保険者が生まれ、「資格証・無保険」の人が医者にかかれず、死亡する事件が全国で続発しています。国民の命と健康をまもる公的医療保険が、国民の貧困をますますひどくし、社会的弱者から医療を奪うことなどあってはなりません。

日本共産党は、国の責任による国保料(税)の値下げを緊急に提案します。国保料(税)の「応益割」部分を、年間1人1万円(4人家族なら4万円)、国の支出で引き下げます。所得にかかわらず“頭割り”で課される「応益割」の引き下げは、国保料(税)の逆進性を緩和して、中・低所得者の負担を軽くします。

 貧困にあえぐ人から医療まで取り上げる――こんな非情な行政をおこなっている国は、ヨーロッパにはありません。生活困窮者からの保険証の取り上げをただちに中止し、貧困におちいった人に医療を保障する仕組みを拡充します。

政府の圧力と指導のもとで横行する、国保料(税)滞納を理由にした無法な差し押さえ、脅迫まがいの催告、加入者の人権を無視した国保料(税)の取り立てをただします。

国保法第44条にもとづく窓口負担の減免措置を推進します。生活悪化で窓口負担を払えない人が急増し、医療機関の未収金も増大するもと、政府もこの間、国保法第44条の活用を言わざるを得なくなっています。国の責任ですべての自治体で減免制度を行わせ、対象者の拡大など制度拡充をすすめます。

低所得者に対する国保料(税)の減額・免除制度を拡充します。現行制度にも、失業や災害、事業不振など「特別な事情」で所得が減った人への国保料(税)の減免制度があり、政府もこの間、制度の活用を呼びかけていますが、適用を受けられる人は限定され、多くの生活困窮者が、滞納・無保険者になっています。急激な収入減におちいった人はもちろん、広範な低所得を対象とした減免制度を国の責任で整備します。国庫負担の増額で国保料(税)全体の水準を引き下げつつ、“低所得者に重い”国保料(税)の算定方式を見直し、所得に応じた国保料(税)に改革します。公的年金等控除の縮小や定率減税の廃止など、この間の庶民増税に連動した国保料(税)の値上げから国民をまもる、負担軽減策をすすめます。

 国民健康保険を安心できる医療制度とするには、根本的な制度改革が必要です。低所得者が多く加入する国保は、そもそも手厚い国庫負担なしには制度が成り立ちません。しかもこの間、大企業の雇用破壊で失業者や非正規労働者が国保に流入し、「構造改革」によって自営業者や農林漁業者の経営難・廃業が加速するなど、“国保の貧困化”が急速に進行しています。ところが、歴代政権は1984年の国保法改悪を皮切りに、国保に対する国の責任を次つぎと後退させてきました。1984年から2006年の間に、市町村国保の総収入に占める国庫支出金の割合は49・8%から27・1%へとほぼ半減し、それと表裏一体に、一人当たりの国保料(税)は3・9万円から8・2万円へと2倍以上に引きあがりました。日本共産党は、国保への国庫負担を計画的に1984年度の水準に戻し、国保料(税)をだれもが払える水準に引き下げ、国保財政の立て直しをはかります。

自公政権が強行した改悪を撤回させ、公的医療保障を拡充します

 政府は、06年の「医療改革法」にもとづき、介護型療養病床を全廃し、医療型療養病床を大幅削減して、高齢者を病院から追い出す計画を推進しています。06・08年の診療報酬改定では、医療型療養病床に入院する患者の「医療の必要度」を区分し、「軽度」とされた人の診療報酬を大幅に引き下げるなど、入院患者の“追い出し”をはかる改悪が、強行されました。「医療改革法」で療養病床の食費・居住費を大幅に引き上げたため、負担に耐え切れない低所得者が退院に追い込まれています。

給付費抑制のために「医療・介護難民」を生みだすこれらの改悪にたいし、医療現場や自治体から抵抗の動きが起こっています。政府は、医療型療養病床の「10万床削減」をかかげ、各都道府県に病床削減の「目標」を出すようせまりましたが、都道府県からは“現状維持”や“増床”の「目標」があいついで出され、「10万床削減」は達成不可能となっています。介護型療養病床の廃止も、“受け皿”とされている新型老人保健施設の報酬や人員基準に問題があり、病床転換はすすんでいません。日本共産党は、「医療難民」「介護難民」を大量に発生させ、患者と家族に多大な苦しみを負わせる病床削減・廃止計画を中止・撤回させ、必要なベッドをまもります。診療報酬や負担増による病院追い出しをやめさせ、慢性期患者の医療を保障します。

 自公政権は06年の「医療改革法」で、「混合診療」の拡大に道をひらく、「保険外併用療養費」の導入を強行しました。保険診療と自費診療の併用を認める「混合診療」の解禁は、「必要な治療はすべて保険でおこなう」という公的医療保険の原則を崩し、患者の支払能力による治療の格差を生みだすものです。こうした動きの背景には、大企業の保険料負担の軽減を求める財界と、ビジネスチャンスを増やそうという米日保険業界の要求があります。「医療改革法」の施行後も、財界からは「混合診療」の全面解禁を求める提言があいついでいます。日本共産党は、「混合診療」の拡大を許さず、「保険証一枚」でだれでも安心してかかれる医療制度をまもり、広げます。

 「軽い病気」の治療を保険外にする「保険免責制度」、医療機関が処方する風邪薬や胃腸薬の「保険はずし」など、財界が要求する公的医療保険のさらなる縮小に反対します。安全・有効な治療技術はすみやかに保険適用とする仕組みをつくり、差額ベッド料などの自費負担をなくし、安全で質の高い治療が保険で受けられるようにします。

 「株式会社による医療経営」の解禁など、日本の医療を日米大企業の新たな儲け口とするために、国民の命と健康を犠牲にする「医療の市場化」に反対します。

 06年「医療改革法」にもとづき、40〜74歳の国民に「特定健診・保険指導」を受けさせ、加入者のメタボリックシンドロームの改善をせまる仕組みがスタートしています。加入者の“受診率”や“メタボ改善率”が低いとされた医療保険には、財政支出増のペナルティが課され、加入者の保険料値上げにつながります。政府が国民に“健康づくりを怠った”というレッテルを貼り、懲罰を課すのは本末転倒です。特定健診の検査項目が「メタボ対策」に特化されたため、従来の健診にあった、病気の早期発見に必要な項目が除外されるなどの問題も発生しています。健診が保険者負担になることで、国保や健保のなかには、住民・労働者に費用を転嫁する動きも起こっています。健診の営利化により、医療保険財政が、健康機器業界やフィットネス産業など「メタボビジネス」の食いものになることへの懸念も広がっています。日本共産党は、「自己責任」の名で健診をゆがめ、国民の健康保持に対する国・自治体の責任を後退させる改悪に反対します。病気の予防・早期発見という本来の主旨にたち、健診の改善・充実をはかります。

