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1999年4月15日 日本共産党
日本のダイオキシン汚染は、全国的なひろがりをみせ、深刻な事態になっています。ダイオキシンは、発ガン性なども指摘される有害物質であり、次代を担うこどもたちの健康に悪影響を及ぼすものとして、国民に大きな不安を与えているのも当然です。
環境庁が九七年六月に公表したダイオキシン類の大気中濃度の測定結果によると、日本の都市部は、欧米各国の都市部のほぼ十倍の濃度が記録されています。すでに大阪、兵庫、徳島、茨城、埼玉などのごみ焼却施設や、その周辺では環境庁の暫定基準値を大幅に超える高濃度の土壌汚染を引き起こしている事実があきらかになっています。また、母乳や魚などへの汚染の広がりがあきらかになっています。ダイオキシンによる汚染問題をめぐって、農作物の価格が急落する事態もおこるなかで、農産物への残留基準や損害への補償制度がないなど、ダイオキシン問題への行政の対応の遅れが浮き彫りになりました。
ダイオキシン類は、一兆分の一(ピコ)グラムから十億分の一(ナノ)グラムの単位というごく微量で、健康に影響を及ぼすことが懸念される有害な物質です。しかもダイオキシンは、自然環境のなかで微生物によってほとんど分解されず、酸やアルカリにも強いため、長期にわたって残留します。さらに排出されるダイオキシン量は微量であっても、生物間の食物のつながりである食物連鎖を通じて、生物の脂肪内で蓄積・濃縮されます。このように、ダイオキシン類は、その特性上対応が非常に困難な物質です。
それだけに、ダイオキシン類について、汚染状況、原因物質や発生過程、健康への影響や安全性、適切な処理方法などについての対策が急務になっています。国や自治体、事業者は欧米に比べて対策が大きく立ち遅れていることを直視し、この解決に全力をあげることが求められています。すでに汚染の事実があきらかになっている以上、手をこまねいて汚染を放置したまま、無責任に次世代に引き継がせるわけにはいきません。
日本共産党は、ダイオキシン問題を解決する方向として、(1)ダイオキシンの新たな発生をできるだけ未然防止するため、原因物質の使用を抑制したり、できるだけ”燃やさない”ごみ処理をすすめるなど、これ以上のダイオキシンの発生を防止する(2)すでに排出されたダイオキシンから、住民の健康をまもり、汚染の除去をすすめる(3)未解明な部分について、国・自治体が責任をもってその調査・研究に全力をあげる――という三つの面からの取り組みが大切であると考え、次のような法案の制定を提案します。
法案大綱一、ダイオキシンの発生を未然に防止する
特性上から対応が困難なダイオキシン対策は、焼却などによるダイオキシンの排出を極力抑えるとともに、ダイオキシンを発生させる原因物質の減量・リサイクルなど、いかに焼却せずにあらたな発生を未然に防止するかが重要です。
(1)国・自治体、事業者の責務としてダイオキシンの発生の未然防止を明記する。とくに、製造にかかわる事業者の段階から、使用・廃棄したさいにダイオキシンの発生の原因となる物質の生産を減らし、どうしても使わなければならない場合には、使用後回収して再利用をはかることで、ダイオキシン発生を未然防止する。
(2)工場または事業所における事業活動にともなうダイオキシン類の排出および浸透によって人命、健康に被害が生じた場合は、事業者が、無過失責任を負うことを明記する。
二、国と都道府県の責任で抜本的な対策をすすめる
ダイオキシン発生の未然防止と大幅な削減のために、国・自治体が責任をもって、取り組みを抜本的に強める必要があります。そのために国は総量削減基本方針をさだめ、都道府県では総量削減計画を策定し、対策を総合的にすすめます。
(1)国はダイオキシンの発生の未然防止と汚染除去のための基本方針を作成する。基本方針では、発生を未然防止する措置、総量削減の目標と施策、汚染の除去の目標と施策などを盛り込む。とくに汚染度が高い地域(特定地域)については、特定地域全体の総量規制の目標と施策を定める。
