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平井哲史さん(弁護士)

「違法派遣――労働局に是正指導をするよう申し込みに行くとともに、労働組合に加入して団体交渉で直接雇用を」

 

 今回は、就職氷河期の問題を訴える声が多かったように思いますが、その中で、「何とかしてくれ」というだけでなく、積極的な政策提言がいくつか見られました。今度の選挙が待ち遠しいという声もありました。積極的に発言し行動をすることによって世の中を変えていけるし、変えていこうという意欲が見られ、頼もしく拝見しました。

 残業が月120時間をこえるときもあるけれども残業代は定額しかでないという声がありました。労働基準法に従って計算した金額よりも支給されている残業代が少なければ当然差額を請求できます。タイムカードなど機械的に労働時間が記録されているなら、そのコピーを持って労働基準監督署に相談に行けば、裁判を構えるまでもなく行政指導で解決する可能性が割りとあります。「人手不足」が根本原因にあるようですが、これについてはどういう働き方がよいのか、職場の労働条件はどうあるべきかを経営者も一緒になって考えてもらう必要があるかと思います。一人でそれを提案するのは大変でしょうから、仲間がつくれるといいですね。どうやったらいいのか労働組合に相談してみてはいかがでしょうか。

 省庁の外郭団体に5年も派遣で行ってるけれども正社員になれないとの声がありました。すでに3年をこえて派遣労働者を同一の業務に使用している派遣先がその業務に従事する労働者を雇い入れようとする場合は、派遣先はその派遣労働者に直接雇用を申し込む義務があります(40条の5)。他にも同じ境遇の方がいるとのことですから、そろって万一に備えて労働組合にあらかじめ相談してから、労働局に是正指導をするよう申し込みに行くとともに、労働組合に加入して団体交渉で直接雇用を求めるとよいでしょう。場合によっては裁判もありうるかと思います。なお、1点注意してほしいのは、派遣法は直接雇用の申し込み義務を定めていますが、キャノンなどに見られたようにたとえば3か月とか4か月の有期雇用にしておいて初回の期間満了で雇い止めという報復的措置に出てくることがありうることです。もちろん、そんなことは許されるべきではありませんが、どういう形態の直接雇用になるかは重要ですので、きちんと条件をつめていくことが大切です。

 このほかにレジで不足金が生じた場合に、レジを担当したバイトで全額弁償しろと言われたという声がありましたが、これは当時の事情にもよりますが、原則として全額を賠償する義務はありません。店の経営者の側で弁償を求めるなら誰が不足金を生じさせたかを特定する必要があります。また、仮に誰かがミスで不足金を生じさせたと特定できても、そういうリスクも込みで他人を使用しているのですから、ミスを防ぐための店の側の教育訓練等諸般の事情に照らして相当な限度でのみ賠償を請求できるにすぎません。

 また、たばこについて、職場での禁煙をこえてにおうから服を替えてこいと要求されるといった声もありました。私自身はたばこには嫌悪感を覚えますが、だからといって常識的なみだしなみの範疇をこえて私生活に過度に干渉する命令はやり過ぎと言えます。私の知り合いでも、職場外でも禁煙をしろと命じられた人がいましたが、労働者は契約により労務を提供するだけで身分的に隷属をするのではないのですから、このような封建的な命令には従う義務はありません。

 理不尽な要求を跳ね返すには仲間の存在が非常に重要です。職場のなかに(最初は無理なら職場の外からでも)仲間をつくり堂々と声をあげていけるようにしていきましょう。

※いくつか、個別に。

 母子家庭の女性から、「フリーランスでデザインの仕事をしていますが、ここ1ー2年、まったく仕事がとれなくなりました。安くてもお金が入るならとやらせてもらっていましたが、過酷な納期、対価の安さで疲労がたまり、ウツ病で自殺未遂もしたことがあります。」「いまは、月数万の児童手当だけが収入源です。」とありました。地元の共産党議員などに相談をしましょう。子育てで仕事が思うようにできなければ生活保護を受けられる可能性があります。

 また、「更正保護施設に入所しました。仕事の内容はアスベスト除去作業です。安全衛生教育を受けなければいけないのにそれをせずに仕事をさせられました。弁護士に相談するお金もありません。」という声も。各地で弁護士会の無料法律相談などが行われています。東京近郊なら、日本労働弁護団(03・3251・5363 火、木曜の3時〜6時)へ。

 面接のさいのセクハラ質問について、「結婚はいつするのか、彼氏はいるのか、彼氏はどこに住んでいるのか、婿をとるのか、など聞かれた」「彼に結婚しようって言われなかったの?もういい年だから結婚しちゃったら?」などいわれ、「悔しくて悲しくてやりきれません」と。各都道府県の男女雇用均等室に相談に行くようにしましょう。


プロフィール

ひらい・てつふみ

1969年生。1994年早稲田大学法学部卒。2001年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる分野として取り組む。個人加盟組織の出版情報関連ユニオン顧問。日本弁護士連合会憲法委員会幹事、第二東京弁護士会人権擁護委員会委員、自由法曹団事務局次長。一児の父。

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