 06年の「医療改革法」では、国と都道府県が5年単位の「医療費適正化計画」を策定し、経済指標を参照しながら給付費抑制を推進していく仕組みが導入されました(第1期計画は2008〜2012年度)。“医療給付費の伸び率を経済成長率以下に抑制せよ”という財界の要求にもとづく制度改編です。各都道府県は「適正化計画」に「老人医療費の抑制」「病床数の削減」「メタボ・予備軍の減少」などの数値目標をさだめ、その達成をせまられます。給付費抑制の目標を達成できない都道府県には、その県だけ診療報酬を低く設定し、医療機関に経営難をしいるなどのペナルティが、国から課されます。住民の命と福祉をまもるべき地方自治体を、医療切り捨ての先兵に使う改悪など許されません。この「適正化計画」は、医療現場や自治体の混乱と反発をよび、国と都道府県の計画策定も大幅に遅れ、現在に至っても計画を策定できない県が存在するなど、ゆきづまりに直面しています。日本共産党は、「医療費適正化計画」をはじめ、都道府県・市町村を給付費削減競争に動員する仕組みを撤廃します。

 06年「医療改革法」にもとづき、08年10月、政管健保が「協会けんぽ」に改編され、運営が都道府県単位に分割されました。政管健保の保険料率は全国単一でしたが、新制度では、保険料率は都道府県ごとに変わってきます。保険料に格差をつけ、「医療費適正化計画」ともリンクさせることで、都道府県に給付費抑制を競わせあうのが政府のねらいです。また、今回の制度改編により、「協会けんぽ」の財政に対する国の責任がいっそう後退することも懸念されています。自民党政権は1992年、“保険財政が悪化したら元に戻す”と約束したうえで政管健保の国庫負担率を16・4%から13%に引き下げましたが、その約束は反故にされたままです。その後も、社会保障費2200億円削減のため、国庫負担分を組合健保に肩代わりさせる改悪をねらうなど、歴代政権は、政管健保への国庫負担削減を推進してきました。日本共産党は、保険料に格差をつけて多くの労働者に負担増を押しつけ、都道府県に給付費抑制を競わせながら国庫負担の削減をはかる「協会けんぽ」の制度改悪に反対します。中小企業で働く労働者とその家族に、政府の責任で医療を給付するという政管健保の本来の目的・役割をまもる立場から、国庫負担の復元と制度の改革をすすめます。

 日本の総医療費はGDP(国内総生産)の8・2%、サミット参加7カ国では最下位です。公的医療費の対GDP比も6・7%であり、イギリス(7・3%)並みにするなら2兆円、ドイツ(8・1%)並みにするなら7兆円、公的医療費が増えることになります。国民の長寿化や医療技術の進歩によって、医療費が増えることは本来、おそれるべきことではありません。日本共産党は、「医療費削減」の名で患者・国民、医療機関・医療従事者に犠牲を強いる路線を転換し、公的医療保障を拡充します。高薬価や高額医療機器など医療保険財政の無駄にメスを入れつつ、国の歳出の浪費を見直し、大企業・大資産家に応分の税・保険料負担を求めて、財源を確保します。

医師不足を解決し、地域医療体制をたてなおします

 地方でも都市でも、医師不足が重大な社会問題となっています。最大の原因は、「医者が増えると医療費が膨張する」といって医師の養成数を抑制し、日本を世界でも異常な「医師不足の国」にしてきた自民党政府の失政です。そこに、診療報酬削減による病院の経営悪化、国公立病院の統廃合・民営化などの「構造改革」が加わって、地域の拠点病院・診療科の消失が引き起こされています。出産の場所を見つけられない「お産難民」が都市でも地方でも急増し、救急患者が搬送先を見つけられずに命を落とすなど、かつては考えられなかった事態が急速に広がっています。

 国民世論に包囲され、ついに自公政権も「医学部定員削減」を決めた閣議決定を事実上見直し、2009・2010年度、医学部定員の増員を打ち出しました。また、休日・夜間診療の出産をになう勤務医への手当支給、不足地域に医師を派遣する自治体事業への助成など、地域医療の改善に向けた施策も部分的に始まっています。

しかし、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均よりも14万人も医師が少ない日本の現状からすれば、さらに抜本的な医師増員が必要です。また、政府はこれまで国公立病院に「採算重視」「コスト削減」を強要し、「不採算」を口実とした産科・小児科・救急医療などの切り捨てをおこなわせてきましたが、そうした路線は現在も継続され、とくに、総務省「公立病院改革ガイドライン」が自治体病院の閉鎖や病床削減に拍車をかけ、「医療崩壊」の“引き金”をひいています。「医療崩壊」を解決するには、「医療費削減」路線そのものを転換し、国の責任で計画的な打開策を投じることが必要です。

 ――国の予算投入で医師の養成数を抜本的に増やし、OECD加盟国平均並みの医師数にします。そのために、医学部定員をただちに1・5倍化します。医学部の「地域枠」や奨学金の拡充、教育・研修内容の充実をはかります。

――産科・小児科・救急医療などを確保する公的支援を抜本的に強化します。地域の医療体制をまもる自治体・病院・診療所・大学などの連携を国が支援します。

――医療の安全・質の向上、医療従事者の労働条件改善、産科・小児科・救急医療の充実などにかかわる診療報酬を引き上げます。出産一時金を大幅に引き上げます。

 ――医師の公的任用、公募などで医師を確保する「プール制」「ドクターバンク」、代替要員の臨時派遣など、不足地域に医師を派遣・確保する取り組みを、国の責任で推進します。

 ――勤務医の過重労働を軽減するため、薬剤師、ケースワーカー、助産師、医療事務員、スタッフの増員をはかります。院内保育所や産休・育休保障など家庭生活との両立をめざします。女性医師の働きやすい環境づくり、産休・育休・現場復帰の保障などを国として支援します。

 ――「公立病院改革ガイドライン」の押しつけをストップします。国公立病院の乱暴な統廃合・民営化、社会保険病院・厚生年金病院・労災病院などの売却をやめ、地域医療の拠点として支援します。

