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17.大学改革・科学・技術

国民の立場から大学改革を実現し、科学・技術の調和のとれた振興をはかります

「構造改革」から転換し、国民の立場からの大学改革を実現します

 わが国の大学は、かつてない深刻な危機に追い込まれています。各大学で教育・研究のための財政が枯渇し、地方の大学や中小の大学は存立さえ危ぶまれています。教員は資金集めに忙殺され、発表される学術論文数も減少しています。経済的理由で進学をあきらめる若者がふえ、研究者を志す若者が将来への希望を失う重大な事態です。

大学予算が先進国のなかで最低水準にとどまり、さらにこの10年来、旧政権が「国際競争力ある大学」を看板に、経済効率最優先の「大学の構造改革」を推進したからです。民主党中心の政権も、「事業仕分け」で、科学予算・大学予算を短期的な効率主義で縮減するなど、「構造改革」路線から転換する姿勢がみられません。

大学は、「学術の中心」(学校教育法)であり、わが国の知的基盤として社会の知的・文化的な発展、国民生活の質の向上や地域経済などに大きな役割をはたしています。とりわけ、大学が担っている基礎研究は、自然や社会へのより深い理解をもたらし、学術の全体が発展する根幹となっています。

欧州では、大学の多くが国公立で国が手厚い財政負担をしています。大学進学率も上昇し、大学が国民に開かれた教育機関として充実しています。わが国は大学への財政負担が少なく、高学費のために大学進学率は5割余にとどまっています。しかし、NHKの「日本人の意識調査」によれば、国民の8割がわが子に大学・短大までの教育をうけさせたいと望んでいます。大学教育の充実は、国民の願いです。

「構造改革」路線は、こうした国民の立場から大学の発展を応援するのではなく、大企業の「国際競争力」に役立つ大学をつくりあげるという、財界の要求にかなった改革を推進しました。経済的利益をうむかどうかをモノサシに、予算の削減と過度な競争を大学におしつけ、学術の発展そのものが危ぶまれる大学の深刻な危機をうみだしたのです。

大学が、この危機から抜けだし、その本来の役割を全面的に発揮することは、21世紀の社会発展にかかわる国民的な課題です。そのためには、「構造改革」路線から転換し、国民の立場から「学問の府」にふさわしい改革をすすめることが必要です。日本共産党は、その実現のために力をつくします。

1.大学の日常的運営に必要な経費(基盤的経費)の増額をはかり、じっくりと教育・研究できる大学へ条件整備をはかります

国立大学の教育・研究をささえる基盤的経費を十分に確保する……国立大学の運営に必要な経費をささえる運営費交付金は、2004年の法人化以降に削減された750億円をただちに回復し、増額をはかります。「効率化」を口実に交付額を減らす「算定のしくみ」を廃止し、各大学の教育・研究費や人件費などの標準額をもとに積算し予算額を十分に確保するしくみに変更します。地方大学や文科系、教員養成系大学など財政力の弱い大学に厚く配分するなど大学間格差を是正する調整機能をもったしくみにします。

「5年間で5%以上の人件費削減」の義務づけを廃止します。国立大学法人の施設整備補助金を大幅に増やし、老朽施設を改修します。また、国立大学の地域貢献をきめ細かく支援するとともに、国による一方的な再編・統合に反対します。政府が検討している図書館など大学の重要業務への市場化テストの導入をやめさせます。

私立大学への「公費負担」原則を確立し、「経常費の2分の1助成」を実現する……私立大学がはたす公共的役割にふさわしく国の支援を強め、国立との格差を是正するため、私立大学にも国公立と同様に公費を支出する「公費負担」の原則を確立すべきです。1975年の国会決議が求めた「私立大学の経常費の2分の1を国庫補助」をすみやかに実現します。また、公費負担によって学費を国公立並みに引き下げます。

国庫助成は、国の裁量で配分を決める「特別助成」よりも、教職員数などにもとづいて配分する「一般助成」を増額し、その割合を高めます。中小私大、地方私大には増額配分すべきです。「定員割れ」の大学に国庫助成を減額・不交付する措置は直ちに廃止します。定員確保の努力を支援する助成事業を私学の自主性を尊重しつつ抜本的に拡充するなど、私立大学の二極化の是正をめざします。「経営困難」法人への指導と称して私立大学の運営に国が不当に介入することに反対します。

公立大学への国の財政支援を強める……公立大学は、学術の進歩に貢献し、住民要求にこたえた高等教育を行い、地域の文化、経済の発展に寄与しています。地方交付税の大学経費を引き上げ、公立大学に対する国庫補助制度を確立するなど、国の財政支援を強めます。

