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人びとに生きる力を与える芸術・文化は、社会の進歩に不可欠です。文化を自由に創造し享受することは国民の権利であり、その条件をととのえることは国の責務です。しかし、経済危機で国民が文化に親しむ機会が奪われ、芸術団体の運営は厳しくなっています。
文化の発展において重要な役割を果たしているのが芸術家であり、芸術・文化団体の活動は、芸術を生み出し、観客を組織し、芸術家を育てる原動力となっています。その活動を支える公的助成を抜本的に拡充し、改善させることは芸術・文化の発展のために必要です。
文化庁予算は年間1020億円(2010年度)にすぎず、諸外国と比べても著しく低い水準です。とりわけ芸術・文化活動への支援は400億円に達していません。軍事費やゆきすぎた大企業減税をやめれば、文化予算を増やす財源はあり、抜本的に拡充すべきです。
民主党政権は「事業仕分け」で、短期的な効率や成果を求め、芸術・文化の「予算縮減」という判定を下しました。これには多くの文化人、国民が反対の声をあげましたが、文部科学省はこうした声に背を向け、現在の芸術助成の中心である重点支援事業を「3年で1/2に縮減する」計画を打ち出し、今年度予算から削減を始めています。もともと自公政権時代に、文化庁の芸術団体への助成である重点支援事業は、「構造改革」路線で削減されてきました。このまま削減され続ければ、2012年度には最高時の3分の1になってしまいます。日本共産党は、文化への短期的な効率主義、成果主義のもちこみを許さず、助成削減計画を撤回させ、抜本的に拡充します。
現在の助成方式は、芸術団体の無理な自己負担を前提にしており、いくら努力しても「赤字」になる仕組みになっています。これでは、芸術団体の運営基盤が安定せず、専門家の生活と地位の向上に生かされません。こうした方式を切りかえ、芸術団体への持続的な支援方式へ転換します。芸術団体の「自己負担」枠を撤廃し、公演や普及の方法が違う芸術各分野の特性を考慮した助成制度をめざします。また、芸術団体の自主的な年間活動全体を考慮した助成制度として充実させ、芸術団体への助成率を引き上げます。同時に、けいこ場や公演・展示会場費への補助をはじめ、幅広い団体が気軽に活用できる助成制度を確立します。芸術文化振興会への応募を年2回にするなど、利用の改善をはかります。条件付きで可能になった助成金の一部「前払い」制度の条件を緩和し本格的に実施することや、助成金のすみやかな支払いを実現します。寄付税制の充実など、税制支援をすすめます。
諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国がもちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体の意見がそこに十分に反映されていません。公的助成の政策形成に専門家が参画するようにするとともに、すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善し、専門家による採択結果を政府が尊重するようにさせるなど、日本での「アーツカウンシル」(専門助成機関)創設をめざします。
日本の芸術・文化の発展のうえで各ジャンルの専門家の役割はきわめて重要です。その人材養成の大きな障害になっているのが専門家のおかれた劣悪な状態です。実演家の収入は5年前よりも悪化し、年収300万円未満が5割以上となっています。芸術・文化を志しても生業として続けていくことが困難な現状を打開することが人材養成のうえで大事になっています。
多くの芸術家は、一般の勤労者に比べても低収入で、社会保障がほとんどありません。そのため、ユネスコの「芸術家の地位向上勧告」(1980年)やILOの「実演家の雇用労働条件に関する三者構成会議」(1992年)は、芸術家の地位向上をはかることを求め、「社会の規範に則した適切な生活水準に到達できる」ような収入の向上や、社会保障制度の規定が結果として実演家を不利に扱っていないかを検討し、実演家の実情に適合させることを求めています。諸外国ではそうした勧告をふまえ独自の努力がはかられてきました。
ところが、日本ではまともに専門家の地位向上がはかられず、とくに実演家・スタッフについては、何らの手立てもとられてきませんでした。仕事のうえでの怪我であっても労災認定は5.3%にすぎません。専門家の地位向上を理念として掲げるだけでなく、一般勤労者並みに改善することを目標に施策を実施します。
実演家の低収入を改善するために、芸術活動の場や雇用の機会を増やします。この点でも公的助成の拡充が重要です。映像スタッフやアニメーターが仕事をしている制作会社の多くは中小企業です。これらの企業はテレビ局などから仕事を受託するさい、低い制作費を押し付けられたり、途中で削られたりしています。発注元と下請けの制作会社との公正な取引を保障するルールをつくり、映像スタッフやアニメーターが安心して働ける制作費を確保させるようにします。
