日本共産党

2002年9月17日(火)「しんぶん赤旗」

北京の五日間(1)

中央委員会議長 不破哲三

出発まで


 今回の中国訪問は、実は三年来の懸案だった。両党関係を正常化して北京を訪問し、江沢民総書記と首脳会談をしたのが、一九九八年七月。その翌年から、訪日した中国の党幹部と東京で会談するたびに、訪中の招待を受けたが、なかなか日程の都合がつかず、私としては心苦しい状態が続いていた。

八月下旬、中国側の党大会直前の訪中と決まる

 今年の三月、緒方靖夫国際局長(参議院議員)が中国の南京で開かれた歴史問題での国際会議に招待されて参加し、そのあと北京にまわって中国共産党の中央対外連絡部(以下、中連部と略称)を訪ねたところ、王家瑞副部長(筆頭)から、私の訪中についてあらためて「今年の七月〜八月」という日程が提案された。“そこまで具体的に煮詰まっての話なら”と考えて、八月下旬というより具体的な日程を提起し、結局、八月二十六日〜三十日の訪中が決まったのだった。秋には、中国共産党の第十六回大会の開催が予定され、大会準備のためのいわゆる「北戴河会議」が七月から八月中・下旬にかけて開かれると聞いていた。だから、この日程は、中国側としては、「北戴河会議」が終わった直後のなかなか忙しい時期ということになる。

 訪問の内容としては、私の方からは、最初から「首脳会談と理論交流」という話をしていた。窓口となった中連部は、それにくわえて地方旅行もどうかとしきりに提案してきた。多くの政党の場合、こういう日程が慣例になっているようだが、あくまで「会談優先」ということで、ていねいにお断りした。

 「理論交流」は、党中央や社会科学院(中国の社会科学各部門にわたる研究機関)の理論研究者との交流で、私の生まれてはじめての海外での学術講演「レーニンと市場経済」もふくむことになった。この主題を選ぶきっかけとなったのは、三月に緒方さんが南京で社会科学院の何人かの研究者と会ったさい、「不破さんの市場経済論を聞きたい」という声があったことを聞いていたからである。

四年間の交流をふまえてより発展的な首脳会談を構想

 前回一九九八年の訪中では、私は、日本と中国の平和・友好関係を安定的に発展させる基盤となるものとして、「日中関係の五原則」を提唱したほか、当面するいろいろな問題について話し合った。しかし、なにしろ両党関係には、「文化大革命」中の毛沢東派の干渉攻撃によって関係が断絶してから三十二年の空白があり、双方が初対面という状態にあったうえ、時間的にも、変化したアジアと世界の諸問題について十分に意見を交換するだけの余裕はなかった。

 それから四年のあいだに、両党のあいだでは、たがいに相手の党の状況を研究しあうための「研究代表団」を派遣しあったのをはじめ、私自身も、訪日した中国の党・政府の幹部――江沢民総書記や朱鎔基首相・政治局常務委員、李瑞環政治局常務委員、黄菊政治局委員、呉官正政治局委員、曽慶紅政治局委員候補、唐家セン外相をふくむ――と東京で一連の会談をかさね、たがいの政治的状況にもかなり通じ合うようになっていた。今回は、そのこともふまえて、当面の重要問題や二十一世紀論について意見を交換したい、そう考えて、日程もほぼ決まった八月初めごろから、訪中の準備にとりかかった。

訪中の性格を一変させた「十二項目」

 そのときである。八月八日、訪中の内容を一変させるような連絡が、中連部から、ファクスでとどけられた。そこには、今回の訪中のなかで、首脳会談を中心に、つぎのような項目について意見交換したいとして、つぎの十二項目があげられていた。

 一、両党関係および両国関係について。

 二、国際情勢および地域情勢について。

 三、国際共産主義運動の現状と見通しについて。

 四、現代資本主義と経済のグローバル化について。

 五、日本の政治・経済情勢について。

 六、両国関係を発展させることについて。

 七、アメリカの国際戦略調整について。

 八、ソ連・東欧崩壊の教訓とその影響について。

 九、日本共産党の党建設の現状と経験について。

 一〇、社会主義の現状と見通しについて。

 一一、西ヨーロッパと日本の政治的右翼化について。

 一二、主要資本主義国における社会主義運動について。

 これは、日本と中国、そして世界が当面している諸問題について、全般的な意見交換をしたい、という提案である。

ワープロ三十枚のメモと大学ノート四冊

 この十二項目の内容は、今回の訪中のために私が準備していた問題の範囲をはるかにこえていた。私も、一九六〇年代から現在まで四十年近い期間に、外国のずいぶん多くの党と会談をやってきたが、これだけ包括的なテーマで会談したり意見交換をしたという経験は、一度もない。

 それだけに、その内容からは、今回の訪中にたいする中国側のなみなみならぬ意気込みが感じられたし、概括的な表現ではあっても、世界と日本の諸問題にたいする関心の角度も読みとれるように思えた。

 これに対応するためには、訪中の準備の大幅な発展的展開をはかる必要がある。私は、同行する筆坂秀世書記局長代行・政策委員長(参議院議員)、緒方さん、庄子正二郎中央委員・「しんぶん赤旗」編集局次長と討論し、党本部の関係各部門にも必要な資料を発注し、提起された十二項目の問題点をあらためて研究する作業をはじめた。これは、私にとって、世界的な諸問題を新しい角度から見直す絶好の機会ともなった。

 研究の成果は、学術講演関係のメモと資料は別として、ワープロで三十枚のメモと、素材的な資料を張り込んだ使い古しの大学ノート四冊にまとめられた。これで準備は完了である。(つづく)

 


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