 ――2004年の新臨床研修制度の導入によって、大学病院の医師派遣機能が低下したことは医師不足が露呈するきっかけとなりましたが、新臨床研修制度自体は、研修医の力量アップをはかる改善です。ところが、政府はこれを「医師偏在」の原因だとし、研修期間の短縮や研修先の強制的などの「見直し」をおこなおうとしています。日本共産党は、よい良い医師を育てるという臨床研修制度の主旨をまもり、研修内容の充実、受け入れ病院への支援強化、研修医の待遇改善をすすめます。

看護師不足を解消し、安全でゆきとどいた医療を

 看護師の不足、超過密労働、離職者の急増は、医療の安全をおびやかす重大問題です。2006年、国は看護師の配置基準を18年ぶりに改定し、「患者7人に看護師1人」(「7対1」)を配置した医療機関に報酬を加算して、手厚い看護体制を促す仕組みをつくりました。ところが、看護師が絶対的に不足しているうえに、「構造改革」で診療報酬全体が大幅に削減されたため、“看護師争奪戦”が激化し、経営難の中小・地方の病院で看護師不足がいっそう深刻化する事態が起こっています。これにたいし、政府は、「7対1」基準の報酬を取得できる要件に「重症度・看護必要度」などを導入しました。その要件はきわめてきびしく、現場の負担を増やし、増員の流れに水をさすものとなっています。

 本当に手厚い看護体制を実現するには、諸外国に比べて異常に少ない看護師数を抜本的に増やすことが必要です。また、医療機関に「入院日数の短縮」をせまって看護師の業務量を激化させるなど、給付費抑制のため看護現場に犠牲をしいる医療政策の転換が求められます。看護師の配置基準を満たせない中小・地方病院をさらなる経営悪化に追い込み、選別した病院だけを支援する路線もあらためるべきです。日本共産党は、地域医療をまもり、すべての患者に安全でゆきとどいた治療を保障するため、看護師不足の解決に全力をあげます。諸外国に比べて少なすぎる看護職の抜本的増員、労働条件の改善と地域医療の支援、退職した看護師の再就労支援などで、看護師200万人体制を確立します。

 ――「7対1」基準の報酬を取得できる病院を限定・選別するのをやめ、施設基準を満たす全病院が継続・取得できるようにします。「7対1」以外の配置基準を満たしているすべての病院にたいし、診療報酬を緊急に引き上げ、人員体制の確保を応援します。

 ――看護師の労働条件を改善するための公的支援、診療報酬改革をすすめ、「夜勤は複数、月8日以内」という人事院判定の早期実現、産休・育休の代替要員確保、院内保育所の設置、社会的役割にふさわしい賃金への引き上げなどをはかります。

 ――政府が検討している「第7次看護職員需給見通し」に実態を十分反映させ、新たに「看護師確保緊急7カ年計画」を策定して、看護職員の大幅増員へ抜本的対策を講じます。「行革」の名による看護学校の切り捨てをやめ、自治体独自の看護師増員対策をすすめます。看護教育制度の抜本的充実をすすめます。

――退職した看護師の再就労を、国が予算を大幅に増やして支援します。

医科でも歯科でも、国民に安全・安心の医療を保障するために

〔医療保険財政の立て直し〕

 給付費抑制を最優先に、ひたすら国民に負担を求め、公的保険を切り縮めて市場原理にゆだねる政府・財界の路線では、患者の重症化がすすみ、国の医療費は逆に増大するだけです。日本共産党は、ほんとうに持続可能で安心できる医療保険財政を確立するため、(1) 減らしつづけた医療への国庫負担を計画的に元に戻す、(2) 薬の価格をさらに見直し、異常に高い高額医療機器の価格を引き下げる、(3) 予防・公衆衛生や福祉施策の充実に本腰を入れ、国民の健康づくりを推進する――などの改革に取り組みます。

 この間、大企業の賃下げやリストラ、非正規雇用への置きかえで健保の収入が減り、不安定雇用の労働者が大量に国保に追いやられたことも、健保・国保財政を悪化させる原因です。1980年度と2006年度を比較すると、国民医療費に占める事業主負担の割合は4%――1兆3000億円分も減りました。医療保険財政を立て直すためにも、大企業に雇用・賃金・保険料負担にたいする社会的責任を果たさせます。

 民主党や自民・公明の一部からは、「医療保険の一元化」が叫ばれていますが、国庫負担を削減したまま「一元化」をしても、国保・高齢者医療の財政赤字が健保に転嫁され、現役労働者の保険料が値上げされるだけで、なんら制度の改善にはなりません。「一元化」を理由に、事業主負担が削減・廃止されれば、国民の負担はさらに増大します。「一元化」によって、現在、各保険者が独自におこなっている“給付の上乗せ”などが不可能になることへの懸念も出ています。「医療費削減」路線の枠内での保険者組織の改編ではなく、削減された国庫負担の復元で、公的医療保障を立て直すことこそ、求められます。

〔インフルエンザ・感染症対策〕

 H1N1型ウィルスによる新型インフルエンザが世界的に流行し、日本でも多数の感染者が出ています。感染者が集中した地域では、「発熱外来」に人が殺到して病床が大変になっています。感染者の治療、発熱を訴える人への相談、病原体の拡散防止などに取り組む医療・保健体制を、国の責任で拡充・強化します。自公政権が「採算重視」の名で閉鎖・削減してきた100施設・3400床の感染症指定医療機関を復活させ、拠点病院への専門医・看護師の配置、医療機器の整備、保健所の体制強化、ワクチンなどの研究・製造システムの確立をすすめます。

H5N1型ウィルスによるヒト・ヒト感染の強毒性インフルエンザなど、別種の新型インフルエンザの流行にもそなえ、抗インフルエンザ薬とプレパンデミック・ワクチンの備蓄量を大幅に増やし、検疫体制を抜本的に強化します。

 はしか対策をすすめます。国の責任でワクチンを備蓄し、追加接種が必要な人には公費助成をおこなうなど、感染・流行を防ぐ、あらゆる手立てをとります。

 細菌性髄膜炎の予防に有効で、世界100カ国以上で採用されている、「ヒブワクチン」の公費による定期予防接種を実現します。

 肺炎球菌の感染により、多くの小児が細菌性髄膜炎や肺炎、重篤な中耳炎・菌血症・敗血症などにかかっています。すでに安全性と効果が立証されている「小児用肺炎球菌ワクチン」の接種に対する公費助成をすすめます。

 子宮頸がんはウィルス感染を原因とする病気であり、欧米諸国では、ヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチンの早期接種による予防がおこなわれています。日本でも「HPVワクチン」の開発をすすめ、接種への公費助成を実現します。

