1,労働基準監督署等に対する申告について
今回もこのホームページに皆さんから寄せられたコメントを拝見させて頂きました。皆さんのコメントの中で、行政機関に対する申告についてのコメントがいくつかありましたのでそれについてまず述べます。
労働者は、労働関係においてトラブルが発生した場合、その解決を裁判所や弁護士に依頼するほか、行政機関に持ち込んで解決することができます。これらの行政機関は、憲法に定める国民の勤労の権利(27条1項)を充実させる観点から、国や地方自治体がもうけている機関なのです。
持ち込む先の行政機関としては、労働委員会、労働基準監督署、各都道府県に設置されている国の労働局、その他都道府県が設置する労働問題の情報発信や調査やあっせんを担当する労働相談窓口(たとえば、東京都の場合、東京都労働相談情報センターという機関がありますが、一般には「労働センター」「労働事務所」といった名称で設置される例が多いようです。)が考えられます。このうち労働委員会は、労働組合に対する使用者の不当な行為の是正を審査する機関ですから、個人での利用はしにくいですから、なじみが深いのは、労働基準監督署、労働局、都道府県の労働相談窓口ではないかと思います。
労働基準監督署は、労働社会の警察の役割を担う役所です。労働基準監督官は、労働基準法違反などの法令違反の実態がないかを調査し、その是正の申告を行うことができ、違反については警察と同様捜査をして処罰を検察に求めることができる役所です。労働者のみなさんは、監督署に行って是正の申告手続きというのを行い、その行政の是正指導や勧告の結果として問題を解決できる場合があります。
労働局は、労働問題の実態の調査や広報のほか、労働者派遣法違反については、労働者が厚生労働大臣に申告手続きをとることで労基署同様の対応を期待できます。
都道府県の労働相談窓口では、当事者間の間に入って解決のための仲裁をしてくれるあっせんなどを行っています。
労働者のみなさんは職場におけるトラブルがあったとき、これらの行政機関に事件を持ち込んで相談し、行政機関に事実を調査してもらい、あっせんの中で解決のために使用者を呼び出して話し合いの席を持ってもらうといった対処をとってもらうことができます。
これらの機関を利用するメリットは、行政機関として労使の紛争の仲裁を無料でしてくれることです。デメリットとしては、強制力がないため、使用者が任意に話し合いに応じない場合の解決には結びつかないことがあげられます。
2,これらの制度の問題点
これらの制度活用における実際上の問題点は、行政機関が実効ある解決のためになかなか踏み出しきれない実情があることです。労働基準監督官はあまりに数が少なく、寄せられる労働関連法規違反の職場の実態があまりに多いことに対処しきれず、なかなか一つ一つの事件についての十分な調査と、是正に向けた行為に踏み出せていないのが実態です。労働基準監督署が、労働関連法規違反を理由として送検するといった事態もなかなか認められません。また労働局も、派遣法違反の実態を調査し適切な是正を行うということもなかなか行えていないのが実態です。
労働監督行政を強化するための機関や職員の抜本的増強が政策として求められると思います。共産党は、10月24日に発表した青年雇用問題政策で、「若者の雇用と権利、労働条件をまもる行政施策を抜本的に充実する」をかかげていますが、このような視点は極めて重要です。
■プロフィール
ささやま・なおと
1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)、『「働くルール」の学習』(共著、桐書房)。
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