2002年10月1日(火)「しんぶん赤旗」
北京に到着して三日目、今日の午前は、「中関村(ちゅうかんそん)科技園区(サイエンスパーク)」の訪問である。
訪問先は、ハイテク技術をはじめ、中国の技術開発の文字通り最前線に立つ地区で、開発は一九八八年に始まり、現在すでに七十の大学、二百を超える研究機関、一万一千社のハイテク企業が集中している。しかし、「中関村科技園区」という名称および開発の大方針が決まったのは一九九九年、必要な条例や組織をととのえたのは二〇〇一年一月というから、本格的な開発としてはまだ最初の段階にあるといって、よいのだろう。
出発前に読んだ『文芸春秋』誌の八月号に、ちょうどこの地区を紹介した文章が出ていた(「シリコンバレー中関村ルポ」)。また、電子工業界のある企業の中国事業戦略室が出した小冊子『中国市場環境』を拝見したら、「北京中関村の状況」という大項目を立ててその全ぼうが詳しく解説されていた。日本でも、大きな注目が寄せられつつあるようだ。
車が地区に入ると、建設中の工事現場があちこちに目立つ。まさに開発ラッシュ、砂ぼこりのなかにも明日への息吹の感じられる情景だ。
まず案内されたのは、「中関村国際孵化(ふか)園」。海外への留学から帰ってきた科学者・技術者がベンチャー企業を起こすのを、援助する施設である。若い新しい企業家を育成するから「孵化園」というわけで、なかなか愉快なネーミングだ。
出迎えてくれたのは、「科技園区」管理委員会の夏潁奇(かえいき)副主任、さっそくビデオを使って、「孵化園」が、若いベンチャー企業家たちを援助するために、どんな事業をしているかの説明に入る。ビデオの一こまに、卵が孵(かえ)るイラストがあるのには、笑いを誘われた。
海外に留学・流出した“頭脳”は約四十五万人、そのうち帰国した“頭脳”は約十五万人、中国はまだまだ豊富な潜在的“頭脳”を海外に持っている勘定になる。
ここのスローガンは「鼓励成功、容認失敗」。「鼓励(これい)」とは、「鼓舞激励」のこと、“成功を鼓舞激励する”というのは普通だが、それに“失敗を容認する”、つまり、「失敗を恐れるな」が加えられているあたり、ベンチャー精神をよく考えた気配りである。
この施設の援助を受けて、去年一年間に立ち上がったベンチャー企業の数は、三千六十社。そのすべてが成功の軌道に乗るわけではなく、「失敗を容認」せざるをえなくなる企業も出るだろうが、この数字に示された活力には、たいへんなものがある。
さきに紹介した小冊子『中国市場環境』によると、この「科技園区」に立地している企業の全体が、「官製ベンチャー」(つまり政府系の企業)、「外資系企業」、「民間ベンチャー」(海外留学組など新世代による起業)に、三分類されている。「国際孵化園」は、その三番目、「民間ベンチャー」を発展させるための、根拠地といえるのだろう。(つづく)