〔子どもの医療費無料化〕

 小学校就学前の子どもの医療費を、所得制限なしで無料化する国の制度を確立します。その共通の制度の上に、全国に広がった自治体独自の助成制度をさらに前進させます。子どもの医療費の助成制度(現物給付)をおこなっている自治体の国保に対する、国庫負担の減額調整のペナルティをやめさせます。

〔診療報酬の改革〕

“すべての人に必要な医療を保険で給付する”という国民皆保険を守り、拡充する立場で診療報酬の改革に取り組みます。診療報酬の「総額削減」、保険外診療の拡大に反対し、安全・有効な治療はすみやかに保険適用とする仕組みをつくります。“安上がり医療”をねらった「包括払い(定額制)」の導入・拡大に反対し、「出来高払い」による給付をまもります。薬・医療機器にかたよった報酬評価のあり方を見直し、医療従事者の労働を適正に評価する診療報酬に改革します。

 医療の実態を無視し、医学的根拠もない「外来管理加算」の「5分ルール」を廃止します。

 「後期高齢者終末期相談支援料」「後期高齢者診療料」「後期高齢者特定入院基本料」など、差別的な診療報酬をただちに廃止します。

地域医療・救急をささえる病院を大幅な減収に追いこみ、病院に「保険外併用療養」の採用をせまる、「入院時医学管理加算」の改悪を撤回させます。

 標準算定日数を超えたリハビリを「保険外併用療養」とする改悪を許さず、リハビリ日数制限の全面撤回と制度の再構築を求めます。

 政府は08年10月から、脳卒中や認知症の入院患者を多く抱える「特殊疾患病棟」(1万4000床)、「障害者施設」(6万床)にたいする診療報酬の減額を強行しました。脳卒中・認知症患者などの“病院追い出し”をねらった改悪を撤回します。

 人工透析の「夜間・休日加算」の引き下げにより、外来の夜間透析を廃止・縮小する医療機関が各地で生まれ、患者の治療がとどこおる事態が引き起こされています。患者負担の軽減をすすめながら、「加算」の復活、適切な報酬への引き上げをはかります。

 現行では三疾患(血友病、HIV、人工透析の腎臓病)に限られている「高額長期疾病にかかわる高額療養費の支給特例」を拡大し、ウィルス性肝炎や慢性骨髄性白血病(CML)など、治療が長期にわたり、高額の医療費がかかる疾患を対象としていきます。

〔レセプトオンライン請求義務化〕

 政府が推進する「レセプトオンライン請求義務化」は、医療機関に一方的な費用負担を押しつけ、レセプトデータの民間活用で個人情報を漏洩の危機にさらすなど、きわめて問題の多いものです。全国保険医団体連合会の調査によれば、オンライン請求に対応できないために「開業医をやめる」と答えた医師は12・2%にのぼります。「オンライン義務化」のために地域の診療所が経営難や閉院に追い込まれれば、医療崩壊はいっそう加速しかねません。省令改定だけで診療報酬の請求方法を制限し、保険医の請求権を侵害することは違法だと訴える訴訟も起こされています。日本共産党は、計画の撤回と抜本的な見直しを要求してきました。2010年4月に予定されている医科診療所への「オンライン義務化」をやめ、計画を白紙に戻すことを求めます。

〔歯科医療の充実〕

 政府は、歯科の診療報酬を不当に低く抑え、自費診療・混合診療を拡大してきました。この20年間、重要な診療行為の保険点数が据え置かれ、新たな歯科医療技術の保険収載もほとんどおこなわれないという事態がつづいています。そのために、患者は保険だけでは十分な治療が受けられず、高い自費負担に苦しめられています。一方で、多くの歯科医は経営難にあえぎ、開業歯科医の4分の1が年収300万円以下の「ワーキングプア」という状況になっています。日本共産党は、国民の口腔の健康をまもり、「保険でよい歯科治療」を実現するため、歯科診療報酬の改革、歯科医療の充実にむけた支援を進めます。

初診料・再診料の水準を引き上げ、医科・歯科間格差を是正します。長期にわたり据え置かれている「う触処理」などの基礎的技術料を適正に引き上げます。医科・歯科ともに窓口負担の抜本的軽減を進めます。

歯周病の治療・管理や義歯に関わる包括的・成功報酬型の診療報酬を撤廃し、治療行為を適正に評価する報酬に改定します。画一的な文書提供業務の押しつけをやめさせます。

国民の歯科医療への需要の高まりや、治療技術の進歩に対応し、保険治療の大幅な拡大と保険外治療の解消をはかります。歯科新技術の安全・有効性を確認してすみやかに保険収載とする仕組みを確立し、金属床の部分入れ歯など、実績もあり、広く用いられている治療法は保険給付の対象としていきます。現在、保険で給付されている補綴物の保険給付はずしに反対し、混合診療となっている欠損・補綴の保険移行をすすめます。

 歯科技工士や歯科衛生士の役割を、適正に評価する診療報酬にあらためます。入れ歯にかかわる診療報酬の改悪により、歯科技工所の経営難・廃業が加速し、新たに歯科技工士となる若い人を確保できないなどの事態が深刻化しています。一方で、安全や品質に規制のない安価な海外技工物が大量に輸入され、自費診療で使用されています。歯科技工士が安心して仕事を継続でき、歯科医と連携して「よい入れ歯」を保険で給付できるよう、歯科技工物にたいする診療報酬の改善をすすめます。国民の海外技工物の輸入・使用・安全性の実態を調査し、材料・製作者・技工所などの基準を設けて規制をおこないます。

〔医療の安全、患者の権利〕

 安全な医療は国民の切実な願いです。日本には医療事故を専門に取り扱う公的機関が存在せず、もっぱら警察の捜査に責任追及がゆだねられてきましたが、それでは問題の解決も被害者の救済もはかれません。政府内でも医療事故調査機関の設置が検討されていますが、機関の所属先や警察との関係など、重要な問題がいまだ未解決です。日本共産党は、医療事故の検証と再発防止に取り組む第三者機関の設置を早くから提案してきました。国民の願いにこたえ、医療現場の苦難を軽減するためにも、患者・国民、医療従事者の議論をすすめ、公正中立な調査機関のすみやかな設置を実現します。

分娩時の事故で子どもが脳性まひとなった場合に補償をおこなう「産科医療補償制度」が09年1月から始まりましたが、補償の対象が限定され、基金の運営は営利企業に丸投げで、透明性・公平性にも疑問がだされるなど、問題の多い制度となっています。日本共産党は現行制度の抜本的見直しをすすめながら、諸外国のような幅広い医療事故に対応できる無過失補償制度の創設をめざします。

