フランチャイズ取引適正化法に関する政策提言(全文)

コンビニ・フランチャイズ業界の健全な発展のために、加盟店の地位・権利の確立を

――日本共産党フランチャイズ問題プロジェクトチームの提案

2000年11月28日


はじめに

 「二十四時間年中無休のため、病気でも、家が火事でも、親が死んでも仕事を休めない」「事前の説明と違い、いくら働いても儲けが出ない」「赤字続きなのでやめたいが、多額の借金と解約違約金をとられるので、やめたくてもやめられない」、あげくのはてに健康破壊、家庭崩壊、過労死、自殺・・・。コンビニエンスストアをはじめフランチャイズ業界で、いま、本部と加盟店の間の紛争・裁判が続発しています。

 フランチャイズ取引・契約は、独立した自営業者であるチェーン加盟店が、チェーン本部の看板使用や経営指導を受けるなどのかわりに、その対価を本部に支払うシステムです。本部による拘束性がきわめて強い取引であるため、本部の姿勢によっては、不利益を受ける加盟店が生まれることにもなります。

 日本共産党は、加盟店の地位・権利が確立され、その経営がまもられてこそ、フランチャイズ業界の健全な発展が保障されると考えます。そのために、紛争トラブルの主な原因となっている本部の不当な勧誘や、不公正・不公平な取引を規制し、加盟店の事業者としての営業と権利を守るルールの確立をめざします。

フランチャイズ業界の光と影

 まちを歩けば、あちらこちらでコンビニエンスストア(コンビニ)をはじめハンバーガーやコーヒー、居酒屋などのチェーン店を見かけます。フランチャイズ・チェーン・システムは小売業、飲食業、サービス業のあらゆる業種で導入され、その数は五十業種にものぼるといわれています。日本フランチャイズチェーン協会の調べによると、一九七五年に百八十六であったチェーン数は、一九九九年には九百二十三チェーンにまで増加し、フランチャイズ店舗数は十九万店(九八年)に拡大しました。売上高も、一九七五年の約一兆円から十六兆円(九九年)へと急成長しています。とりわけ、小売業では、全体の商店数が、ピーク時(八二年)の百七十二万店から百四十一万店(九九年)に減少してきたなかにあってもフランチャイズ店舗数は増加し、いまでは十店に一店の割合に達しています。なかでも、五万余店、売上高八兆円弱にのぼるコンビニは、品物を売るだけでなく、公共料金支払や住民票交付など自治体サービスの窓口をはじめ、ATM設置や銀行機能、電子商取引のサービスまで手がけています。政府も、このシステムを新規創業の一形態として普及を促進しています。

 しかし、加盟店の経営の現状はどうでしょうか。本部は、空前の利益をあげる一方で、加盟店は、売上が落ち込むという事態が顕著になっています。例えば、コンビニ業界全体の年商はバブル崩壊後も十二%も伸びているのに比べ、一店あたりの年商は逆に十三%も減っています(九一年〜九九年)。その結果、加盟店は、脱サラし、退職金や預金を注ぎ込んで契約したが、一年三百六十五日、早朝から深夜まで店に出て働いても利益がほとんどでない。アルバイトもそうそう雇えず、家族が交替で店に出ないといけないため生活はすれ違い、出店時の借金と高額の中途解約金のためにやめることもできない。”続けるも地獄、やめるも地獄” まさに「現在の奴隷契約」ともいわれるほど過酷な実態が全国各地で顕在化し、大きな社会問題となっています。

フランチャイズ取引・契約の問題点

 なぜ、このような事態がひき起こされるのでしょうか。

 第一には、フランチャイズ契約を結ぶ際に、本部が「絶対に儲かる」「経営をサポートするので素人でも安心」などと売上を過大に予測したり、リスクをわざと説明しない誇大セールストークによる詐欺的な勧誘が行われるなど本部の情報開示と加盟者への説明が不充分なことです。

 第二は、本部と加盟店は「共存共栄」が建て前のはずなのに、本部は、通産大臣でさえ「大変高い比率」というほどの「ロイヤリティー」(上納金)を加盟店から徴収し、加盟店の経営がどんなに苦しくても“本部は必ず儲かる”という不公平な仕組みがまかり通っていることです。加えて、本部から、「二十四時間・年中無休」を強要されたり、商品仕入れの不当な制限などが強いられるなど、不公正な取引が行なわれています。