少人数授業をふやし、教養教育を充実する……学生の人間形成や学問の基礎をつちかう教養教育の充実や、わかりやすく学びがいある授業づくりへの改善努力を励ます支援策を抜本的に強めます。少人数教育の本格的な導入や勉学条件の充実のために、教員の増員をはかり、非常勤講師の劣悪な待遇を改善します。

任期制教員の無限定な導入や成果主義賃金に反対する……任期制教員の無限定な導入や成果主義賃金は、じっくりと教育研究にうちこむことを妨げ、学問の発展を損なうため、導入に反対し、国による誘導策をやめさせます。大学における教育・研究の公共的役割にふさわしく、教員の安定した身分を保障します。

大学職員を増員し、教育・研究・診療への支援体制を充実させる……大学は、教員だけでなく、技術、事務、医療などの職員によって支えられています。大学の基盤的経費を増額して職員を増員するとともに、雇用は正規が基本となるよう促します。

留学生に魅力ある環境を整備する……留学生が安心して勉学できるよう、低廉な宿舎の確保、奨学金の拡充、日本語教育の充実、就職支援などの体制を国の責任で整備します。

国立大学附属病院の基盤整備をはかり、資金貸付事業の廃止を許さない……国立大学附属病院は、医師の養成と先端医療の開発を担い、地域の高度医療のとりでとなっています。病院への交付金を法人化前の水準に直ちに戻すとともに、法人化の際に背負った病院債務を軽減します。施設整備に必要な資金は、国が責任をもって確保する体制を維持します。

2.大学の「生命」といえる“自治と民主主義”を保障するルールを確立し、国立大学法人制度を抜本的にみなおします

「大学の自治」を尊重するルールを確立する……世界で形成されてきた「大学改革の原則」は、「支援すれども統制せず(サポート・バット・ノットコントロール)」であり、「大学の自治」を尊重して大学への財政支援を行うことです。わが国でも、国公私立の違いを問わず、大学に資金を提供する側と、教育・研究をになう大学との関係を律する基本的なルールとして、この原則を確立すべきです。

国立大学法人制度を抜本的に見直す……国立大学が法人化されて最初の中期目標期間(6年間)が終わり、第2期目を迎えた節目にあたって、法人化がもたらした現状と問題点を検証し、大学関係者の意見を尊重して、法改正を含む制度の抜本的見直しを行います。

大学がどのような目標・計画をたてるかは、国が決定するのではなく、大学の自主性にゆだね、国に対しては届出制とします。国が大学の業績を評価してランクづけし予算を削減する制度を廃止し、大学評価は、すでに第三者機関が「大学の質保証」のために行っている「認証評価」に限定します。法人制度のなかで、「大学の重要事項を審議する」などの教授会の権限や、学長選考における教職員の選挙を尊重する制度を明確にします。

私立大学の公共性をさらに高める……私立大学の設置審査を厳正な基準で行うようにし、私学のもつ公共性をさらに高めます。安易な廃校によるリストラを防止するため、私学の「募集停止」も報告事項にせず審査の対象にします。

私立学校法で、教授会の権限や、学長選考における教職員の選挙を尊重する制度を明確にするとともに、財政公開を促進し、監事を評議員会が選任するなど財政のチェック機能を強めます。まともな教育条件を保障できない株式会社立大学の制度は廃止し、私立大学(学校法人)として再出発できる環境を整備します。

3.大学でお金の心配なく学びたい、将来に希望をもって研究したい。この願いを実現します

高等教育の段階的な無償化にふみだす……国際人権規約が定めた高校・大学の段階的無償化条項の留保を撤回し、学費負担軽減の一歩を踏み出します。国公立大学の授業料標準額を段階的に引き下げ、私立大学には国立との差額を補てんするための国庫助成や私立大学生への直接助成をおこないます。

授業料減免の拡充、給付制奨学金の創設と貸与制の返済条件緩和をはかる……年収400万円以下の世帯に入学料と授業料を国公私立の区別なく免除する制度をつくります。奨学金は有利子制度をすべて無利子に戻し、返済は年収が一定額(300万円)に達してから行う制度にします。給付制奨学金をただちに創設します。滞納者への制裁をつよめる「ブラックリスト化」を中止します。

大学・研究機関の人件費削減の義務付けを撤廃し、若手研究者の採用をひろげる……大学教員にしめる35歳以下の割合は13%に低下し、将来の学術の担い手が不足しています。国立大学法人が3年間に減らした人件費だけで、若手教員1万5千人の給与に相当します。国が国立大学や独法研究機関に義務づけた人件費削減を撤廃するとともに、国から国立大学や独法研究機関への運営費交付金、私立大学への国庫助成を大幅に増額し、若手教員・研究者の採用を大きくひろげます。