患者の権利を明記し、医療行政全般に患者の声を反映する仕組みをつくる「基本法」の制定をすすめます。

〔がん対策〕

 日本国民の死因の第1位である、がんの予防・治療には、国が総合的な対策をすすめることが必要です。ところが、政府・与党は、窓口負担増、保険証とりあげなど、がんの早期治療に逆行する施策をとりつづけてきました。自民党政権が、がん検診にたいする国庫補助を廃止したために、各地で、がん検診の有料化や対象者選別、検診内容の劣悪化などの事態が起こっています。医療崩壊が進行するもと、がんの治療・予防の地域格差が深刻な問題となっています。がん対策基本法の主旨にのっとり、どこにいても必要な治療・検査を受けられる医療体制の整備が必要です。国の責任で、専門医の配置や専門医療機関の設置をすすめ、所得や地域にかかわらず高度な治療・検査が受けられる体制を確立します。未承認抗がん剤の治験の迅速化とすみやかな保険適用、研究予算の抜本増、専門医の育成、がん検診への国の支援の復活など、総合的がん対策を推進します。

〔薬害・肝炎対策〕

 薬害(肝炎、イレッサ、MMRなど)の解決と被害者救済に全力をあげます。

薬害C型肝炎訴訟の原告・弁護団の運動がみのり、08年1月、薬害発生と被害拡大に対する国の責任を明記し、血液製剤によってC型肝炎に感染した被害者を救済する法律が成立しました。しかし、救済法では、カルテのない被害者の救済がきわめて困難で、対象となる血液製剤は限定され、先天性疾患や集団予防接種などで感染した被害者は救済対象から外されています。日本共産党は、すべての薬害被害者の救済をはかり、製薬企業にも謝罪・補償・再発防止をおこなわせるなど、全面解決にむけた努力をつづけます。

 350万人とも言われるウィルス性肝炎患者の治療推進と生活支援にむけ、肝炎対策基本法を制定し、「肝炎治療7カ年計画」を拡充します。C型肝炎に対する肝がん予防を目的としたインターフェロン投与や、B型肝炎に対する核酸アナログ製剤の使用などの有効性をすみやかに確認し、必要な検査・治療は迅速に医療費補助の対象としていきます。ウィルス性肝炎を「高額長期疾病にかかわる高額療養費の支給特例」の対象に加え、患者負担を軽減します。「肝炎ウィルス無料検査」の拡充、「肝疾患診療連携拠点病院」の整備、「肝炎情報センター」の機能拡充など、肝炎の早期発見・治療、情報提供、研究体制の充実をはかります。

〔医療機関への消費税のゼロ税率適用〕

 保険診療などの医療費は消費税非課税とされていますが、病院や診療所が購入する医薬品・医療機器などには消費税が課税されています。これによって医療費の負担も増え、医療機関の経営も圧迫されています。医療には「ゼロ税率」を適用し、医薬品などにかかった消費税が還付されるようにします。

〔救急医療〕

 救急体制の確保は、人の生死を左右する課題です。この十年間で救急出動件数が65%も増加しているのに、救急隊員数は9%増にとどまるなど、政府の責任放棄が患者の命を脅かし、救急現場の矛盾を拡大しています。さらに、政府は、救急車の有料化、通報段階で患者の「緊急性」を選別して切り捨てる「トリアージ(治療の優先順位の選別)」の導入など、「命の格差」を拡大する改悪を検討しています。日本共産党は19年前から国会でドクターヘリの導入を提案するなど、救急体制の充実をいっかんして要求してきました。救急車の有料化などの改悪に反対し、救急体制の拡充をすすめます。

 国の責任で、小児救急体制を整備し、新生児特定集中治療室(NICU)を現行2000床から当面、2500床に増床し、計画的に3000床の確保をめざします。

〔助産師・助産院への公的支援〕

 「お産難民」が社会問題となっている今、助産師・助産院の役割はますます重要となっています。ところが、自公政権は、2006年「医療改革」の一環として、嘱託医・嘱託医療機関を確保できない助産院の開業は認めないとする医療法改定を強行し、多くの助産院を廃業に追い込みかねない、重大事態を引き起こしました。日本共産党は、みんなが安心してお産のできる環境を確立し、助産院ならではの「良いお産」を普及・発展させるため、助産師の養成数を増やし、助産院に対する手厚い公的支援をすすめます。助産院を地域の周産期医療ネットワークに位置づけ、「院内助産所」の設置を進めるなど、助産師と産科医の連携を国の責任で推進します。

〔在宅医療・介護における駐車問題の解決〕

 在宅医療、訪問看護、訪問介護の分野では、一定時間の駐車が避けられませんが、その仕事に従事している人たちは、駐車禁止で取締りを受けることに不安を感じながら仕事をしなければならないのが実態です。 駐車許可を得るには、煩雑な手続きや実態と合わない基準が障害となっている現状を改め、柔軟で実態におうじた道交法上の配慮を求めます。

難病対策の抜本的な拡充を

 難病対策は、1972年に始まった難病対策要綱にもとづき、治療研究と医療費助成を中心にすすめられてきました。2006年には、「予算削減」のためにパーキンソン病や潰瘍性大腸炎に対する医療費助成の削減が画策されるなど、難病患者まで切り捨てる政府の冷たい姿勢があらわになりましたが、患者団体はこうした動きとねばり強くたたかい、09年度には、治療研究や医療費助成の対象疾患を拡大させることができました。ただ、新たに治療研究対象となったものの多くは、「原則一年」とされる「研究奨励分野」であり、研究者や患者団体からは、これらを「臨床調査分野」に“格上げ”し、継続した難病研究を保障するよう要求が出ています。

 患者・家族の一番の願いは、原因究明や治療法が確立されることです。すべての難病や慢性疾患の患者に対し、十分な医療が保障されるよう、関係予算を抜本的に増額し、新規の難病指定をすみやかにおこない、治療研究をすすめます。

 すべての難病患者、長期慢性疾患者、小児慢性疾患児が、お金の心配なく、無料または低額の負担で安心して必要な医療が受けられるよう、公的医療費助成制度を抜本的に拡充します。小児慢性疾患児が、成人したことを理由に必要な医療費補助を打ち切られるなどの事態をあらため、成人後の医療・社会生活への支援策をすすめます。

 難病・慢性疾患は生涯にわたって治療が必要です。ヨーロッパでは、長期療養が必要な患者に、疾病の別なく、手厚い給付と負担軽減をはかる仕組みが整備されています。日本共産党は、難病・慢性疾患への医療費助成の枠組みを毎年の予算で決める現行制度をあらため、ヨーロッパのように、すべての疾患に必要な医療を給付し、自己負担の心配もいらない、公的な医療保障制度を確立するため、力をつくします。当面、負担が大変な難病患者を、高額療養費制度をつうじて救済する負担軽減策をすすめます。