 第三に、本部が同じチェーン加盟店の営業状態をかえりみないで、利潤追求のための多店舗展開を繰り広げていることです。本部は、儲からない加盟店を閉店させ、一方で、次から次に店舗を増やすため、出店三店に二店が閉店という事態さえ生れています。一九九九年度の新規出店数三千四百五十一店に対し、二千二百十三店が閉店しているという実態は、いかにコンビニ加盟店が過酷な状況におかれているかを物語っています。

 第四に、本部のフランチャイズ・イメージ統一を理由に、加盟店に秘密保持を義務づけ、加盟店同士の交流を制限したり、本部との交渉権を認めないなど前近代的な取引がまかり通っていることです。フランチャイズ・システムは、本部と加盟店がそれぞれの機能を分担しつつ一体となってその発展に努めていくべきものですが、本部の事業運営に対して、加盟店には、十分な意見を提示する機会がないことも問題です。

ルールなき日本、加盟店保護が当たり前の欧米

 こうした問題点は、すでに一九八二年、通産省・中小企業庁が設けた「フランチャイズシステム経営近代化推進経営協議会」の「とりまとめ」ですでに指摘していたことです。にもかかわらず、一向に改善されずに、本部の加盟店いじめを野放しにしてきた政府の責任は重大です。

 政府は、七〇年代にマニュアルまで作り、フランチャイズ・システムを奨励してきました。紛争トラブルに関しては、中小小売商業振興法にフランチャイズ取引等の情報開示規定を設けたり、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(「FCガイドライン」)をつくり、対処しようとしてきました。しかし、中小小売商業振興法は、本部に対して販売条件や経営指導、契約期間の解除、加盟金などについて書面交付と説明を定めているものの、@閉店数や紛争トラブルの有無など本部の不利な情報を開示する義務がないこと、A法律の適用範囲が、小売業だけで、サービス・飲食業などのフランチャイズ取引には適用されないこと、B違反者に対する厳しい罰則がないこと、など極めて不充分なものです。そのため、加盟希望者に、フランチャイズ契約書が、事前に渡されず、本部の勧誘員の甘言だけで契約させられるなどの事例が広く見受けられます。また、「FCガイドライン」は、公正取引委員会の法運用に関する「考え」を表明しただけで、適用事例はまったく無く、いまでも公正取引委員会は、積極的に取り締まろうとしていません。結局、いずれも加盟店の権利・利益を保障するものにはなっていません。

 およそ百年の歴史を持つフランチャイズ発祥の地、米国では、詐欺的勧誘や不公正取引を直視し、本部の不当な行為を厳しく規制してきました。一九七九年に制定されたフランチャイズに関する連邦開示規則では、閉店・退店数や訴訟事件数など本部に不利益となるマイナス情報も含めた二十項目を書面で開示することを義務づけ、それと矛盾する説明をしたり、一定の期間内に契約書の写しを供与しなかったりすれば、罰金とともに加盟者側に損害賠償請求を認めています。また、本部が加盟者を募集する場合、売上予測の詳しい根拠まで示さなければ、「儲かります」などと安易な予測を案内することは禁じられています。さらに、いくつかの州法では、フランチャイズ事業そのものを登録制(届出制、もともとは許可制)にしているところもあります。ドイツやフランスでも、加盟者の権利・利益を保護するルールが定められています。

※ フランチャイズ・システムについて、中小企業庁は、「本部が、加盟店との間の契約で、自己の商標等を使用させて同一性のイメージのもとに事業を行なう権利を与えるとともに、経営に関する指導を行ない、場合によっては、継続的に加盟店に商品(サービス、原材料を含む)を供給し、これらの対価として加盟店から加入金、保証金、ロイヤリティ(本部への定期的な納入金)などを徴収するシステムである」(「フランチャイズ・システム・マニュアル」一九七三年)と定義しています。そして、本部は、比較的少ない投資と人手で短期間のうちに新市場を開拓でき、契約金やロイヤリティなど確実な収益が期待できる一方、加盟店は、本部で開発した事業(商標・商号等の使用や商品、経営ノウハウなど)を本部の指導のもとに受けられるなど「双方にメリットがある」と奨励してきました。
※ フランチャイズ・システムにおける本部と加盟店の関係は、本店・支店の様にみえても、互いに独立した事業者同士の取引関係です。ところが、一般の取引関係と異なり、互いが協議して契約内容を決めるのではなく、加盟店は、本部の前もって決めた契約内容に従い、一律の経営指導を受けるなど、本部による拘束性が極めて強い取引であるため、本部の身勝手な姿勢で、独立した事業者としての権利を侵害され、不利益を受けやすい取引でもあります。