博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげる……公務員の大学院卒採用枠を新設し、学校の教師や科学に関わる行政職、司書や学芸員などに博士を積極的に採用します。博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求めるなど、社会的責任をはたさせます。

若手研究者の待遇改善をはかる……ポスドク、大学院生、専業非常勤講師など若手研究者の劣悪な待遇を改善します。

ポスドクなどの研究者がいだく不安は、雇用の不安定です。大学や独法研究機関が、期限付きで研究者を雇用する場合に、テニュアトラック制(期限終了時の審査をへて正規職に就ける制度)をさらに発展させ、期限終了後の雇用先の確保を予め義務づける制度を確立します。ポスドクの賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大をはかります。

 研究費支援では、若手研究者に一定額の研究費を国が支給する特別研究員制度を大幅に拡充します。とくに、博士課程院生には6.4%しか適用されていない現状を改善し、院生には20%まで採用を増やします。また、大学院生に給費制奨学金を創設します。

 大学非常勤講師で主な生計を立てている「専業非常勤講師」の処遇を抜本的に改善するため、専任教員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづく賃金の引き上げ、社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかります。また、一方的な雇い止めを禁止するなど安定した雇用を保障させます。

4.大学への公費支出を欧米並みにひきあげます

 わが国の大学がかかえる最大の問題は、大学関係予算がGDP(国内総生産)比で欧米諸国の半分の水準にすぎず、そのことが主な原因となって、教育研究条件が劣悪で、学生の負担が世界に例をみないほど重いことです。学術、教育の発展は「国家百年の計」であり、将来をみすえた大学への投資こそ、次代を担う若者を育み、21世紀の社会発展に貢献します。教育研究条件の整備をはかることは国の責任であり、欧米並みの大学予算を確保するために全力をつくします。

<経済効率最優先の科学技術政策から、学術発展へ調和のとれた振興策に切り替えます>

 科学、技術は、その多面的な発展をうながす見地から、研究の自由を保障し、長期的視野からのつりあいのとれた振興をはかってこそ、社会の進歩に貢献できます。とりわけ、基礎研究は、ただちに経済的価値を生まなくとも、科学、技術の全体が発展する根幹であり、国の十分な支援が必要です。基礎研究が枯れてしまえば、政府がいうイノベーション(新しい社会的価値や技術の創造)も望むことができません。

わが国の研究開発費(民間を含む)にしめる基礎研究の割合は12.7%と、欧米諸国に比べてもかなり低く、しかも低下傾向をつづけています。また、業績至上主義による競争を研究現場に押し付けたことから、ただちに成果のあがる研究や外部資金をとれる研究が偏重されるようになり、基礎研究の基盤が崩れるなど、少なくない分野で学問の継承さえ危ぶまれる事態がうまれています。

 日本共産党は、こうした経済効率優先の科学技術政策を転換し、科学、技術の多面的な発展をうながすための振興策と、研究者が自由な発想でじっくりと研究にとりくめる環境づくりのために力をつくします。

1.基礎研究を重視し、科学、技術の調和のとれた発展と国民本位の利用をはかります

科学・技術の総合的な振興計画を確立する……国の科学技術関係予算の配分を全面的に見直し、人文・社会科学の役割を重視するとともに、基礎研究への支援を抜本的に強めます。また、防衛省の軍事研究費、「もんじゅ」など高速増殖炉の開発費、大企業への技術開発補助金など、不要・不急の予算を削減します。

 研究者が自由に使える研究費(大学・研究機関が研究者に支給する経常的な研究費)を十分に保障するとともに、任期制の導入を抑え、安定した雇用を保障する制度を確立するなど、研究者の地位を向上させ、権利を保障します。欧米に比べても少ない研究支援者を増員するとともに、劣悪な待遇を改善します。国立大学法人・独法研究機関への人件費削減の義務づけをやめさせます。

 科学技術基本計画を政府がトップダウンで策定するやり方をあらため、日本学術会議をはじめひろく学術団体の意見を尊重して、科学、技術の調和のとれた発展をはかる総合的な振興計画を確立します。

科学・技術の利用は平和と「公開、自主、民主」の原則で……科学、技術の研究、開発、利用への国の支援は、「公開、自主、民主」の原則にたっておこなうとともに、大企業優遇ではなく、平和と福祉、安全、環境保全、地域振興など、ひろく国民の利益のためになされるべきです。

 憲法の平和原則に反する科学、技術の軍事利用、とりわけ、宇宙基本法の具体化による宇宙の軍事利用をやめさせます。政府が検討している軍事に転用できる技術の公開制限や秘密特許の導入に反対します。