(2)都道府県で国の基本方針にもとづいて総量削減計画をつくり、総量規制基準を定める。特定地域については、一般的な措置にとどまらず、排出基準の上乗せ規制など、より強い対策がとれるようにする。
三、環境基準・規制基準を設定・強化する
欧米にくらべて、著しく緩い基準を抜本的に見直します。とくにWHO(世界保健機関)は、一日あたり摂取しても健康に影響をあたえないダイオキシン量(体重一キロあたり)の限度として四〜一ピコグラムを示しています。これも踏まえて、人の一日最大摂取量の基準を体重一キログラム当たり一ピコグラムとし、それにもとづいて排出ガス、排水、土壌の環境基準を強化します。基準がつくられていない焼却炉で発生する焼却灰・飛灰の濃度基準、食品の安全基準をつくります。
四、汚染状況を把握するための徹底した調査と情報の公開を実施する
汚染の事実が研究者等の努力で明らかになり、厚生省・環境庁等の調査もようやく始まったばかりです。全国の汚染状況を早く正確につかむことが、ダイオキシン対策にとって不可欠です。
(1)都道府県知事にダイオキシン類の汚染状況の調査、常時の監視、その情報の公開を義務づける。
(2)知事は、ダイオキシンが発生しまたは発生する恐れのある施設について、報告をもとめ立ち入り調査をする。
(3)事業者に、みずからの排出状況の測定と都道府県への報告を義務づけ、都道府県にはその情報の公開を義務づける。
(4)発生源の周辺およびそれによって汚染されているおそれのある地域で居住または就労している人の健康調査を義務づける。
五、自治体の権限を強化し、住民参加を徹底する
住民の命と暮らしをまもる仕事を第一とする自治体は、ダイオキシン問題に率先して取り組むことが求められています。そのためにも、自治体の権限を強化します。また、ダイオキシンの発生の未然防止は、住民の生活スタイルや営業に深くかかわっており、住民間の連携や、住民と自治体の協力は、対策を進めるかなめです。
(1)健康や生活環境に係わる被害が生じ、または生じるおそれがあるときには、施設の改善や施設の使用の一時停止を命じる知事の権限を明記する。
(2)知事は、都道府県の総量削減計画を達成するために必要な指導や勧告をする。
(3)知事は、特定地域には、排出基準の上乗せ規制など必要な対策をとるとともに、ダイオキシン発生源となる施設を新たにつくらぬよう規制することができる。
(4)この法律では、施設の改善命令や汚染の除去命令などに従わない者に対する罰則規定を設ける。
(5)この法律の規定にかかわらず、自治体が条例で必要な規制を定めることを明記する。
(6)都道府県で住民団体の代表をいれた総量削減協議会を設置し、削減計画を策定するさいに意見をのべる。また、特定地域を指定するよう、国に申し出ることができる。
六、汚染の除去と補償に取り組む
調査の進展とともに、ダイオキシンによる汚染の状況が各地であきらかになっています。汚染がとくにひどいところに関しては、汚染の除去が必要です。また、汚染による損害について、補償する仕組みも求められています。
(1)汚染者が明らかな場合は、当然、汚染除去(浄化)の費用負担をその汚染者にもとめるが、汚染がとくにひどい地域や汚染者が特定できない地域については国からの支出とともに、ダイオキシン類を発生させる事業者、及び発生施設の製造・販売業者からの特定賦課金によって「汚染除去基金」をつくって、汚染除去の費用をまかなう。
(2)ダイオキシン類の汚染による農林水産物の被害の補償については、事業者が生じた損害を賠償する。事業者が特定できない場合は、国・自治体が必要な措置を講ずる。
七、研究と技術開発をすすめる
ダイオキシンの毒性(複合汚染の場合も含む)、農作物への影響、原因物質の特定や、その発生のメカニズム、除去・無害化の技術など、解明すべき課題が多くあります。国は、ダイオキシン類の汚染の未然防止に必要な研究及び技術開発の推進と、その成果の普及に努める責任があることを明記する。
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