 障害者自立支援法を廃止し、難病や慢性疾患を障害の範囲に加え、ICF(国際生活機能分類)の障害概念に基づいて、すべての障害を福祉サービスの対象とする総合的な「障害者福祉法」を制定するために全力をあげます。教育の保障、障害者雇用促進法にもとづく就労支援の強化、障害基礎年金額の大幅な引き上げをはじめとした所得保障の拡充など、難病・慢性疾患患者のくらしの基盤をととのえます。難病相談支援センターの役割と機能を強化し、相談支援体制を拡充します。

3、介護を受ける人も、介護をささえる人も、誰もが安心できる公的介護制度をめざして改善をすすめます

 2005年に、自民・公明にくわえて民主党まで賛成して成立した改悪介護保険法のもとで、高すぎる保険料・利用料、必要な介護サービスのとりあげ、深刻な施設不足と待機者の急増、介護労働者の労働条件の悪化と、それによる人材不足の深刻化など、さまざまな問題が浮き彫りとなっています。

 施設の食費・居住費の全額自己負担化によって、負担の重さにたえきれず、施設を退所したり、利用をあきらめる人があとをたちません。特別養護老人ホームの待機者も全国で38万人をこえていますが、それに療養病床の廃止による施設からの高齢者追い出しが拍車をかけ、深刻な事態となっています。

 軽度と認定された人から、訪問介護や通所介護など、高齢者の生活と命をささえてきた介護サービスが「予防」や「自立支援」という名のもとにとりあげられています。「介護の社会化」という当初の宣伝文句とは裏腹に、家族の介護負担は増え、年間14万人をこえる人が家族の介護を理由に仕事を辞め、介護を苦にした悲惨な事件や、高齢者の孤独死などもあとをたちません。

 介護予防や保健福祉の事業が「地域支援事業」として介護保険に吸収され、公的な責任と行政の財政負担は後退しました。各地の介護予防事業は閑古鳥が鳴いている上に、地域の高齢者の実態を把握し、介護予防や虐待防止などのとりくみの中心になるとされた地域包括支援センターも、介護予防プランの作成で手一杯というのが実態です。社会的な支援を必要としながら、介護制度や社会福祉の網の目からこぼれ、地域のなかで貧困にたえ、困難をかかえて暮らす高齢者が増えています。

 その一方で、改悪介護保険法にもとづいて、介護報酬が削減されたため、事業者の経営が苦しくなり、介護労働者の労働条件はますます劣悪になり、辞めていく人があとをたたず、深刻な人材不足が介護現場に広がっています。09年4月に介護報酬が初めて3%引き上げられたことは世論と運動の成果ですが、政府が当初宣伝した”ひとり月2万円の賃上げ”はまったく実現していません。09年度補正予算には時限措置で賃上げ対策がもりこまれましたが、一時的な対策では効果はのぞめません。「福祉は人」です。福祉をこころざした人たちが、精魂つきはて、無念の思いで、福祉の職場を去っていくことは、わが国がこれからさらなる高齢化を迎えることを考えても、重大な問題です。

 いま、介護保険制度は、国民的な存在意義という点でも、制度をささえる人材という点でも、土台からゆらぐ深刻な事態となっています。

 日本共産党は、施設利用料の実効ある軽減措置を講じること、軽度者や家事援助もふくめてすべての高齢者が人間らしく生きていくことを支える介護サービスを守ること、「地域支援事業」に十分な公費を投入して、地域包括支援センターの活動をはじめ、行政が高齢者の生活にたいする公的責任をしっかりとはたすことなど、改悪法による「介護とりあげ」、負担増などから高齢者を守る改善に全力をあげます。

 また、07年12月に発表した「国民の願う高齢者介護・障害者福祉の実現を――深刻な人材不足を打開するための緊急提言」の実現をはじめ、介護をささえる人も安心して、誇りと働きがいをもって働ける、労働環境の改善に力をつくします。

 さらに、介護をはじめ社会保障を「市場原理」「規制緩和」一辺倒の世界にしようとしてきた「構造改革」をあらため、利用者の権利と生活を守り、利用者の立場にたった介護サービスにしていくために、コムスン問題などの教訓を政治にいかします。

 財界団体などが要求し、厚生労働省が検討していることも「内部文書」で明らかになった、介護保険料の徴収年齢の引き下げや障害者福祉の介護保険への統合、利用料の2割への引き上げやホテルコストの引き上げ、軽度と認定された人や家事援助の介護サービスを介護保険の対象から除外するなどの給付対象の削減や「介護とりあげ」をはじめ、さらなる介護保険の改悪にはきっぱりと反対します。

 そして、(1) 保険料・利用料を減免して、経済的理由で介護を受けられない人をなくす、(2) 「介護とりあげ」「保険あって介護なし」をただす、(3) 労働条件の改善で、人材不足の解消、雇用創出をはかる、(4) 高齢者の生活支援や健康づくりに自治体が責任をはたす、という4本の柱で、今年2月に発表した「介護保険10年目を迎えるにあたっての提言」にもとづき、現在の介護保険の枠組みにとらわれず、誰もが安心して利用でき、安心して働ける介護制度への抜本的な見直しを国民の協力・共同ですすめます。とくに、次のような改革をすすめます。

――国庫負担をふやし介護保険料を値下げするとともに、実効性のある利用料・保険料の減免制度をつくります。保険料のあり方を、全国単一の所得に応じた定率制など、支払い能力に応じた負担にあらためていきます。利用料は、将来は無料(10割給付)をめざし、当面は、在宅サービスでも施設サービスでも減免制度を抜本的に充実させます。

 ――所得の少ない高齢者は、原則として介護保険料・利用料を免除して、お金の心配をせずに介護がうけられるしくみを緊急につくります。

 ――「介護とりあげ」を目的として改悪され、世論と運動によって大幅な見直しをせまられた要介護認定・調査の判断基準は白紙撤回させます。要介護認定のありかたは、認知症の人などの状態をきちんと把握できるように、現場の実態にあわせて慎重に再検討するとともに、将来にむけては、在宅生活を制限する要介護認定と利用限度額を廃止し、現場の専門家の判断で適正な介護を提供する制度をめざします。

 ――身近な相談相手・専門家として、利用者の声を中立・公正な立場から代弁できるように、ケアマネジャーを支援・育成します。ふさわしい介護報酬や研修などを保障します。介護予防プランの作成をケアマネジャーの担当にもどし、介護報酬も引き上げ、高齢者が自分の担当のケアマネジャーから一貫した支援を受けられるようにします。