2.公正で民主的な研究費配分を行い、研究における不正行為の根絶をはかります

科学研究費補助金を大幅に増額し、配分の偏りを是正する……国が大学や研究者などに交付する競争的資金は、この10年間で倍増しましたが、大幅に増えたのは新技術に直結する研究への支援や、一部の大学への巨額の資金投入(グローバルCOE資金)などです。それらの総額は3000億円に達するのに対し、基礎研究を支援する科学研究費補助金は2000億円にとどまっています。科学研究費補助金を大幅に増額し、採択率を抜本的に引きあげます。

また、研究費の配分がより公正で民主的になるように、審査のあり方を改革します。(1) 人文・社会科学を冷遇したり、旧帝大系など一部の大学に集中するような資金配分の偏りを是正し、研究のすそ野を思いきってひろげます。(2)業績至上主義の審査ではなく、研究計画も十分考慮した審査に改めます。(3)科学者で常勤の審査員を大幅に増員し、将来性ある研究、萌芽的な研究を見極める「目利き」のある審査、公正な審査を充実させます。

大型の資金などを配分するための独立した機関を確立する……先端的研究などへの大型の研究資金や、一部の大学や大学院に多額の資金を投入するCOE(センター・オブ・エクセレンス、卓越した拠点)予算やGP(グッド・プラクティス、優れた取り組み)予算のあり方を見直します。大学関係者、学術関係者などからなる独立した配分機関を確立し、審査内容の公開をはかるとともに、慎重で公正な評価にもとづいて配分するようにします。

過度の競争を是正し、研究における不正行為を根絶する……研究における不正行為は、科学への社会の信頼を裏切る行為であり、根絶をはかります。そのため、不正の温床となっている業績至上主義による過度の競争を是正するとともに、科学者としての倫理規範を確立します。大学における外部資金の管理を厳格におこなうとともに、研究機関や学術団体が不正防止への自律的機能を強めるよう支援します。

3.産学連携の健全な発展をうながします

 産業と学術が連携し、協力しあうことは、互いの発展にとって有益なことです。同時に、大企業の利潤追求に大学が追随するような連携では、大学本来の役割が弱められ、研究成果の秘匿や企業との癒着がうまれるなど、学術の発展に支障をきたす弊害をひろげます。

 産学連携の健全な発展のために、国からの一方的な産学連携のおしつけでなく、大学の自主性を尊重し、基礎研究や教育など大学の本来の役割が犠牲にされないようにします。また、産学連携を推進する国の事業(共同研究への補助など)は、地域や地場産業の振興にも力を入れ、中小企業の技術力向上への支援を拡充します。

 大学と企業との健全な関係をむすぶため、以下の点で国のきちんとしたガイドラインを作成します。(1)企業との共同研究の際、学会などでの研究成果の公開が原則として保障され、だれでもひろく使えるようにする。(2)共同研究や委託研究での相当額の間接経費や、共有特許での大学の「不実施補償」を、企業側が負うようにする。(3)企業から受け入れた資金は、大学の責任で管理、配分することを原則とし、研究者と企業との金銭上の癒着をつくらない。

4.女性研究者の地位向上、研究条件の改善をはかります

 研究者のなかで女性の比率は13.0%、大学教員では24.3%(国立大学は13.4%)と世界的にみても低く、他方で大学の専業非常勤講師のような不安定雇用では5割以上をしめるなど、女性研究者の地位向上、男女共同参画のいっそうの推進が期待されています。大学・研究機関が男女共同参画推進委員会などを設置し、教員、研究員、職員の採用、昇進にあたって女性の比率を高めるとりくみを、目標の設定、達成度の公開をふくめていっそう強めるように奨励します。民間企業の研究者における女性の比率は6.6%でとくに低く、企業に対しても男女共同参画の推進を働きかけます。

 出産・育児・介護にあたる研究者にたいする業績評価での配慮、育児休業による不利益あつかいの禁止、休職・復帰支援策の拡充、大学・研究機関内保育施設の充実など、研究者としての能力を十分に発揮できる環境整備を促進します。文科省が実施している「女性研究者支援モデル育成」の採択枠を大幅に拡大し、保育所の設置・運営も経費負担に含めるなど利用条件を改善します。非常勤講師やポスドクについても出産・育児にみあって採用期間を延長し、大学院生にも出産・育児のための休学保障と奨学金制度をつくるなど、子育て支援策を強めます。

 セクシャルハラスメントやアカデミックハラスメントなどの人権侵害をなくすため、大学・研究機関の相談・調査体制の充実をはかります。


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