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笹山 尚人さん(弁護士)

労働者派遣をはじめとした間接的な雇用形態の労働者の人権の発展を

写真1,ホームページに寄せられたコメントを拝見しました。今回は、労働者派遣問題の非人道性を告発する声が多かったように思います。そこで、労働者派遣をはじめとした間接的な雇用形態についてコメントしたいと思います。

2,労働者派遣とは、労働者がある企業と労働契約を締結するのですが、そのある企業が労働者派遣契約を締結した相手であるところの別の企業の指揮命令に基づいて、労務を提供する働き方です。賃金は契約した企業からもらうし、就業規則など、労働条件は契約した企業との間で取り決めを行うけれども、実際に働くのは、別の企業においてであり、その企業の指揮命令に従う場合をいうのです。

3,労働法は、本来、労働契約を締結する際と、現実に契約を遂行している間に関して、労働者と使用者の二当事者のみが登場することを想定しています。職業の紹介や、派遣のように契約先と就労場所との当事者が異なるような場合は、中間搾取が起こってしまい労働者にとって不利益が大きいので労働者保護の観点からふさわしくないと考えているのです。その精神は、労働基準法第6条、中間搾取の排除の規定に盛り込まれています。

 ところが、この第6条自身が、「法律に基づいて許される場合の外」としているように、例外が認められている点が問題で、職業安定法に基づく有料職業紹介事業や、労働者派遣法に基づく労働者派遣などが認められてきているのです。

4,このうち、労働者派遣については、1985年まで、法律がなかったので禁止をされてきました。中間搾取の禁止の原則が20年前までは生きていたのです。しかし、労働市場の現実のニーズが高まるに連れ、労働者派遣法が制定され、ついにこのような働き方が許容されました。しかし労働者派遣法は、あくまで「臨時的、一時的な労働力の補充」として労働者派遣を認めているため、導入には様々な規制があります。労働者派遣法改正の歴史は、この規制を緩和したいという産業界のニーズと、原則を守ろうとする労働者側のせめぎ合いの歴史でした。

 2003年の派遣法改正で、ついに禁止されていた製造現場への派遣が解禁され、派遣期間も一般臨時的派遣が1年から3年まで拡張されました。しかし、産業界は、派遣開始以前の面接の可能化など、さらなる規制緩和を目指しています。

5,みなさんのアンケートにあるのは、このような労働者派遣の増大が、都合の良いときだけ「お前らは臨時だ」と言って、賃金を安くしたり、社会保険に加入させなかったり、といった差別を蔓延させ、その中で、派遣会社がみなさんの労働からのピンハネによって「濡れ手に粟」を得ている、という深刻な実態です。私は、このような現実を何とか変えたい。それをライフワークにしています。

6,さしあたっては、労働者派遣法40条の3,同4,同5を活用することによって派遣社員を正社員にしていくたたかいが進んでいます。また、労働者派遣法の存在する現実の中でも、労働者派遣法を厳守させ、また、労働組合の団結の力で時給をあげさせたり、雇用をつなげたりしている経験もあります。長期的には、労働者派遣法のような雇用形態をなくしていけるような、そのような制度作りを目指したいと思います。

7,労働者派遣のほかにも、店員派遣や、有料職業紹介、派遣の偽装形態である「請負」「業務委託」といった間接的な雇用形態にある労働者の人権の問題があります。日本共産党が、「若者に雇用を!」の取り組みの中で、このような雇用形態にあえぐ青年労働者のために奮闘しているのは大いなる希望であると思います。                    


プロフィール

ささやま・なおと

1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『フリーターの法律相談室−−本人・家族・雇用者のために』(共著、平凡社新書 05年10月発行 760円)、『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)、『「働くルール」の学習』(共著、桐書房)。

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