「フランチャイズ取引の適正化をはかる法律(フランチャイズ取引適正化法)」の制定を提案します。

 日本共産党は、昨年十一月二十三日、「中小企業は『日本経済の主役』、それにふさわしい本格的な対策を」の政策提案の中で、コンビニ本部の横暴から中小商店を防衛するため「加盟店の本部に対する権利を保護する法律をつくります」と公約し、いち早くフランチャイズ取引適正化法の制定を表明しました。日本共産党フランチャイズ問題プロジェクトチームは、今回、本部が守るべき最低限のルールとして、以下の内容のフランチャイズ取引適正化法制定を提案します。こうしたルールが守られてこそ、フランチャイズ取引・契約における本部と加盟者の真の「共存共栄」を図ることができると確信するものです。

【1】本部と加盟者の契約締結に当たっては、情報開示を徹底させ、詐欺的な勧誘を厳しく規制します。

(一)本部の情報開示と加盟希望者への説明義務をはっきりと位置付け、違反者に対する罰則を強化します。

 フランチャイズ契約を結ぶ際には、本部の決めた契約内容を加盟店が無条件に承諾することが前提となっているうえに、難解であるために素人である加盟店希望者が独自の判断でその契約内容を納得するのは大変困難です。「本部の売上予測を信じたが、まったく話が違った」などのトラブルが絶えません。また、「本部は、加盟店舗数を増やすだけで、経営指導がされていない」などの不満が少なくありません。

 本部と加盟店(事業経験のない人が多い)の間には、情報力・交渉力において圧倒的な格差があり、不利な加盟店を保護するため、アメリカの連邦開示規則などを参考に、本部に対し、紛争・訴訟実績など本部の不利となるマイナス情報を含め加盟者が十分納得できる情報開示や事前説明を義務づけます。また、違反者に対する罰則を強化し、厳しく取り締まります。

(二)契約後でも一定期限内であれば無条件で解除できるクーリングオフ制度を導入します。

 フランチャイズ契約は、加盟希望者にとっては、多額の初期投資を必要とし、そのうえ、コンビニ・フランチャイズ契約のように十年〜二十年もの長期の契約期間を定めているものもあります。いわば人生をかけた投資といえます。そのため、十分な検討期間を保障するため、契約締結後、開店(あるいは工事着工)までの間、一定の熟慮期間を設定したり、開店後、一定期間内の離脱(無条件契約解除)の自由を認めるなど、いわゆるクーリングオフ制度を導入します。

(三)加盟店に対する不当に高額な解約違約金等を禁止します。

 フランチャイズ契約の中には解約を契約違反として高額の罰金を定めている場合があります。これが、足かせとなって、「業務不振でやめたいが、違約金が高くてやめられない」などの事態が生まれています。

 経営不振等を理由とする加盟店の正当な契約解除に対する解約ぺナルティは禁止するとともに、損害算定では、本部が実際に被むる損害に限定し、解約後の想定損害を認めないなど、不当に高額な解約罰金(違約金・損害賠償)を禁止します。

 また、加盟者の意思によらず、かつ正当な理由のない本部からの恣意的・一方的な解約権は認めないようにします。

【2】優越的地位にある本部が、加盟店に一方的な不利益を与える不公正取引を規制します。

(一)「二十四時間・年中無休」など営業日・営業時間を加盟店の意に反して、実質的に強制することは、人権にかかわる問題であり、禁止します。

 コンビニをはじめフランチャイズ事業のなかには、「二十四時間・年中無休」など営業時間を実質的に強制している事例が多数あります。一時でも休業すれば多額の違約金(百万円という本部もある)を請求され、店主は休みたくても休めない実態におかれています。ある店主は、開店後の五ヵ月の間に自宅で睡眠を取れたのは二日だけ、あとは店の倉庫に寝袋を持ち込んで寝泊りし、過労死しました。店主が死亡しても本部の指示で営業させられた例もあります。もはや店主と家族の人権にかかわる問題です。こうした、健康破壊や家庭崩壊、過労死にいたらしめるまでの長時間労働を強いる営業時間の実質的な強制は許されません。

 営業時間は、加盟店の独自の判断を保障し、契約する場合でも、本部の指示に従うことを強制したり、違約金を課すことを禁止するとともに、加盟店の意思による「二十四時間営業」の契約変更を認めるようにします。 

 また、コンビニ・フランチャイズ契約などで多く見られる「売上金の全額送金制度」は、本部の利益を最優先で確保するだけでなく、本来加盟者の利益となるべき預金利息を横取りするものです。さらに、加盟店が自由に使える売上金の活用を制限して加盟者の営業の自由を侵害するものです。こうした、加盟店の営業の自由を拘束する行為を規制します。

