「働くこと」って何なのでしょう? 私は、生活の糧を得るとともに、経済的に自立し自分の能力や自分自身を成長させるもの(であるべき)だと考えています。仕事を通じて、先輩から教わったり、仲間との協同によって1人ではできない大きな仕事をしたり、そしてその仕事の成果が誰かの役に立って、社会ともつながりを持つ(これがやりがい?)・・・「労働」って本来そういうものではないでしょうか?
なのに、皆さんの職場に、違法解雇やいじめ、差別待遇などがまん延していることに、本当に心が痛みます。
私は弁護士として大きな声で言いたいです。あきらめないでと。
労働法は労働者を簡単に解雇してはいけないと定めています。使用者には、いじめやセクシャル・ハラスメント、差別待遇のない働きやすい職場にするための配慮(措置)義務があります。
その他、私たちには居住権があり、生活保護制度も利用できます。
皆さんの声の答えるかたちで、いくつかご紹介します。
憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を否む権利を有する」(生存権)とあります。生活保護は、「最低生活費」以下の収入しかなく、生活に困窮している人なら、誰でも申請できます。年齢制限はなく、若いから申請できないことはありません。住民票のある自治体でなく、今いる場所の福祉事務所で申請できます。
「仕事を探しなさい」「若いから」などと申請書を渡さなかったり、受け取らないで追い返すところがありますが、これは違法です。福祉事務所には生活保護申請書を受け取る義務があります。
弁護士や支援団体、労働組合などで、申請に同行する援助を行っているところがあります。1人では不安な場合にはぜひ相談してください。
社宅や寮に住んでいて、「解雇と同時に寮も退去してください」と言われることがあります。しかし、雇用関係と居住権はすぐに連動するものではありません。
借地借家法は、住居の契約を打ち切る場合や更新しない場合、6か月の猶予を与えなければならないとしています。つまり退寮を通告した場合も、退寮まで6か月の猶予を与えなければならないのです。
また、後述するように、労働者を解雇することは法律が厳しく制限しています。ですから、「解雇は認めない。仕事をさせてほしい」と言ってすぐに退去する必要はありません。
(1) 解雇権の濫用は禁止
「解雇」は、法律上、「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当で」ない場合は許されず、無効となります(労働契約法16条)。
一般的に労働者は、仕事で生活の糧を得ており、雇用関係が続くことを前提に生活の基盤を形成します。労働者本人だけでなく家族の生活も同様です。ですから、労働者とその家族の生活を守るために、使用者の都合で簡単に労働者を「解雇」できないように法律が規制しているのです。
「些細なミス」や「能力がない」「協調性がない」という抽象的な理由では、「客観的に合理的な理由」があるとは言えません。
(2) 整理解雇の場合も
また、経営悪化による解雇(「整理解雇」)の場合も以下の4要件が必要です。
1.差し迫った人員削減の必要性があること(人員削減の必要性)。
2.解雇は労働者とその家族の生活に大きな打撃を与えるため,解雇は最終手段であり,希望退職募集や役員の給与カットなど,使用者が解雇回避するために経営上の努力を尽くしたことが必要です(解雇回避努力)。
3.年齢・性別等による転職の容易性の有無と程度,扶養家族の数など,労働者とその家族の生活を考慮した公正な解雇基準を設定し,かつその人選が公平であることが必要です(解雇基準及び人選の合理性。障害者や女性などをねらい打ちにした解雇は許されません。)
4.労働者ないし労働組合に対して,上記の人員整理の必要性の有無と程度,その要因,解雇回避措置の方法,解雇基準及び人選について,誠実に説明し協議を尽くしたことが必要です(解雇手続の相当性)。
このように見ていくと、新聞で報道されている大手企業の大量解雇は多くの場合違法だと思われます。
使用者の「責めにきすべき事由」による(使用者の都合による)休業の場合には、労働者は、休業中の賃金を全額請求できるのが原則です(民法536条2項)。
また、残業についても、労働基準法では原則として一日8時間以上、週40時間以上の時間外労働については時間外手当(125%の割増賃金、1か月60時間をこえる時間外労働は150%の割増、深夜労働については125%割増賃金を請求できます。時間外でかつ深夜に及ぶ時間外労働は150%の割増賃金となります)を支払うことを使用者に義務づけています。休日労働に対しても休日手当(135%割増賃金)を請求できます。
これらの時間外手当の不支給については、刑事罰が課せられています。
なお、解雇予告手当の不支給に対しても、刑事罰(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が課せられています。労働基準監督署に申告しましょう。
労働法も国の基本法である憲法も労働者の人間らしく働く権利を保障しています。それは、労働者の労働によって社会全体が成り立っており、1人ひとりの労働者の権利保障こそが、社会の安定と発展のために欠かせないからです。働く権利を行使することは、決して「わがまま」なことではなく、当然のことなのです。
「働く」ことが、労働者の幸せと社会全体の発展につながっていく、そんな社会であってほしいと思います。
■プロフィール
きし まつえ
東京弁護士会両性の平等に関する委員会副委員長、日弁連両性の平等に関する委員会委員。
東京法律事務所所属。
好きな言葉は「真実の力」。
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