 ――05年の法改悪による「介護とりあげ」を元にもどします。また、自治体による乱暴な「介護とりあげ」の背景となっている、国の給付適正化事業のあり方を抜本的に改め、ヘルパーやケアマネジャーなどの判断で、介護の現場の実態におうじて柔軟に、適切なサービスが提供されるようにします。

 ――特養ホーム、生活支援ハウスなどの計画的整備、ショートステイの確保、グループホームや宅老所、小規模多機能への支援など、在宅でも施設でも、住み慣れた地域で安心して暮らせる基盤整備をすすめます。特養ホームの待機者を解消する、緊急の基盤整備5カ年計画をすすめます。

 ――介護施設でも医療行為は医療保険の適用を認めるなど、医療と介護の連携を強め、どこでも必要な医療と介護が受けられるように改善します。介護型療養病床の廃止に反対し、その医療施設が地域ではたしてきた役割を守り、地域における慢性期医療を充実します。

 ――食費・居住費の全額自己負担をやめさせます。「コムスン事件」の反省をいかし、非営利の介護提供者を支援するとともに、民間事業者については適切な介護が提供できるかを事前に審査するようにあらためます。財界が要望している特養ホームへの営利企業の参入に反対します。

 ――人材不足問題を改善し、介護従事者の労働条件をまもり改善するために、介護労働者の月3万円の賃金アップなどの緊急対策や、介護報酬の引きあげ、人員配置基準の改善などにとりくみます(詳しくは、07年12月に発表した「緊急提言」をご覧ください)。介護従事者の処遇改善が介護保険料・利用料の値上げに反映しないよう、公費を投入して改善をはかります。

 ――サービス提供責任者が常勤で配置できるように介護報酬に位置づけます。施設の人員配置基準を実態にあわせて3対1から2対1に改善させます。24時間365日の在宅介護態勢を整備するために、夜間の訪問介護は複数のヘルパーの派遣を保障できるように改善します。

 ――福祉事務所や保健所の機能強化など、保健・福祉・公衆衛生などの自治体のとりくみを再構築します。地域に暮らす高齢者の生活を行政がつかみ、総合的にその生活をささえていくために、地域包括支援センターの活動などを充実させます。

 ――介護・医療・福祉などの連携をすすめ、国と自治体の責任で高齢者の健康づくりをすすめます。民間での対応がむずかしい人には、自治体が介護を提供するなど、積極的な役割をはたせるようにします。認知症にたいする支援を強めます。家族介護者への支援を充実します。

 ――これらの財源を確保するために、介護給付費の国庫負担割合を計画的に50%まで引き上げることをめざします。当面ただちに5%引きあげます(在宅は25%から30%へ、施設は20%から25%に引きあげます)。

4、生活保護、児童扶養手当などのきりさげを中止させ、抜本的に拡充します

必要な人すべてが受けられる生活保護に改善します

 生活保護の受給世帯は119万世帯(09年3月)に達し、史上最高を更新し続けています。生活保護制度は、「最後のセーフティーネット」であり、その水準は、国民の生存権=「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)を具体化したものでなければなりません。

 ところが、日本の生活保護の捕捉率(生活保護が必要な水準にある世帯のうち、実際に何世帯が生活保護を受給しているかの割合)は1〜2割程度といわれ、ヨーロッパなどに比べて極端に低いことが多くの研究者から指摘されています。生活保護法に違反するような福祉行政が自治体の現場でまかり通っているからです。しかも、自公政権は、生活保護の母子加算・老齢加算の廃止をはじめ、生活保護の給付水準を切り下げる改悪をこの間、強行してきました。こうした政治のおおもとには、社会保障削減路線があります。日本全国で貧困が広がるいま、必要な人すべてが受けられる制度にこそ改善すべきです。

 生活保護費の抑制を求める政府の指導により、自治体では、受給希望者に申請書さえ渡さない違法な「水際作戦」や、保護開始後、生活が軌道にのっていないのに無理やり保護の辞退届を書かせるなどの非情な行政が横行しています。生活保護法にも違反した行為や無法な指導をやめさせ、必要な人がきちんと生活保護を受けられるようにします。08年の年末から09年の初頭に注目を集めた「年越し派遣村」では、国民の世論と運動、当事者・支援者の道理ある交渉により、住所の有無や年齢を理由にした保護申請の“門前払い”を許さず、保護を希望した全員にすみやかな保護決定が下されるという画期的な経験が生まれました。こうした成果もふまえ、生活保護法の本来の規定にそった保護行政を全国で実施させます。

 07年から、持ち家を持つ高齢者に不動産を担保にお金を貸し付け、それを使いきるまでは保護を受けさせない「要保護世帯向け長期生活支援資金=リバースモーゲージ」が始まりました。政府はさらに、生活扶助基準の引き下げ、級地再編などの制度改悪もねらっています。生活保護基準は、非課税限度額や就学援助、公営住宅の家賃など、各種制度の目安・基準になっており、切り下げは、保護を受給していない世帯にも大きな影響をおよぼします。日本共産党はこれらの制度改悪を中止させ、廃止された老齢加算、母子加算を復活します。「最後のセーフティーネット」である生活保護を、「働く貧困層」をはじめ、制度を必要とするすべての国民が利用できる制度とするため、保護基準や運用、利用方法など抜本的に改善・拡充します。

 厚生労働省が出した、生活保護の通院交通費(移送費)支給を制限する「通知」をめぐり、過度にきびしく対応する自治体が出ています。この「通知」については、国民の批判を受けて、厚労相も「事実上の撤回」を言及しており、すべての自治体で受給者の通院交通費が保障されるよう、政府の指導と自治体行政の是正を求めます。また、政府には「通知」の明確な撤回を要求します。

 行政が、貧困の実態を正しく把握することも重要です。ところが、日本では1965年を最後に、生活保護が必要な水準の世帯数の把握がおこなわれていません。イギリスでは、3年ごとに捕捉率を公表しています。国が貧困をなくすという立場にたてるかどうか、姿勢が問われています。国の責任で貧困、生活保護の捕捉率などの実態調査をおこないます。

 義務教育の子どもの給食費・学用品代・修学旅行費などを援助する就学援助は、受給者が急増し、その役割はますます重要になっています。ところが、国が2005年に、生活保護に準ずる世帯の国庫補助金を打ち切り、一般財源化してしまったことで、支給額や基準を厳しくしている自治体が広がっています。就学援助への国庫補助金を復活・拡充させます。