多くの実演家・スタッフは、労働者と同じように一定期間拘束されて働いています。諸外国では労災など労働者と同様の保護が受けられるよう制度を改善してきました。しかし、日本では実演家の労働者性を認めてこなかったため、多くの実演家が社会保険は何もないのが実態です。こうした状態を改善するため、労働者性の認定を積極的にすすめます。映像スタッフの雇用保険を実現し、実演家の団体交渉権など労働者の基本権を保障します。芸術団体の努力で社会保険を実施しているところでも、芸術団体やアートNPOなどは経営基盤が弱く、社会保険の負担が困難になっているため、社会保険料を猶予・軽減する制度をつくり、経営と職員の社会保障を守るようにします。
演劇・舞踊や映画の国立大学を設立することや海外研修支援の拡充など、人材養成における国の責務をはたさせます。
劇場・音楽堂などは、創造と鑑賞の両面から、芸術の発展になくてはならない場所です。ところが、自公政権時代に指定管理者制度が導入され、多くの文化施設で予算が削減されてきました。民主党政権は、さらに「事業仕分け」で「拠点形成事業」を「2年で廃止」と決めてしまいました。国立美術館・博物館にも、国からの運営費交付金がへっている現状をそのままに「国からの負担を増やさない」といって、自己収入の増大ばかりを求めています。ここでも予算の「縮減」から拡充へ転換させるようにします。
国立美術館・博物館、国立劇場・新国立劇場については、国の施設にふさわしく予算の充実をはかります。国民の身近な文化施設である文化ホールや図書館、美術館・博物館の民営化、民間委託の押しつけをやめさせ、公的支援を充実します。
文化施設が本当に芸術・文化活動の拠点として活性化するためには、行政職員だけに任せる現状を改め、専門家が活躍できるようにすることが不可欠です。文化施設の運営への芸術家と市民の参画を促し、舞台技術者や司書、学芸員など専門家の身分を保障し、専門家として力量を発揮できるよう支援します。また、民間の劇場・音楽堂や映画館は、現状では商業施設として扱われ、何らの支援もありません。年間100日以上事業を行っている会館を劇場とみなして固定資産税の軽減を図るなど、積極的な支援を行います。
まだまだ足りない大小さまざまな表現空間や展示場所、けいこ場といった芸術家・文化団体の活動の条件を整備します。映画の国立フィルムセンターの人員を拡充し、国立美術館の付属施設から、国が責任をもつ独立した組織へと発展させます。アニメ、マンガ、写真、音楽、美術など、文化各ジャンルの貴重な遺産の収集・保存を支援します。
大型開発による文化財破壊を許さず、文化財と歴史的町並み・文化的景観の保存をすすめます。「陵墓」に指定されている古墳の学術目的での調査をひろげます。
心豊かな成長のためにも、子どもたちが芸術・文化に参加できる条件を整えることが重要になっています。学校での芸術鑑賞教室は、すべての子どもに芸術鑑賞の機会を保障する大切なとりくみです。ところが、実際には、芸術鑑賞教室が激減しています。日本共産党は、すべての子どもが年1回以上、芸術鑑賞ができるよう条件整備をすすめます。
国としてすべての芸術鑑賞教室を視野に入れた支援制度を確立し、学校と芸術団体の自主的な努力を応援します。文化庁の現行事業を、へき地や小規模校など開催が困難な地域を重点にする方向で改善をはかります。文化団体が全国の草の根ですすめているとりくみを、交通費・宿泊費や会場費の援助などで応援する制度を確立します。
芸術・文化は、「表現の自由」が守られてこそ発展します。芸術活動への公的助成にあたっては、「金は出しても口は出さない」原則を確立し、政府の介入を許さないようにします。子どもの人権を守るために国民合意で児童ポルノの根絶をめざすとともに、児童ポルノ対策を口実にしたマンガ・アニメなどへの行政の介入を許さないようにします。
著作権は、表現の自由を守りながら権利者を守る制度として文化の発展に役立ってきました。デジタル化・ネットワーク化にともない芸術・文化の新たな利用形態が発展することは、国民の創造・享受の条件が広がる点から歓迎すべきことです。同時に、そのなかで作家・実演家の権利が適切に守られなくてはなりません。国民の利用を保障しながら、作家・実演家の権利をまもるよう著作権の発展をはかります。
一部の大企業は、私的録音録画補償金制度への協力義務を非難するだけでなく、実際に放棄してしまいました。こうした横暴を許さず、著作物を利用することで利益を得るメーカーに応分の負担を求め、作家・実演家の利益をまもります。映画のすべての権利が企業に移転してしまう現状をあらため、映画監督・スタッフ・実演家の権利確立をめざします。