1,今回寄せられたメッセージを拝見していて、痛感するのは仕事がない、という現実のひどさです。
私が弁護士として、日常仕事をしている中で痛感するのは、労働契約に関するトラブルは、労働者にとっては人格的な問題にまで結びついている場合が多い、ということです。仕事がないとか、クビを切られたとか、賃金をきちんと支払ってもらえないといった問題は、契約が成立しないとか、不当に解約されたとか、契約の内容が実現されないといったレベルの問題であることはもちろんですが、労働者はそれによって生活を支えている以上、使用者側による労働契約の否定は、自分の人格への攻撃、否定といったものにまで結びつきやすいのです。その意味で、心の傷も、大変深く大きいものがあります。そのような痛々しいコメントが多数寄せられているということに、「何とかしなくては」という思いを強くします。
2,その仕事がない、という現実は、実は経済、労働の政策によって意図的に作り出されたものです。その大きな証拠として、日本共産党が調査したパネルが話題になったことがありましたね。2003年の秋ころでしたか、志位委員長が使われていたもので、中小企業はこの不況下でも雇用を伸ばしているのに、大企業は何十万人という単位で人員を削減させている、というものでした。
前回ご紹介したように、大企業の側は、どんどん正規職員の口を減らしていき、それを契約社員、派遣、アルバイト、パートといった「非正規雇用」の人たちに置き換えていく手法を用いています。「仕事がない」という現実は,このような手法の結果生み出されたものです。
労働者は働かなければなりません。仕事がなければ、ハローワークなどで仕事を探します。しかしここでの仕事は、先の手法を反映して、「非正規雇用」の口ばかりが目立つ現状です。このような仕事でも、生きるためには選択せざるを得ない。「非正規雇用」が単に正社員でないということだけを意味するのであればいいのですが、現実には、「半人前」扱いされ、仕事内容は正規の従業員と同じ内容であるのに、賃金等の様々な待遇面で、差別を受けている現状があります。またそうであるからこそ,企業がこのような人員の使い方を利用するといえるのです。
3,このような現状を変えるために、いくつかの法的な規制について私が感じることを思いつくままに上げてみましょう。
まずは、大企業に人員維持についての指導を行政が強化することです。大企業は、例えば、これまでの事業部門を子会社をつくってそこへ営業譲渡し、その際、当該部門の労働者をリストラして、新規に非正規雇用の社員を雇ってそれらの人たちでまかなったりする場面があります。そのようなことがないよう、子会社の設立や事業認可の際に調査を行い場合によっては認可しないくらいの措置をすべきだと思います。また、法律としては、有期契約の雇い止めに対する規制を含む解雇法制の強化することが求められます。
次に、非正規雇用の差別禁止です。オランダでは、労働契約上の身分を理由として賃金その他の労働条件で正規と非正規の差別を行ってはならないという法律ができたそうです。このような意味での差別禁止法が必要です。これによって、例えば派遣の人には交通費が出ないといったような問題を解消できればと思います。
それから、最低賃金法にかかわる賃金の底上げ。また、賃金の日給払いをなくし、月給制にすることなども、制度化が求められることではないかと思います。日給制だと、アルバイトの職員などがシフト差別を受けたりした場合賃金面で不利益を強いられるからです。
そして、派遣法の規制の大幅強化です。派遣期間を逸脱した場合の派遣先による直接雇用の規定の義務化や、派遣元、派遣先に現在指針として示されている内容を義務化していくだけで、労働条件の大幅な改善が見込めると思います。
■プロフィール
ささやま・なおと
1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)。
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