児童扶養手当の削減を中止し、父子家庭にも拡充します

児童扶養手当の受給者は、約100万世帯におよびます。母子家庭は、不安定雇用、低所得をしいられ、その平均収入は全世帯の平均収入の約4割で、手当はまさに“命綱”です。2002年に自民・公明・民主の賛成で決められた、児童扶養手当の大幅削減(最大で2分の1)は運動と世論の力で「凍結」されました(法律上の実施予定は08年度)。しかし、削減をしない条件として「就労意欲」の有無が判断されるため、受給世帯の母親は「求職活動中」などを証明する書類の提出を義務づけられています。その書類手続きができない母親が3514人(08年12月)にのぼり、問題となっています。また、届け出を促す自治体からの文書が、書類を提出すると逆に手当が削減されるかのような、誤解を与える表現になっており、各地で混乱を招いています。受給条件の緩和、提出書類の簡素化を緊急におこない、手当削減を決めた法改悪をすみやかに撤廃します。

 現在、児童扶養手当の対象となっているのは、母子家庭と、母にかわって扶養している世帯のみで、父子家庭は含まれていません。年収300万円未満の父子世帯は37%、200万円未満世帯が16%にも及ぶなど、多くの父子家庭が、低所得に苦しみ、支援を必要としています。自治体によっては、父子家庭に対し、児童扶養手当にかわる独自の給付制度を実施しています。父子家庭を手当支給の対象から排除する現行法をあらため、「ひとり親家庭」に開かれた児童扶養手当になるよう改善します。

 生活保護や児童扶養手当などに物価の上昇分を反映させ、今年度からすみやかに給付を引き上げます。

 厳冬期にそなえ、低所得者向けの福祉灯油に対する国の財政支援を拡充します。

5、原爆被爆者施策の抜本的な改善をすすめます

 広島・長崎の被爆者が6年余にわたってとりくんできた原爆症認定集団訴訟は、被爆者側が18連勝を重ね(09年7月末現在。8月3日には19番目の判決予定)、2度にわたり認定審査方針の見直しをおこなわせました。しかしなお、被爆の実態にも司法の判断にも、みあったものになっていません。そればかりか政府・厚生労働省は、これまでの切り捨て行政が間違っていたことさえ認めず、被爆者と争い続けています。

 これらは、被爆国日本の政府が、原爆被害の実態を直視しようとせず、いかに矮小化してきたかを示しています。最近、国側が影響をほとんど認めてこなかった、放射線降下物などを体内にとりこんだことによる内部被曝の影響が明らかにされました。日本政府がアメリカの核抑止力に頼る方針のもとで、被害の実態を解明する努力をまともにおこなってこなかったことは明白です。

 健康やくらしなどさまざまな困難を抱えながら、核兵器廃絶の声を世界に広げてきた被爆者の苦しみを増幅させる切り捨て行政を続けることは許されません。原爆症認定集団訴訟の早期解決と、放射線の影響が否定できない疾病・障害については認定するなど審査方針と運用の抜本的改善をすすめます。同時に、矛盾の多い認定制度そのものについても、被爆者の要求にそって、法改正をふくめ根本的解決をはかります。

 被爆者援護法を改正し、原爆被害への国家補償、何の対策もとられていない死没者への補償、被爆二世対策の拡充をすすめます。海外に居住する被爆者が、原爆症認定申請をはじめ、国内にいる被爆者と同等の援護が受けられるようきめ細かな措置をとります。

6、ハンセン病元患者にたいする保障を充実させます

 全国には13カ所の国立ハンセン病療養所があります。入所者は約2600人(09年2月現在)であり、高齢化と身体の不自由が年々すすんでいます。2001年の「隔離は違憲」とした熊本地裁判決、ハンセン病問題対策協議会での「基本合意」「確認事項」にもとづいた運動がおこなわれ、08年6月には、療養所の具体的な維持対策を求めた「ハンセン病問題基本法」が成立し、09年4月から施行されています。さらに09年7月、「国立ハンセン病療養所における療養体制の充実に関する決議」が衆議院において全会一致で可決されました。

 「基本法」「決議」にふさわしい入所者の処遇改善や職員体制の充実を一刻も早く実施し、生活環境が地域から孤立することなく、安心して豊かな生活を営むことができるよう必要な措置を講じることを、国に求めます。入所者の医療・生活保障を拡充し、不足している医師、看護師、介護職員の確保・増員をはかることも必要です。重症化している入所者の夜間介護体制の充実をすすめます。退所者が安心してかかることのできる医療制度を確立します。賃金職員の差別的処遇の抜本的な改善をはかります。

 療養所ごとに「将来構想」づくりがすすめられています。国は、自治体とともに入所者の願いを反映する療養所を実現するため、積極的で万全の支援と保障につとめるべきです。

7、中国からの帰国者などに社会的支援を確実におこないます

 さきの戦争で犠牲になった中国「残留孤児」「残留婦人」たちが国の謝罪と生活支援を求め、全国で訴訟に立ち上がった結果、改正「中国残留邦人支援法」による支援給付金の支給など、新たな支援策が08年4月から始まりました。しかし、国は、終戦間際に多くの国民を中国東北部に置き去りにし、その後も長期にわたって支援を怠ってきたことへの真摯な反省と謝罪をしていません。そのために、支援給付金の水準は、「安心した老後をおくりたい」という願いに応えるものとはなっていません。また、▽支援給付金が生活保護制度に準ずる制度になっているため医療などが十分に受けられない、▽法施行前に60歳未満で亡くなっている「孤児」の配偶者には支援給付金が支給されない、▽支援対象が一世のみで二・三世が抱える社会的問題が法の対象外になっているなど、現行の支援給付金には、さまざまな問題点があります。配偶者や二・三世も含め、国が「孤児」たちに約束した「日本に帰ってきてよかったといえる支援策づくり」を、人間としての尊厳にふさわしく、確実におこなうことを強く求めます。

 日本の敗戦によって強制労働に従事したシベリア・モンゴル元抑留者の賃金は、いまだに未払いのままになっています。元抑留者の平均年齢は85歳に達し、一刻も早い解決が求められます。日本政府は07年4月から始まった10万円相当の旅行券などの引換券を「慰労品」として支給する事業で幕を引こうとしていますが、とんでもありません。抑留期間に応じた特別給付金の支給をただちにおこないます。政府の責務を消滅させず、真相究明を行い、実態調査や資料保存、追悼の実施、遺骨収集の拡大など、人権回復と歴史の検証・継承の願いにこたえるよう全力をあげます。

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