(二)高すぎるロイヤリティ(上納金)など、加盟店に利益が残らない利益配分の算定方法を公平なものにします。

 コンビニの場合、本部が受け取るロイヤリティ(上納金)は、売上から仕入れ原価を引いた粗利益に、高い掛率を掛けるため、本部は売上がある限り確実に儲かります。その一方で、加盟店側は、ロイヤリティを引いた額からさらに販売コスト(人件費、水道光熱費など)を引いた残りが取り分となり、売上げが少なければ、すぐ赤字になるなど、リスクを負わされる仕組みになっています。

 ロイヤリティをはじめとする本部の徴収金は、算定方式を売上高や粗利益に対する掛率方式ではなく、加盟店の正当な経費を差し引いたものにするなど、本部と加盟店の双方がメリットとリスクを分け合う方式に改め、「共存共栄」にふさわしいものにします。また、ロイヤリティなどを加盟者から徴収する場合は、その具体的根拠をあらかじめ契約時に、示さなければならないこととします。

 さらに、実際には売れていない廃棄ロス・棚卸ロスなどを売れたものとして利益等に計上し、ロイヤリティをかけるなどの不当な加盟店への費用負担をやめさせます。

(三)本部の統一イメージを維持する限度をこえて、加盟店の仕入先を制限したり、商品販売価格を拘束するなどの行為を規制します。

 フランチャイズシステムは、本部の統一イメージを維持する範囲内であれば、加盟店の取扱商品や販売方法などについてある程度の制限が認められています。しかし、その限度を超えて、加盟店を拘束し、営業を制限すれば、不公正取引にあたります。

 本部の指定した仕入先以外の仕入先から商品を購入する自由を制限したり、商品販売価格の自由な決定を拘束するなどの不公正取引を規制します。

(四)加盟店に不利益を与える本部の一方的な契約・取引条件の変更は認めません。 

 フランチャイズ契約の更新時などに、ロイヤリティ率の引き上げなどを、一方的に押しつける事例が見受けられます。加盟店が不利益を受ける一方的な契約の変更は、認めません。

【3】本部の身勝手な多店舗展開を規制します。

(一)周辺中小小売店への影響を配慮して、事前協議による合意形成など義務づけ、本部の身勝手な出店を規制します。

 本部の身勝手な出店により、周辺の商店街や中小小売店が大きな影響を受けます。また、二十四時間・深夜営業により、子どもたちの教育や騒音などの生活環境にも影響を及ぼします。コンビニなど出店に際しては、生活環境や中小小売店などへの影響を考え、事前の協議による合意形成に努めるよう本部に義務づけます。

(二)既存加盟店の近隣・商圏内への同系列店の出店を原則として禁止します。出店する場合には、事前説明及び代償措置についての協議を義務づけます。

 アメリカ・アイオワ州法では、本部が既存のチェーン加盟店の近隣に新規出店して、既存加盟店の売上に悪影響を与えた場合、被害を受けた既存加盟店は、本部に対して損害賠償請求権が認められています。また、連邦開示規則でも、契約時に、本部は、加盟店の商圏を保護するかどうかを明確にして、情報開示しなければなりません。

 本部が、既存加盟者の近隣・商圏内に出店することを原則として禁止します。また、やむをえない事情により既存店の商圏内に出店する場合には、事前説明及び代償措置についての協議を義務づけます。

【4】加盟者同士の自由な交流を認め、加盟店団体に本部との交渉権を保障します。

 フランチャイズ契約では、チェーンの統一的イメージを守るとの理由で、加盟店同士の交流さえも守秘義務違反として拘束する傾向があります。独立した事業者である加盟店の自由な交流や事業に関する交渉を極度に制限・拘束することは営業権・生活権の侵害です。いきすぎた守秘義務規定は規制します。

 加盟店が各種事業者団体に参加するのは自由であり、本部が、それを制限することや、それを理由にした報復を禁止します。また、フランチャイズチェーン協会をはじめ本部側に対し、加盟店協議会等の団体が対等の立場で協議・交渉できるようにします。

【5】フランチャイズ事業は、登録制とし、行政による監視と指導体制を確立強化します。

 アメリカ・カリフォルニア州のフランチャイズ投資法などでは、フランチャイズ事業を行なう者の登録を義務づけています。本部の情報開示や説明義務が遂行されているかどうかチェックするため、フランチャイズ事業は登録制にします。登録申請書には、必要な情報を記載し行政官庁に提出するものとします。

 あわせて、中小企業庁、公正取引委員会などの監視・指導体制を確立します。


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